東京の蒲鉾店と縁が深い『丸石かまぼこ店』(川崎)

今回紹介する『丸石かまぼこ店』は京急大師線の東門前駅近くで営業している。川崎大師(平間寺)の参拝路線として知られる京急大師線は、京急の創業路線として明治32年(1899年)に運行を開始した。東門前駅は昭和19年(1944年)に大師線が産業道路まで延長した際に開業したそうだ。

「東門」は川崎大師(平間寺)山門の東側を意味するそうだ。最近はショッピングモールやマンションなどが増えたが、昔ながらの風情を残す商店街もある。

駅から南へ進み、大師商店街を東に進むと十字路の角に丸石かまぼこ店が見えてくる。かつては50メートルほど離れた場所で営業していたが、平成14年(2002年)に現在の地に移転した。

「丸石」と聞くと、東京おでんだねは東京都荒川区にある『丸石蒲鉾店』を思い出す。荒川区のお店は足立区青井にあったお店の暖簾分けだが、こちらの『丸石かまぼこ店』とは直接関係はないそうだ。

初代店主の石黒研二さんは品川区荏原中延の「蒲しげ」という蒲鉾店で10年ほど修業したあと、昭和34年に自身のお店を開いた。東京都蒲鉾水産加工業協同組合(通称、東蒲)に所属していたそうで、小田原の蒲鉾店よりも東京のほうが縁が深いという。

初代はすでに引退しているが今もお店に立っている。練り物づくりは二代目の光雄さんが担当し、素敵な笑顔で迎えてくれる。

揚げ蒲鉾はショーケースに陳列されており、16種類ほどが揃う。さつまあげやしょうが天など定番のものが中心だが、あさり天やチーズちくわなど変わり種も取り揃えている。

今年(2023年)5月にはBS-TBS「吉田類の酒場放浪記」でお店が紹介された。吉田類さんはしょうが天とあさり天を食べ、「お酒のおつまみに最高」だと評価していた。

ショーケースの脇でははんぺんや牛すじ肉などのおでん種が並べてある。ちくわぶはパック包装されていない、通称「ハダカ」を取り扱っている。もちもちとした食感が素晴らしく、遠方から買い求めるお客さんもいる。

大師通り沿いでは店頭で調理したできたてのおでんを販売している。1個75円というお値打ち価格だが、10個セットは650円とさらにお得だ。

小ぶりの鍋にぎっしりとおでん種が詰め込まれており、しっかり味が染みている。メニューはないが質問すれば気さくに対応してくれる。

最近はスーパーやコンビニに押され気味なのだそうだが、気軽に本格的なおでんを食べられるのでぜひ味わってもらいたいものだ。何十年と通っている常連のお客さんが買い求めにくるそうだ。

筆者が東京の蒲鉾店に詳しいことを知ると、初代店主は古い東蒲の会員名簿を取り出してお話を聞かせてくれた。初代店主は現在91歳。東京だけでなく日本の蒲鉾の歴史を知る数少ない生き証人のひとりだ。愛知県の出身だが、東京の蒲鉾店でも愛知出身の店主が数多くいたという。皆でよく集まっては情報交換をしたり、後輩たちの面倒をみたりと交流を深めていた。高円寺の名店として名を馳せた愛川屋も愛知県出身の職人が多く、『丸石かまぼこ店』ともかかわりは深かったそうだ(記事「愛川屋の系譜」参照)。

東蒲があった築地にも頻繁に訪れており、当時は業界自体に活気があって楽しい日々だったという。今では鬼籍に入る知り合いも多く、東蒲も会員数が減っていったことで交流はほとんど途絶えたそうだ(東蒲は2022年に解散)。「すべて昭和の話だよ」と店主は懐かしそうに笑っていた。

『丸石かまぼこ店』(川崎)のおでん種

初代、二代目店主に貴重なお話をうかがいながら、自宅調理用に8種類のおでん種を購入した。

時計回りに12時から、もやし天、あさり天、つくね、ぎょうざ巻、ハス天、やさい天、玉子巻(中央左)、しゅうまい巻(中央右)。

『丸石かまぼこ店』(川崎)ではおでん用以外のお惣菜も手づくりしている。訪れたときはピーマンと茄子のはさみ揚げを販売していた。野菜の魅力を存分に味わえ、まろやかなすり身の奥深い味わいがある。お酒のお供にしてもいいし、おかずにしても美味しい。

購入した揚げ蒲鉾は大根やこんにゃくなど煮えにくいものを先に鍋に入れた後、弱火で10分から15分程度火を通せば完成だ。

詳しい作り方は「東京おでんの調理方法」の記事を参考にしてほしい。

あさり天はアサリと長ネギに加えて唐辛子がアクセントとして入っている。アサリの磯の香りと味わいがしっかり残っており、辛さもちょうどよく苦手な方でも美味しく味わえるだろう。

やさい天はネギのしゃきしゃきとした食感と人参の甘みを楽しめる。魚のすり身は弾力がありつつ、ソフトな食感も同時に味わえる。

ぎょうざ巻は餃子に魚のすり身を巻きつけた揚げ蒲鉾だ。魚のすり身の弾力は強めでうまみが強く、とろとろになった餃子の皮との食感のコントラストが心地よい。

しゅうまい巻の餡はふわっと柔らかなうまみが口いっぱいにあふれながらも、ほどよく弾力のあるすり身が味を引き締めている。

もやし天はしゃきしゃきとしたもやしの歯触りが心地よい。一緒に入っている人参の甘みも素晴らしい。

ハス天はしゃきしゃきとした食感を思う存分楽しめる。薄くまとった魚のすり身が味わい深く、満足度の高いおでん種となっている。

玉子巻は鶏卵がまるごとひとつ入っていて非常にボリューミーだ。玉子の黄身のまろやかさと、魚のすり身のうまみが口の中で融合し、見事な調和を奏でている。

神奈川県でありながら東京の蒲鉾店と関わりが深い『丸石かまぼこ店』(川崎)。初代店主に蒲鉾店の歴史をうかがいながら買い物をすれば、より深くその味を楽しめると思う。東京から多摩川を挟んで目と鼻の先の距離にあるので、散策がてら訪れてみてはいかがだろうか。

『丸石かまぼこ店』(川崎)の基本情報

『丸石かまぼこ店』
〒210-0813 神奈川県川崎市川崎区昭和1-3-10
044-266-7685
定休日:日祝
営業時間:10:00~19:00

取材・文・撮影=東京おでんだね