大好きな醤油ラーメン、好みの味を自分の手で
『ヌードルボウズn坊』の店主、手塚悟さんは元不動産業のサラリーマン。37歳からラーメン店をやりたいと思うようになり、4店舗でラーメン店の経営を学びながら、3年かけて自分の味を研究した。ラーメン店主としては遅咲きだ。ラーメン店をやりたいと思ったきっかけは醤油ラーメンが好きだったからだという。
「昔からラーメンが大好きで、特に醤油ラーメンが好きでした。好みの味を求めて同じお店に何度も通っていましたが、ある時自分の好きな味を追い求めてお店を巡っていることに気づいたんです。だったら自分で作ればいいじゃないかと思うようになり、ラーメン店を開こうと思いました」
手塚さんにとって理想の醤油ラーメンを追い求め、『ヌードルボウズn坊』の醤油メンは今も進化を続けている。カエシに使用する醤油の種類や配合を変えるなど改良を加えているそう。
カツオと昆布を感じるスープとコクのある醤油がまじりあうスープに癒やされる、上品な醤油メン
さっそく、手塚さんのこだわりが詰まっているという醤油メン900円をオーダー。煮立ったスープからは、出汁の良い香りが漂う。茹で上がった麺を入れ、丁寧に盛り付ければ完成だ。
『ヌードルボウズn坊』のスープは国産鰹節と伊吹いりこ、椎茸、そして濃厚さが決め手の羅臼昆布を丁寧に12時間炊いた和出汁がポイント。動物性の出汁を使わずに、濃厚さを出すことにこだわっている。そして醤油メンの味を支えているのは、なんといってもこだわりのカエシ。日本各地の醤油をノーマルなものからコクや酸味のある癖が強いものまで、7種類もブレンドしている。スープを一口飲むと醤油のほのかな酸味と出汁の優しい旨みが染みる。コクがありながらも、重すぎない落ち着く味だ。
続いて、麺をいただく。歯切れと喉越しにこだわった北海道産小麦100%のストレート細麺。このフルオーダー麺は蒲田の菅野製麺所と試行錯誤を繰り返し、何度もサンプルを作成して完成したのはなんとオープンの3日前だそう。スープとよく合うのも納得だ。
『ヌードルボウズn坊』の特徴と言えば、薄ピンクが美しい低温調理のレアチャーシュー。スープにも使用されている羅臼昆布で締められ、なじむ味だ。箸休めになる豆苗も含めて不思議な一体感を感じるのは、手塚さんが改良を続けるからこそ。ラーメンには少し珍しい豆苗は、醤油と同じ豆由来ということで選んだそう。
ここまでくるのは大変だった、愛される味を目指して今も改良を続ける
『ヌードルボウズn坊』が開店したのは2021年5月。コロナウイルスによる3回目の緊急事態宣言が発令されていたころだという。
「最初の頃は街に人がいないという状況が続いて、集客に苦労しました。最初の頃は知り合いの宣伝のおかげで来てくれるお客さんもいましたが、なかなか継続来店につながらず……」
そんな状況下でも手塚さんは諦めなかった。自分の味がまだ認められていないのではと考えて、味の改良を続けたという。カエシの配合や具材について試行錯誤。自分のラーメンの一番のファンは自分だと自信を持って言えるように改良を重ねると、徐々に常連さんがつくようになった。
「久しぶりに来たらすごく美味しくなった!と応援してくれるお客さんが増えてきて、ここまでやってきたことは間違いじゃなかったと思えてとても嬉しかったです。いまではSNSでも応援してくれる常連さんが増えています」
手塚さんの味に対するこだわりと実直な努力が実を結び、醤油ラーメン好きに愛される味になっていった。過去に手塚さんが通い詰めたラーメン店があったように、『ヌードルボウズn坊』も誰かにとって愛すべきラーメン店になっているのだ。
昔ながらの落ち着く街並みが広がる浅草橋。今やさまざまな種類のラーメンが楽しめる激戦区となっている。『ヌードルボウズn坊』ではシックな見た目の外見からは想像できない優しい味を体験できる。上品でどこか懐かしい醤油味に癒やされたい方はぜひ一度足を運んでみてほしい。
取材・文・撮影=古澤 椋子