シンガポールの朝食文化を体感できるカヤトースト
有楽町駅から歩くこと1分。コンサートや各種イベントが行われる東京国際フォーラムがある。ホールCの入り口にシンガポールのファストフードチェーン『Ya Kun Kaya Toast』を見つけた。
店の入り口のメニューを見ると、ここでは“カヤトースト”とやらが食べられるようだ。メニューを開発したのが“カヤさん”なのかな? 写真を見るとカリカリのトーストがおいしそうだったので店に入り食べてみることにした。
社長の荻原紀彦さんに話を聞いた。
「弊社は居酒屋が母体なんですけども、シンガポールに住んでいた弊社の創業者が『Ya Kun Kaya Toast』の社長と親交があり、『日本でフランチャイズをやってみないか?』という話をいただいたんです。そして2023年、ご縁があって東京国際フォーラムに日本第1号店をオープンしました」
『Ya Kun Kaya Toast』は1944年に創業し、以降シンガポール全土に70店以上を展開している人気店だ。
「名物・カヤトーストはシンガポールのソウルフードなんですよ。現地では朝食を外で楽しむ文化が発達していて、みんな屋台みたいなところでご飯を食べてから仕事に出かけます。カヤトーストと半熟卵を食べながらコンデンスミルク入りのコーヒーを飲むのが朝食の定番。日本ではまだまだ知られていませんけど、シンガポールでカヤトーストを食べたことがある人たちに“懐かしい”と言っていただくこともあります」
シンガポールには行ったことがないけどソウルフードに興味津々。どんな味か想像できないからぜひ食べてみたい!
カヤジャム&半熟卵が生み出す究極の甘じょっぱさがたまらない!
オーダーしたのはカヤトーストセット950円。ちなみにカヤジャムとは、ココナッツミルク、卵、砂糖、パンダンリーフから作られたもので東南アジアでは広く好まれているらしい。カウンターの中に入り、調理している様子を見せてもらった。
「カラメル入りの薄切りパンを焼きます。このパンはパサパサなほうが現地に近いので、パン屋さんと何度も試作して開発しました。厚さ8ⅿⅿというのも現地に倣っています」
トースターはベルトコンベア式になっていて、トンネルの中に入ると電熱でパンが焼かれ、反対側に着くころにはこんがり焼けて出てくる。工場見学みたいで面白い。ずっと見ていた〜い!
カリカリに焼いたトーストにバターとカヤジャムをたっぷりと塗って重ね、半分に切る。この段階ですでにおいしそうだ。「カヤジャムは現地から輸入し、トーストの薄さや調理工程、食器類まで本国のままリアルに再現しているんですよ」。開店前に現地のスタッフが来日し、厳しいチェックを受けたそうだ。
荻原さんの話を聞きながら、調理を担当していたスタッフのカワノさんがカヤトーストセットを手渡ししてくれた。ああ、笑顔がまぶしいっ!
特別に社長自ら食べ方を説明してくれた。
「まずは半熟卵にソイソースをかけます。甘じょっぱいダークソイソースと、日本の生醤油のようにサラッとしたライトソイソースがあるんですけど、ダークソイソースのほうがおすすめです。スプーンで卵とソイソースをよく混ぜ、カヤトーストをディップしながら食べてください」
せっかくなので現地のようにテラス席で食事をしてみよう。
ほほう、半熟卵をソースにし、そこへカヤトーストをつけて食べるというわけか。まずはカヤトーストを食べてみると、クリーミーで甘く、バターがほどよく溶けてミルキー。カヤジャムにはココナッツが入っていると聞いたので、もっとトロピカルなのかと思ったが、まるでカスタードクリームのようだ。
だけど、ここへしょっぱいダークソイソースとコショウを入れた卵をつけちゃうの!? 大丈夫かな……。心配しつつもせっかくだからたっぷりつけて、と。
えーい、ままよ!
あら、あら、あら! すんごくおいしい。個人的には今年いちばんの甘じょっぱフード。トーストのカリッとした食感もいいし、甘じょっぱい中にもコショウのスパイシーさやバターのコクもあって面白い。それぞれのキャラは立っているのにうまく調和しているというか。トーストが香ばしいのはカラメルが入っているせいもあるのかな。現地の人は卵をもっとたっぷりつける人もいるそうだから、次は1個追加してもいいかもしれない。
優しい甘さのミルクコーヒー・コピは体が温まってほっこり。ああ〜、おいしかった。
カヤトーストで日本とシンガポールの架け橋になれたら
忙しい日本人にとって朝にサッと食べられるカヤトーストはウケるはずだと思うが、荻原さんは「まだ認知度は低く、カフェタイムの利用がほとんどです」と話す。荻原さんは有楽町周辺にもシンガポールのような朝食の習慣を根付かせたいという思いで営業してきた。
「仕事を通じて知り合ったシンガポール人から食事会に呼ばれたり、シンガポールのホテルの開業イベントでは会場で実演販売をさせていただいたり、私自身、このお店を通じてシンガポールとのつながりがすごく強くなったと感じているんですよ。毎年9月にシンガポール大使館で独立記念日のイベントがあるんですけど、そこでもカヤトーストを提供させていただきました」
「シンガポールの方々はとっても日本に好意的ですし、コミュニティを大切にしているんです。この店を通じて、シンガポールと日本の架け橋になれたらと思っています」
シンガポールといえば、マーライオンと海南チキンライスのイメージしかなかった筆者だが、“ソウルフードはカヤトースト”というキーワードがしっかり頭に刻み込まれた。いつか本場でも食べてみたい。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢