『HAGISO』の「旅する朝食」からスタート
大きな窓から優しい陽がさしこむ店内。高い天井からいくつも照明が下がり、やさしいBGM が流れ、ショーウィンドウには山盛りのお総菜。黒板には定食の献立が掲示され、お米や味噌の産地も書いてある。
「はじまりは『HAGISO』の『旅する朝食』です」と話すのは店長の工藤伶華さん。『HAGISO』は、谷中を拠点にリノベーションから店舗運営まで手掛ける株式会社HAGISOがスタートさせた最小文化複合施設。その1階にある『HAGI CAFE』で提供していたのが、季節ごとにさまざまな地域の食材を活かした朝ごはん「旅する朝食」だ。
「この取り組みで全国の生産者の方々とつながることができました。ただ、季節ごとに使う食材も変わっていってしまうので、もっと長い間一緒にやっていけたらいいなと思ったんです」
そのためにどういう形にすべきかを考えた時、目を向けたのは街のニーズだった。
「谷中ぎんざのあたりは観光客向けのお店が多いので、お総菜屋さんにすれば住んでいる人にも使ってもらえるんじゃないかと思って」
そうして2017年にオープンしたのがこの『TAYORI』。店名の通り、“作る人と食べる人が手紙を交わすようにつながる場”というコンセプトだ。生産者から直接届く食材を使ったお総菜や定食、デザートを提供する。
タルタルソースが絶品のアジフライ定食
ランチの定食は定番メニューと週替わりメニューがあるが、今回注文したのは定番メニューのアジフライ定食。
まず目を引くのは黒ごまの入ったタルタルソースだ。アジフライにたっぷり乗せてかぶりついてみると、濃厚ながら食感のアクセントもあって箸が止まらなくなる。聞けば、野沢菜やたくあんのほか、白味噌も入っているのだそう。
小鉢も只者ではない。ひじきとスイスチャードの白和えはゴマの香り高く、冷奴にはニンニクと酢を加えたトマトソースがかかっていて、どれもひとひねり効いている。さらに気になるのは、甘みがあっておいしいダイコンの醤油漬け。定食の献立を見てみると「がっちゃん漬け」とあるけれど……これは一体なんですか?
「がっちゃんというあだ名の、島根の農家さんが作っている高原野菜のしょうゆ漬けなんです。その時々でダイコンだったりキュウリだったりで、ジップロックに詰まった漬物とお手紙がダンボールに入って届くんですよ」
なんだか島根に親戚ができたような気分! 正真正銘、生産者の手作りの味というわけだ。「仕入れたもの」ではなく、まさしく「お便り」を受け取って味わっているという感覚で、お店のテーマがすっと腑に落ちた。
お茶したり、総菜を買ったり
この日はランチをいただいたが、旬のものをしっかり味わいたいなら総菜を買って帰るのもおすすめだ。届く食材に合わせて作る総菜たちは、来るたびに違うラインナップから選べる楽しみがある。
「いろんな農家さんから一気にタマネギが届いて、どのお総菜にもタマネギが入ってる!ということもありました」と工藤さんは笑うが、まさに“食卓の風景”という感じでなんだかほっとする。お客さんはファミリーからお年寄りまで年齢問わず地元の方が多く、半分以上は常連さんだというのも頷ける。
お総菜の脇にはドレッシングやシロップなどの加工品も並ぶ。コロナ禍で「家でも楽しめるように」とスタートしたもので、にんじんドレッシングやジンジャーシロップが人気だという。
また、コーヒーなどのドリンクメニューはもちろん、ケーキやパンナコッタなどのデザートも充実。ランチができて、総菜も買えて、お茶もできる、という充実の空間だけれど、工藤さんはまだまだ先を見据えている。
「今は冷凍のお総菜を作っていて、それを全国に届けられたらいいなと思っています。あとはやっぱり朝食もやりたい。野菜の出汁をとって、お茶漬けみたいにして食べるごはんを構想中です」
こりゃ、何度も通いたくなるわけだ。筆者も常連の仲間入り待ったなし!
『TAYORI』店舗詳細
取材・文・撮影=中村こより