石井由紀子さん(写真左)
ラジオパーソナリティ兼ナレーター。台湾インディーズ音楽に強く、台湾音楽紹介noteは50万アクセス越え。ポッドキャストで「耳から始まる台湾トリップ你你好好」も配信中。
寺尾ブッタさん(写真右)
『月見ル君想フ』を経営しつつ立ち上げた、日台をつなぐ音楽レーベルのショップ兼魯肉飯専門スタンド『大浪漫商店』も下北沢で展開。台湾ほか日本、アジア各地でイベントもプロデュース。
月見ル君思フ
青山にあるライブハウス兼&文化娯楽施設。寺尾さんの代になって2014年に台北店(写真)も開店、台湾と日本のミュージックシーンをつないでいる。青山店はオリジナルのルーローファンも評判。
●東京都港区南青山4-9-1 B1
☎03-5474-8115
一筋縄ではいかない、独自で多彩な台湾音楽
台湾には料理のみならず、うまい音楽も揃っている。
1990年代戒厳令の解除以降、せき止められていた海外文化が流れ込み、それらを巧みに消化しつつ、独自の音楽をパワフルに生み出しているのだ。
この国に暮らすのは中華系だけでなく、オーストロネシア人系の原住民(台湾では先住民を指す)も、その他外国人も多い。ルーツを異とする人々が一つになって生み出す音楽は、九州サイズのコンパクトな島から生まれたとは思えない多彩さだ。近年は洗練の度合いも増して、初めて聴いても抵抗なく入り込める、聴き心地のいい曲も多い。
そんなメロディーの中に、ふいに立ち上る土着的な旋律や大らかな野太い声。あるいは中国大陸の圧力に立ち向かう自由へのメッセージ。
一筋縄ではいかないのが台湾音楽だ。
伸び盛りのミュージックシーン
たとえばシンガーソングライターのイリー・カオルー。
「彼女は海にもゆかりの深い原住民のアミ族だからか……すごく波の感じがして気持ちよく、さらに声が優しいので、より波に包まれる感じ。ルーツみたいなものも音楽のジャンルに関係なくちょっと感じることができて、面白いです」
そう語るのは、そんな今どきの台湾音楽にハマりこんだ石井由紀子さん。台湾人の友人がイリーの関係者だった縁で台湾音楽にハマりこみ、自身のブログなどを中心に、積極的に紹介を行っている。
「歌がうまい、声がイイ、というところに惹(ひ)きつけられどんどん聞くようになりました。形式ばらず、これが好きだから新しい試みをしてみるとか、ジャンルレスで自由度が高い感じがあるんです」
石井さんの好みはインディーズ系。
「よくある感じよりかは尖(とが)っていたり、ゴリッとしていたりとか、何か手触りがあるんですよね。エレクトロと道教の儀式の音をミックスさせたトランスに近いディープな音楽を奏でるバンド『三牲獻藝』などもいいですよ」
台湾アーティストが数多く出演する老舗ライブハウス『月見ル君想フ』を運営する寺尾ブッタさんが、こう返す。
「時代ごとの色もありますよね。インディーズバンドとかが音源を出して、認知されていったこの10年ぐらいは面白い」
寺尾さんは2014年に『月見ル君想フ』台北店を開店し、台湾と日本のミュージックシーンをつないでいる。
「台湾のライブハウスで現地のバンドやお客さんを見た時に、日本にものすごく近いなと。日本と共有している部分が既にあると思ったので、外国で何かトライしたいって考えた時、台湾に絞ったんです。音楽シーンの勢いや豊かさがやっぱりすごい」
青山の『月見ル君想フ』のライブに行けば、台湾人アーティストの息吹に生で接することができる。コロナも一段落ついて、出演の度合いは増えていくそうだ。
「日本の音楽を受けいれてくれる土台もありますし、文化的に近いところも違うところもあるというのも面白いです」
埋もれたままではもったいない面白さ
それでも彼らは毎日出演しているわけではないし、もう少しお手軽路線があってもいい。
そこで登場するのが世界中の音楽を網羅するSpotifyなどの配信サービスである。通販ですら手に入りにくかった台湾音楽を、膨大かつ思いのままに楽しめるのは夢のような話。
石井さんには、聴き始めの手掛かりになるプレイリストを作ってもらった。まずは手軽に試してみていただきたい。
まずは聴いてみて! 石井さんセレクト〈散歩の台灣音樂〉プレイリスト
多彩な台湾音楽をほど良くまとめたインディーズ系怒濤の42曲。入門にもってこいで、散歩のお供にもお薦めの心地よさだ。
【これから聴くなら!今、ホットな台湾的音楽】
≪石井さんセレクト≫
『Sleep till Afternoon』 / DSPS
台湾インディーポップバンド7インチレコード。昼までまどろむ浮遊感が音と歌声で再現され心地良し。
『just like you』 / 黄小楨
気だるいけど、日当たりは良い雰囲気の音。90年代アメリカ西海岸を感じる音とジャケットも良い。
『湯與海』 / 淺堤 Shallow Levée
台湾南部の高雄出身。ポップさの中にも憂いやメロウな感じが見え隠れする音楽が特徴。
『不標準情人』 / 雀斑 Freckles
台湾インディーの牽引役的なバンド。ポップでかわいいだけじゃない。アレンジの細かさが光る名盤。
≪寺尾さんセレクト≫
『BLA BLA SONG』 / 曾稔文ほか
日本の夏目知幸と台湾バンドDSPSのボーカルAmi Tseng書き下ろしの4曲収録スプリットEP。
書き下ろし曲と連動した同名の台湾コミック集!
≪奥谷(筆者)セレクト≫
『LINES & STAINS』 / 東京中央線
台湾で活躍する日本人バンド金曲奨授賞CD。インストで初めてでも聴きやすく、名前も散達風(笑)。
*金曲奨=台湾のグラミー賞
取材・文=奥谷道草 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2023年6月号より