ARMYのプロデューサーによるARMYのためのカフェ
新大久保駅の改札から久しぶりに大久保通りを歩いてみると、新しくてキレイな店が増えていて驚いた。ここ数年の韓国ブームで、屋台のような店から伝統的な韓国料理店までよりどりみどり。特にカフェとコスメ店が目立っている。平日の昼間だというのに、路地裏にまで人混みができていて、まるで原宿みたいだなと思った。
すっかり浦島太郎の気分で、スマホを片手にキョロキョロしながら歩くこと5分、紫色の建物が目に入った。看板には『BORA CAFE』とある。ボラといえば海水魚でカラスミの……ではなくて、韓国語で紫を意味するそう。
このカフェは、韓国の人気アーティスト・BTS(防弾少年団)のファン、いわゆるARMYたちが集うカフェというコンセプトで2022年の夏にオープンした。
「そもそも、このカフェの企画をしたプロデューサーがSUGAさんのファンで、『ARMYたちで交流ができる場所があったら面白いんじゃない?』という発想からはじまったんですよ。当然、非公式のカフェなのですが、口コミで広がって、今では全国各地からココを目指してやってくるんです」と、広報担当の金城建佑さんは話す。
「年齢層は20〜60代まで幅広いですね。ARMYさん同士で写真を撮ったり、推しのアクリルスタンドとケーキを一緒に撮影したり。店内ではBTSを中心にした韓国人アーティストの動画やBGMを流しているので、それを見ながらみなさんそれぞれに楽しんでいますよ」。
初めて会った人でも、共通の推しがあれば意気投合できるもの。だからおひとり様も少なくないらしい。
店の滞在時間が決められており平日は90分、土日祝など混み合うときは60分だ。金城さんの話では、「空港から直接やってくる方もたくさんいます」というから、この熱狂ぶりには驚きを隠せない。
お察しの通り、筆者はBTSの情報に疎いのだが、「Don’t think! Feel(考えるな! 感じろ)」の精神でレポートしてまいります。彼らの魅力については勉強不足なのだが、推し活がいかに日常を彩るかは理解できる。むしろちょっとBTSに興味が湧いてきたくらいだ。
紫(ボラ)を基調にしたケーキやドーナツを食べてBTSを身近に感じられる
驚いたのは店内だけでなくメニューでも紫色の占有率が高いこと。店頭のガラスケースの中にはボラ色のスイーツが並んでいる。
金城さんも一緒にガラスケースをのぞきながら「ケーキはパティシエが店内でひとつずつ作っています。ケーキもやっぱり紫色なんですよね。ドーナツは自社工場で作っているんですよ」と説明してくれた。
「このカフェはね、メンバーの誕生日になるとすごいんですよ。特別なケーキを作るんですけど、それを目当てに数百メートル先まで行列になるんです」という。誕生日ともなれば、カフェがある建物から隣の交番を悠々と通り過ぎ、パチンコ屋さんの角まで並ぶのが常だそう。
誕生日ケーキはメンバーにちなんだデザインなので、ここに通うARMYたちは、毎年自分の推しメンのケーキがどんなデザインになるのか注目しているようだ。「猫好きで知られるジミンさんの誕生日には、猫の手をモチーフにしていたりね」。へぇ、面白い。
どのケーキやドーナツもすごく凝っているし、何よりおいしそう! BTSをよく知らなくても、ふつうのカフェとしても楽しめるのだ。
人気メニューのケーキ&スムージーもやっぱり“ボラ”だった!
せっかくなので、何かいただいてみよう。金城さんに伺った候補の中から、ボラデーションケーキ880円とボムスムージー800円をオーダー。厨房でスムージーができあがる様子を見せてもらった。
ケーキは紫色のグラデーションを表現しているからボラデーション。PANTONEの色見本みたいでアーティスティック。
さっそくケーキからいただいてみよう。食用花で飾られたケーキはスポンジがふんわりとして、ほどよい甘さのクリームがいい。
ケーキをひと口味わってから、ボラスムージーも。勢いよく吸ったら、冷たすぎて歯と頭がキーンと痛んだが、甘酸っぱくて爽やかなテイストが口いっぱいに広がった。たっぷりの生クリームをすくって食べてみると、甘くてミルキーな味わいが幸福感を誘う。BTSのメンバーのことで頭がいっぱいになっているARMYさんたちの気持ちも同じような気分なんだろうな。
店を出て、新大久保駅に向かう途中にいくつかのアイドルショップの前を通りかかった。するとBTSの文字や、店で見かけたメンバーを見つけて胸がざわざわした。なんか……、BTSが気になる……。どうやら筆者もARMYになってしまったようだ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢