メニューは木の札に。窓越しに販売するパン屋さん

曲がり角にある目印の看板もキュート。
曲がり角にある目印の看板もキュート。

動物パンが名物のパン屋さん『Bonjour mojo2』は、唯一無二の存在としてパン好きに知られている。お店があるのは根津の藍染大通りにつながっている道幅が2メートルはないような静かで細い、絵に描いたような路地だ。曲がり角には控えめな看板が目印に置かれている。

窓の下に板をつけてお店に。中でパンを焼いている。木の札がメニュー一覧だ。
窓の下に板をつけてお店に。中でパンを焼いている。木の札がメニュー一覧だ。

古い住宅を改装した店は、窓の外から声をかけてパンやお金をやり取りするスタイル。窓の周りに動物の絵と、中身と値段が書かれた木の札がたくさん並んでいる。どの動物を選ぼうか、その絵札を見ながら考える瞬間も楽しい。

パンを動物型に焼いて、ひとつひとつ表情を描いているのは店主の大平由美(おおひらゆみ)さん。その印象的なヘアスタイルから、親しい人たちからモジョちゃんと呼ばれていて、店名の由来にもなっている。

店主の大平由美さん。
店主の大平由美さん。

ほとんど人が通ることのない場所に、パン屋さんがオープンしたのは2011年10月のこと。周囲が心配し、「『その辺で宣伝してきなさい』と言ってくださる近所の人もいました」というほどだったが、今や人気店に。千駄木にコッペパンの『大平製パン』、谷中にサンドイッチの『大平パン』と、現在は合わせて3店舗を展開するまでになった。

実家のパン屋さんで使うフィリングと動物を組み合わせ

意外な場所に店を構えているせいか、根津の生まれだと思われがちな大平さん。実家は福島県いわき市で3代続くパン屋さんで、パン作りは小さい頃から経験してきた。

『Bonjour mojo2』のパン生地は、実は大平さんの父が作るコッペパンと同じレシピで、卵以外は材料も同じ。シンプルな中にまろやかさのあるやさしい味だ。

中に入れているフィリングも、実家で使っている材料と動物のイメージを組み合わせている。材料の仕入れ先まで同じなんだとか。

うさぎのクリームパンは230円。
うさぎのクリームパンは230円。

人気ナンバーワンは、愛くるしい表情のうさぎ。中身はやさしい甘さのカスタードクリームだ。

目の表情が豊かなネコの中身はさつまいもあん。210円。
目の表情が豊かなネコの中身はさつまいもあん。210円。

惑わされそうな目に惹かれるネコのパンは、コクを感じるさつまいもあんが入っている。

カニクリーム230円。ちゃんと8本、足があります。
カニクリーム230円。ちゃんと8本、足があります。

甲羅がぷっくりしたカニには、カニの香り漂うカニクリームコロッケの中身がたっぷり。

つぶあんとクマ、ウインナーとたこ、いちごジャムとてんとう虫、かぼちゃあんとコアラなど、組み合わせにはどこかセンスのよさがある。

焼印入りのミニコッペ5個入り330円。
焼印入りのミニコッペ5個入り330円。

動物パン以外にも定番の食パン類、あんドーナツのほか、焼印入りのロールパンやチーズロールが販売されることもあるので、要チェックだ。

見せるために始めた動物パン作りから、近隣の人に愛されるパン屋さんへ

窓辺に置かれたコーヒーロール230円(左)と昔のアンドーナツ170円(右)。
窓辺に置かれたコーヒーロール230円(左)と昔のアンドーナツ170円(右)。

趣味として、ものづくりや絵を描くのが好きだった大平さん。社会人のスタートは、イタリア料理店の厨房で、パン屋になるつもりはなかったという。転機となったのは、イラストレーターの友人と一緒に行った「二人展」。その「二人展」で、友人は動物のイラスト、大平さんは趣味だった絵とパンを組みわせた「みせるパン」を展示した。誰かに食べさせるためではなく、見せるために作った動物パンだったが、当然、見に来た人からは、買いたい、食べたいという声が上がった。

そして、谷中にあるアウトドアギャラリー『貸はらっぱ音地』で月に一度パンを売ることに。やっぱり人気が出て、毎月買いに来る人が増え、それで店を開こうということになった。そんなときにた遊びに来た根津で紹介されたのが、今、お店がある古い住宅だった。

「その日は根津神社に遊びに来て、不動産屋さんに行く前に、ここが空いているねと話していた場所でした」

実家から持ってきたという木の番重。年代物だ。
実家から持ってきたという木の番重。年代物だ。

不思議な縁に導かれて、オープンした『Bonjour mojo2』。売っているのはかわいい動物のパンで、窓から顔を出すのは印象的なヘアスタイルのお姉さん。そんなパン屋さんを子どもたちが好きにならないわけがない。子どもたちが、手紙や絵を持ってきてくれることもある。そして、オープン当時に幼児だった子たちが、高校生や大学生になって店にやってくる。

「私より身長が大きくなった男の子も『僕だよ、覚えてる?』って、手を振りながら店の前を通って行ったりします。かわいいですよね。疲れが取れます」

大人も同じように、ちょこちょこっと世間話をしたり、パンを買わないのに、声をかけて過ぎていったりするそうだ。

「始めた頃は、もしお店で生活できなかったら、バイトに行けばいいかなっていうノリでした。今では3店舗あってスタッフも増えましたが、いつかはお客さんとおしゃべりしながら、のんびりお店をやれたらいいなと思っています」

かわいいだけでなく、おいしい動物パンのお店。ひと目に付きにくい場所で、店主の人柄に触れられることが、いっそう人を惹きつける。何度も訪れたくなる魅力的なパン屋さんなのだ。

住所:東京都文京区根津2-33-2 七弥ハウス101/営業時間:11:00~売り切れ次第閉店/定休日:月・火、第1日/アクセス:地下鉄根津駅から徒歩5分

取材・文・撮影=野崎さおり