スタイリッシュだけれどあたたかい空間

店内に入ると、天井の高さに驚く。客席部分は2階まで吹き抜けになっていて、建物の柱や梁が見える。店自体は特別広いわけではないにもかかわらず開放感を感じるのはそのためだ。

「この天井がいいね、とよく言っていただきます。すごくぜいたくな空間の使い方ですよね」と、マネージャーのエミさん。

ここはもともと歯科医だった木造建築で、オーナーのこまつさんが手掛ける古民家再生事業の一環としてリノベーション。洗練されたデザインのなかに当時の名残もあり、どこかあたたかみのある空間だ。

入り口左側には歯医者さん時代の面影も残っている。
入り口左側には歯医者さん時代の面影も残っている。
抜け感のあるオープンキッチンで、お客さんとスタッフの距離も近い。
抜け感のあるオープンキッチンで、お客さんとスタッフの距離も近い。

お店で働くスタッフさんは、芸大に通う学生やその紹介で知り合った方々で、世代も幅広い。筆者が取材前に何度かお邪魔した時はいつもスタッフさんの雰囲気が穏やかであたたかいのが印象的だったが、その秘訣はきっとローカルなつながりによるチームで協力してつくりあげていることなのだろう。

エミさん(左)とスタッフさん。
エミさん(左)とスタッフさん。

やさしいごはんと豚汁は、通いたくなる味

そんな『kitchen haco』イチオシのメニューは、ランチタイム(11~15時)にいただける鶏とごぼうのごはんセット。大分の郷土料理でもある鶏めしに、豚汁、デリ、サラダ、そしておしんこがセットになっている。

ごはんは、ジューシーな若鶏のもも肉のうまみに、ゴボウとゴマの香りがたまらない! さらに豚汁は、一口で食べるかどうか若干迷うほど大きな大根やニンジンがゴロゴロと超具だくさん。オーナーの「お腹いっぱいになってほしい」という思いが込められている。しかもそれがほろりと崩れるほどやわらかい。同じく根津にある味噌専門店『秋田屋』のみちのく味噌と白味噌を使っており、あたたかさが体の芯に染み込むようなほっとする味だ。

鶏とごぼうのごはんセット(大分風)1320円。
鶏とごぼうのごはんセット(大分風)1320円。

ごぼうは、ごはん用と豚汁用とで大きさを変え、全て地道にささがきにする。水にさらす時間が長すぎると栄養が溶け出してしまうため、少しでも新鮮な状態で使えるようにしているそうだ。

「体は食べたものでできている、とよく言いますけど、化学調味料や冷凍のものを使わずに手作りすることを心がけています」

また、外国人観光客のお客さんも多く、ヴィーガンメニューを希望されることも少なくない。それも、スタッフが増えたことで対応できるようになった。現在はヴィーガンプレートも用意していて、お客さんの声を拾いながら、丁寧に、心をこめて作っていることが伺える。

「表立ってヴィーガンメニューを打ち出したり専門にしたりはしないけれど、お客さんがその日の気分や体調によって選択することもできるようにできるといいな、と思っています」

さらに、根津にはモーニングを提供するお店が少なかったこともあり、オープン当初から朝8時開店。平日の10時50分までは朝食メニューがあり、ごはんと豚汁はモーニングでも食べられるというのがうれしい。

ブロックリーブレックファスト(紅茶)550円。
ブロックリーブレックファスト(紅茶)550円。

食後のお茶には、ロンドンの紅茶ブランドGOOD & PROPERの紅茶をいただいた。エミさんのご友人が仕入れたブランドで、2023年日本に初上陸したばかり! 2023年現在、国内のお店で飲めるのはここだけだ。

GOOD & PROPERの紅茶は茶葉の購入も可能。
GOOD & PROPERの紅茶は茶葉の購入も可能。

みんなで何かにチャレンジできる場所

『kitchen haco』の魅力は、おいしさと居心地だけではない。不定期でコラボ営業やイベントも実施していて、そのジャンルや形態はさまざま

2023年秋に開催した「ヒロシとマリコの手づくり絵本展」は、45年間で90冊もの絵本をつくった町田さんご夫妻の作品を展示したもの。そのきっかけは、ご夫妻の娘さんがお正月の特別営業時に来店したことで、以降お店に通ってもらうようになり、谷根千の街を会場にして創作や表現を展示する「芸工展」に絵本展で参加することと相成った。また、読み聞かせの活動をしているお客さんとの絵本展の読み聞かせイベントもコラボ開催。

ほかにも、エミさんの友人のアーティストの展示販売を行った後、その紹介で廃棄野菜問題に取り組むスパイスカレーのコラボ営業が実現したり、さらにそのつながりで落語会を開催したり……と、不思議なほどに出会いと縁が連鎖し、次々と花開いているのだ。

イベント「KAMOSU-BA」の際の一枚(写真提供=kitchen haco)。
イベント「KAMOSU-BA」の際の一枚(写真提供=kitchen haco)。

「やりたいことを声に出していたら、こんなふうに叶うんだ!と思いました」とエミさん。谷中のギャラリー『haco – art brewing gallery -』も運営しており、『kitchen haco』とあわせて「人を想い、街を醸す」というコンセプトが根底にあるが、「それが徐々に実現し始めていると思います」。

それぞれの夢や目標がこの店を起点にして思いがけずつながり、自己実現の場として活用されている。なんだか、チャレンジの拠点としてのエネルギーを感じる場所だ。

店内では、マイボトルやみつろうラップなど環境に配慮した商品の販売も。
店内では、マイボトルやみつろうラップなど環境に配慮した商品の販売も。

「いろんな方が関わってくださるようになったので、今後はさらに活性化させていきたいですね。古民家再生に関して地方から相談が入ることもあるんですよ。根津のなかでのつながりはもちろんですが、もっと外にも、地方にも広がっていったらいいなと思います」

スタッフの芸大生たちが記事を書いたという「haco通信」も必見!
スタッフの芸大生たちが記事を書いたという「haco通信」も必見!

スタッフさんやお客さんも含め、お店に関わる方が“やりたいことをできる場所”にしたい、という思いが込められているハコ。小さな空間から、大きな夢が着々と広がっている。

『kitchen haco』店舗詳細

住所:東京都文京区根津2-19-6/営業時間:8:00〜17:00/定休日:月/アクセス:地下鉄千代田線根津駅から徒歩2分

取材・文・撮影=中村こより