外国人客も急増中! 1983年創業の喫茶店『アメリカン』
歌舞伎座に面したにぎやかな晴海通りからぐるりと裏手に回ると、1983年創業の喫茶店『アメリカン』がある。緑のテントに大きく「SANDWICH」と書かれ、店名のロゴも懐かしい雰囲気なのですぐにわかった。
手書きの文言や佐賀のポスター、取材に来たテレビ番組のステッカーが貼られ、店頭から情報の洪水! 珈琲のうまい店と書かれた木のドアが期待感をあおる。ひとつずつ読みたくなるのをこらえて店内に入った。
迎えてくれたのはマスターの原口誠さん。佐賀県出身のマスターは大学を卒業後、外資系の時計メーカーに勤めるも社風が肌に合わず2年で退社。そののち大手食肉加工メーカーの営業マンとして30歳まで勤めたが、やはり退社してしまう。
「オレらの時代はいい会社に入って定年まで勤め上げるのが最良とされていたけど、自分にとっては会社っていうものがどうにも窮屈で合わなかったんだろうね。だからひとりで何かやってみようと思ったんだけど、前職ではよく仕事でサンドイッチを作っていたりもしたから喫茶店をやろうと。オフィス街でOLさんをターゲットにしたいと物件を探し、何軒も不動産屋さんを巡ってやっと見つけたのがココでした」と話す。
原口さんの読みは当たり、開店当初から人気店になった。「はじめはケーキとかも出していたんですよ。昔はどこの会社も土曜日はお昼で仕事が終わりだったから、午後からお茶をしにくるOLさんでいっぱいになったもんです」と当時をふりかえる。
店内には壁や天井を埋め尽くすほどいろいろなものが貼ってあり、話を聞くとこれらはすべてマスターが大切にしているものと知った。この店がいわばマスターにとっての宝箱なのだろう。
現在は名物のサンドイッチが世界中に知れ渡り、日本人だけでなく世界各国からこの店を目指してやってくるそうだ。「CNNが取材に来たことが誇り」とマスターはにっこり。マスターを筆頭に娘の真実さんのほかスタッフ4人で店を盛り立て、40年以上東銀座の名物として君臨している。
1日2回工場直送! 切り口から湯気が立つほどアツアツの食パン
営業時間は8時30分からと11時30分からの2部制になっており、それぞれの開店時間に合わせて『新橋ベーカリー』の工場から焼きたてのパンが直送される。これは、「炊きたてのご飯が最高においしいのと同じで、パンも焼きたてがウマイ」というマスターのこだわりだ。
時間になると配達トラックがやってきて、スタッフ総出で次々とパンを厨房の中に運んでいく。
いくら焼きたてパンと言っても、粗熱を取ってから運ばれてくるのが一般的だが……この店は違った! 「あったかいから持ってみなよ」とマスターが言うので、軽くパンに触れてみたら。アッッッッッチィッ! 素手では持っていられないくらい熱い。このアツアツのまま冷たい具材をはさんでいくのだ。
ものの5分で入荷は完了。すでに店内は満席になっており次々とオーダーが入ると、にこやかだったマスターの目がキリリと引き締まる。この店のサンドイッチはマスターしか作ることができず、客席に目を配りながら面白いようにサンドイッチを仕上げていく。パンでいっぱいだった棚があっという間にスカスカだ。
盛りすぎ〜。お持ち帰り必須のタマゴサンド
オーダーの8割はタマゴサンド900円。この店の名物を食べずに帰れるか! というわけで、カフェオレ700円と一緒に注文した。
それにしてもパンの厚みとタマゴサラダの量にびっくり。こんなに山盛りにしたのはどうして?「最初はパンも薄くてトマトやレタスを入れたふつうのタマゴサンドだったの。だけど野菜から水が出てベチャベチャになっちゃうし、めんどうくさいなと思ってこうなった。それで、昔は卵ってすごく原価が安かったから、ほかのメニューと同じ金額なのは悪いなと思って山盛りにしちゃった」。エヘヘと笑う原口さんだが、想像を絶する量だ。
ほかのメニューも十分なボリュームなのだが。いかんいかん! 目が慣れてきてフツーに見えてきた。それもこれも、儲けは度外視で、みんなにお腹いっぱい食べてもらいたいというマスターの強い想いからこのようになっていったそうだ。
テーブルに運ばれてきて、どうやって食べようか迷った。持ち上げてみるがずっしりと重くてタマゴをほとんどこぼしてしまいそう。まずはパンの耳をそーっと引き出し、山盛りのタマゴサラダを乗せて食べてみた。
んん〜! ふんわりもっちりとしたパンはきめ細かくて、これだけでも十分においしい。マスターが冒頭で「炊きたてのご飯みたいな」という表現を使っていたけどこれには納得。パンを表現するのには不似合いだけど瑞々しさがあり、焼きたてだから香りもいい。ほんのり甘いパンと、たっぷりのマヨネーズで和えたゴロっとしたタマゴサラダ、シンプルだけど飽きない〜。
「永遠に食べられるわ〜」と喜んでいたのだけど、もうひと皿「どうぞ〜」と運ばれてきてびっくり!
ジューシーなハンバーグがパワフルで、ひとつ食べたらかなりおなかいっぱいになった。友達と来たなら絶対に違うメニューをオーダーしてシェアして食べるべし。おいしいものには目がない筆者だが、ふた皿の山盛りサンドイッチは完食できなかった。でも、ご安心あれ。『アメリカン』では、オーダーをするともれなくお持ち帰り用パックとビニール袋がもらえるのだ。
店内には男性も多いのだが、ほとんどがお持ち帰りをする。パンが冷めてもおいしいけれど、やっぱり店内で食べるのが一番。いつも行列必至だが「並ぶ時間がないときはテイクアウトもアリ」と愛用のメモに書き添えて店を後にした。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢