下町情緒を感じる街並み
浅草橋駅を東口から出る。横断歩道を渡って一本裏の通りに入ると、一気に人通りが少なくなった。静かなその通りには、飲食店や昔ながらの文房具屋などが並んでいた。
下町感のある落ち着いた空気のなかに『らーめん 福籠』の看板を見つける。可愛らしいフォントは、なんだか一人でも入りやすそう。
一番人気の味噌は6割のお客さんが注文
ドアを開けると目の前に食券機が現れる。スープの味は味噌・醤油・塩の3種類。迷わず味噌を選んだ。
ライスとのセットや麺の大盛も食券を購入する時点で選択する。ライスにはたくあんが付いてくるらしく気になったが、今回は味噌ラーメンのみにした。
ちなみに、普通盛で麺150g、大盛で麺225g(茹で前)とのこと。昔は、限定ラーメンなどもメニューにあったそうだ。
トッピングも豊富に揃っている。メンマやチャーシュー、ネギ、もやしはデフォルトで乗っているため、量を増やしたい人にぴったりだ。
メンマが大好物なのでトッピングするか迷ったが、初めていただく一杯はお店が出すバランスで楽しみたいので味噌850円のみにした。
店内は、カウンターが6席と、2人用のテーブルが4つ並んでいる。
清潔感あふれる店内で、席につきながら厨房の様子がぼんやり伺える。壁には店主の畑谷さんの修業先『すみれ』とその系列店の名前がプリントされたTシャツが綺麗に飾られている。
ラードが張られた熱々のスープ、これぞ北海道ラーメン
ほどなくして着丼。スープの表面はラードでコーティングされているため、キラキラと反射している。チャーシューの上に乗っている生姜が可愛らしい。
筆者の祖母と母は北海道の人間だったので、小さい頃にはよく北海道ラーメンを食べていた。その時の記憶では、もう少し黄色味の強い、縮れた麵が多かったように思う。しかし『らーめん 福籠』では違うようだ。どうやら麺は『浅草開化楼』のものだとか。
気になる味は……おいしい。ほどよくスープが絡み、食べ応えもある。「味噌ラーメンといえばこの麺」という固定観念が簡単に塗り替えられてしまった。
スープはかなり熱々。コクがありながらも、くどさは無いためついつい飲んでしまう。最初から生姜を全体に溶かしてしまうのは嫌だったので、レンゲの中で生姜を溶かして、また一口。身も心も温まるおいしさだ。
油の膜によってスープは最後までずっと熱さがキープされていた。
くたくたになるまで茹でられたもやしは透明になっていたが、これこれ、これが食べたかったんだよ…….と心の声が漏れそうになる。
もちろん、さっと茹でただけのもやしも好きだが、個人的にはくたくたのもやしと味噌の組み合わせを楽しむのが至福のひとときだ。
そして驚くべきはチャーシュー。箸で掴んだだけでホロっとするくらい柔らかい。一口で食べてしまうのはもったいないので、少しずつ切り分けて食べ進めた。
7割方食べ進めたところで、七味をスープに振る。ピリリとしたアクセントが堪らない。後から聞いた話だが、七味唐辛子と書かれたケースに入っているのは一味唐辛子なのだそう。なんにせよおいしい。
麺と具材を全て食べ終わってもなんだか名残惜しく、スープとお冷を交互に飲み続けた。
麺やお米は台東区のものを使用するこだわり
『浅草開化楼』の麺を使っている理由は「微力ながらも、この地域が元気になったらいいなと思ったから」。
東京でやるなら東京のものを使いたいという考えから、台東区や近所から仕入れることが多いそうだ。麺以外では、お米や調味料、野菜の一部などほぼ全てをそれらで賄っている。
2013年にオープンした『らーめん 福籠』は、人通りの少なさもあり当初は客がほとんど来なかったという。そこから10年、クチコミなどからそのおいしさが広まり、今では夜もお客さんが並ぶようになった。
地域を大切にする畑谷さんのラーメンは、いまでは街の人からも愛されるラーメンになっていっているようだ。
取材・文・撮影=万悠