大森で愛されるパティスリーになるまで
『ル ガリュウM』の店主・丸山正勝さんは代官山のレストラン『小川軒』を経て、フランス菓子の道へ。フランスで修業を重ね、帰国後も『ルコント』や『トロワグロ』など、フランス菓子の有名店で経験を積み、2005年に『ル ガリュウM』をオープンした。一見フランス語に聞こえる店名だが、実は日本語の「我流」をもじったもので、Mは丸山という苗字が由来。フランス菓子の伝統を守りながら、丸山さんならではの新しさを加えていくことがこだわりだという。
今回は、販売のマネージャーを務める蜂須賀美緒さんに話を伺った。
「お店のコンセプトは、モダン&アンティーク。フランスの伝統菓子を継承しながら、モダンで新しいものを取り入れつつ、他のお店では扱われないフランスの伝統菓子も楽しむことができます。内装も建物のモダンな雰囲気に、アンティーク調の家具を並べています」
2階には、買ったばかりのケーキをその場で食べられるカフェスペースも。もちろんスイーツに合わせてドリンクも楽しめる。ブラウンウッドの心落ち着く空間で、こだわり抜かれたケーキを味わう時間は、日常を忘れる特別な時間となるだろう。
モダンから伝統まで、バリエーション豊富
ショーケースに並ぶケーキは、丸山流の味を表現したモダンさを感じるスイーツから、シンプルながらかわいらしい見た目の伝統的なフランス菓子まで並ぶ。
今回は丸山流を表現した人気No.1のいちごのモンブラン637円をセレクト。サンタの帽子のような見た目と粉砂糖がかけられた薄ピンクが愛らしい。モンブランと言えば栗のケーキだが、なんと栗は不使用だという。
「モンブランクリームの濃厚さを苺で表現できないかと考えて、作られた商品です。濃厚な舌触りを表現するために、実は上新粉を使っているんです。ムースのようななめらかで溶けるような質感ではなく、苺の濃厚な味わいが舌にのこるような少し重めのクリームになっています」
崩すのもはばかられる美しさのある見た目にフォークを差し込み、一口食べてみると濃厚な苺の味わいが口に広がる。中には甘酸っぱいいちごジャムと甘めのクリームが重ねられ、土台になるスポンジ生地には、ココナッツのような食感も。苦めのブレンドコーヒー・ガリュウブレンドと合わせて食べると、どちらの味も引き立つ。
続いて、フランス伝統菓子の一つであるタルトタタン616円を注文。タルトタタンはじっくりと焼き込んだ、りんごにパイ生地を重ねて焼き上げたフランスの伝統菓子だ。表面にはツヤツヤのカラメル、中には食感を残し、ほのかな酸っぱさを感じるりんご、下にはバターの味わい豊かなパイ生地が。パリッと割れるカラメルと煮詰められたりんごを合わせて食べると、カラメルの香ばしい甘さとりんごの酸っぱさがベストマッチ。シンプルで優しい味わいに思わず手が止まらなくなってしまう。
「『ル ガリュウM』では、フランスの伝統菓子を数多く扱っています。例えば洋酒を染み込ませたケーキのサヴァランや、メレンゲと生クリームでできたムラング シャンティなど。最近他のお店でも扱われるようになった、年始に食べられるフランス伝統のガレットデロワはオープン当初から作っています。フランス伝統菓子が、長く愛されるための一助になれたらと思っています」
続いて、焼き菓子のなかで人気No.1の山王メープルをいただく。豊かなメープルの風味がなんともおいしい。下にはくるみが隠れており、香ばしさと食感も楽しめる。
「焼き菓子は伝統的なものも多く並べていますが、地域に愛される代表的な商品を作ることを目指して山王メープルを作りました。優しいメープルの甘さで、子どもからお年寄りにまで愛されています」
商品開発のインスピレーションはお菓子以外から
『ル ガリュウM』では、季節ごとに新商品を開発している。そのどれもが、丸山さんのインスピレーションが反映された味わいと造形を持つケーキだ。オープンから19年、商品開発のインスピレーションはどこから生まれるのだろうか。
「お菓子とは別のジャンルの料理や、お店の商品や包装紙、美術館、建物など、生活の中で見かけたものを自分の商品開発の引き出しとして記憶しているようです。そういった蓄積したものを踏まえて、丸山流の商品を生み出しています」
フランス菓子の伝統を守りながら、我流を組み合わせて発展させていく。オリジナルの商品を生み出していくためにインプットを欠かさない。丸山さんがモダン&アンティークというコンセプトに込められた熱い想いを感じる。
カフェスペースを併設したことも、丸山さんのこだわりの一つ。ケーキ一つ一つが繊細だからこそ、その場で食べてもらうことがベストだという考えがあるという。
そしてカフェスペースにも注目。食器はすべてデンマーク生まれのブランド・ロイヤルコペンハーゲン。細かい青の染付にレースのような装飾が美しく、使用しているだけでなんだか非日常を感じられる。丸山さん自身、エスプレッソが好きということもあり、ブレンドは苦めでコクのある味わいだ。
カフェスペースは5つのテーブル席とカウンター席。フランスで活躍したミュシャの絵も飾られている。丸山さんがさまざまな場所で積んできたフランス菓子の経験や文化に対する想いが感じられる空間。この場所でケーキを味わいながら、特別な時間を過ごして欲しいという願いが込められている。
実はお店の建物選びにもこだわりが。独立に向けて物件探しをしていたときに、偶然現在の建物を見つけたそう。建物のオーナーに掛け合い、実際にケーキも見せるなど面接を重ね、契約に至った。絶対にこの場所でやりたいという強い想いがあったのだとか。
「もともとモダン&アンティークというコンセプトが決まっていたので、そのイメージに合う物件を探していました。閑静な住宅街にあり、お店が面する道も広い。ガラスとコンクリートのモダンな雰囲気もイメージにあっていました」
丸山さんが見てきたフランス菓子の伝統と文化から反映されたこだわりが随所に感じられるパティスリー『ル ガリュウM』。
美しい見た目のモダンなケーキもシンプルなかわいらしさを持つフランス伝統菓子、どちらも丸山さんのスイーツに対する優しい眼差しを感じる味わいだ。非日常な空間で、自分へのご褒美としてゆったりとした時間を過ごせるだろう。
/定休日:火・水/アクセス:JR京浜東北線大森駅から徒歩10分
取材・文・撮影=古澤椋子