佐世保市の針尾瀬戸に聳(そび)え立つ100年以上前の塔
高さ約136mは、ちょうど品川インターシティのビル群ほど。高層ビルが当たり前となった現代では、そこまで高くないように思えます。が、この塔が竣工したのは1922年のこと。一世紀も前の高さ136mのコンクリート建築はびくともせず、しっかりと立ち続けているのです。
最近の報道では、この塔を建設するときコンクリートに火山灰を混ぜて強度を増やし、つき固めと呼ばれる水分や空気を除去する工程を徹底させて、より堅牢なコンクリート建築物となったと報じました(読売新聞西部本社編集局 2023年8月18日配信記事より)。
一世紀経ってもなお堅牢な塔の姿から、その工法が有効であったと証明されていますね。
地上で訪れたかったが、先に空から観察
針尾送信所は是非とも訪れて見学したい場所。佐世保市はなかなか訪れる機会がなかったのですが、2022年に初めてこの目で見ることができました。ただし、よりによって上空からです。普段の「廃なるもの」では遺構を肉薄して観察しますが、今回は上空から3つの塔の様相を紹介します。全景となるのですが、地上からは見ることができない視点をお見せしましょう。
2022年9月24日、長崎県内を空撮し、佐世保市内まで北上します。その際に西彼杵半島の西海市を横断して佐世保湾へと出ます。大村湾が外海と繋がっている針尾瀬戸と西海橋付近を通過するとき、前方にはもう異様な姿が見えてきます。3つの塔です。約136mの塔は、周囲が入り組んだ海と半島に聳えてかなり目立っています。これは誰でも間違えることはないなと納得するほど、威風堂々たるコンクリートの塔です。
側から見ると単なる塔が3つあるだけですが、この塔から発せられた電波が、遠く南方の前線基地まで届き、通信が行き来していたのです。なお終戦後しばらくまでは塔の上部に三角形状の櫓(やぐら)があり、より無線施設らしい雰囲気であったとか。それはネットで散見される古写真で確認できます。
針尾送信所の空撮は全景を入れたり、少し塔に寄って東西南北を捉えたりと、僅かな時間内で撮影します。本当は塔の地面にある海軍施設も主人公にして撮影したいのですが、塔と地上とのバランスや高度差を考えると、上空からでは難しいと判断。下の方に何やら建物が写っている程度となり、いつか地上を訪れる日までの楽しみに取っておきます。
その代わり、パイロットに塔の一部の上空へ近づいてもらい、私たちが絶対に見ることが叶わない“塔の最上部”を捉えました。櫓が組まれていたてっぺんは、円柱の上を何かで蓋をしたようにライトグレーの覆いがされてあって、八角形状に柵が確認できます。その中心部には照明が……。これは航空障害灯です。ここまで高い建物ゆえ、航空機が衝突しないよう夜間は点灯する照明なのです。
ライトグレーの覆いにはハッチがあって、塔の内部にある梯子を登るとハッチへと出るようです。もちろん現在は梯子を登ることができず、この航空障害灯をメンテナンスするときに使用されます。
「あ〜 上側はこうなっているのか」と納得できました。望遠レンズで寄りめに覗いた塔は、壁面にひび割れも確認できず、草臥(くたび)れた雰囲気がしなかったのです。もうちょっとじっくりと思いましたが、この後の撮影時間が決まっているため、グルッと一周するだけで空撮は終了です。
入江が複雑に入り込んでいる地域に、突如として生えている3本の鉄筋コンクリートの塔。一世紀前の塔は、その背負ってきた歴史をこれからも語り継いでいくことでしょう。最後に針尾送信所は、「針尾送信所保存会」が日時限定で公開しています。塔には登れませんが、一番下から内部を見上げることができ、圧巻の高さを目の当たりにできます。
取材・文・撮影=吉永陽一