2021年にオープン。シェフの“うまいもん”を提供するオイスターイタリアン
五反田駅西口を出て徒歩2分。駅前の飲食店がひしめく一角にレストラン『雪月花 OCEAN』がある。ゴツゴツした石が店頭を飾り、これをくぐって地下に降りていく。なんだか探検に来たみたいだ。
2021年の3月オープンした『雪月花 OCEAN』。ランチタイムは近隣のサラリーマンでにぎわう。筆者が14時ごろ店に訪れると混雑はおさまっていたが、それでもパラパラと客が入ってくる。厨房でひとり、忙しく働いているシェフの樋口純平さんに話を聞いた。
「以前は不動前の駅前に店があったんですが、2021年に本店『雪月花』の近くに物件が空いたので移転してきたんですよ」と樋口さん。談笑しながらも、ノールックできゅうりの薄切りをしたり、ささっと茹でものをしたり。シェフの仕事ぶり、カッコイイな〜。
ちなみに本店は熟成した魚が自慢の和食店だそうだが、こちらはイタリアンがベースだ。「うちのコンセプトは、“うまいもん屋”です! 店名に『OCEAN』とついていますが、肉料理のほうが多かったりします(笑)。あ、でも1年中うまい牡蠣が食べられますよ。6月半ばから9月初旬くらいまでは岩牡蠣、それ以外は真牡蠣です。生はもちろん、焼いてもうまいですよ」と、樋口さんは話しながらでっかいボウルでディナー用のポテトサラダを混ぜ、ひとくちすくって味見をした。
その流れるような仕草を見て、ものすごくポテトサラダを食べてみたくなってしまったのだけど……いやいや、今日はランチを食べにきたんだっけ。
大好物が一皿に集結! いつまでも子供でいたくなるお子様ランチ
ランチメニューは肉の量が選べる自家製ハンバーグ、ミックスフライ、鶏の唐揚げといったオーソドックスな定食のほか、1日10食限定の昔のナポリタン、広島産カキフライ定食もある。
「ランチはハンバーグとかパスタとかサッと食べられるようなメニュー構成を心がけています」と樋口さん。なかでもひときわ筆者の目を引いたのは、1日5食限定の大人のお子様ランチ1500円。メニューを見よ、この圧倒的存在感を。全部筆者の好物だし、これを選ばない手はない。
樋口さんはすぐさまフライパンを温め始めて調理にかかる。ワン・ツー・スリーだかひぃ・ふぅ・みぃだか樋口さん的なリズムの取り方はわからないが、炒めたり、揚げたり、混ぜたり。とてもテンポ良く調理が進んでまるでショーを見ているみたい。カウンターに座るとこの様子を見ることができる。
大人のお子様ランチがテーブルに到着すると「わぁ!」と感嘆の声がもれる。そのリアクションもお子様ランチのお約束だ。最初はエビフライからいこうかな。プリッとしたエビに自家製のタルタルソース。ドドーンと大きな有頭エビは、さすが“大人の”風格だ。
チキンカツと唐揚げは同じ鶏むね肉を使用しているというが、味わいが違って楽しい。「チキンカツはさっと揚げてオーブンで焼き、唐揚げは2度揚げすることで固くなりすぎないようにしています。ひと手間加えるとふっくら感が違ってくるんですよ」と樋口さんが言うとおり、外はカリッとしているけど、中はふっくらとしてジューシーだ。
オムライスはバターが利いたチキンライスにとろとろ卵とケチャップの三つ巴。甘さと酸味のバランスがいいナポリタンは、太めの1.8ミリのスパゲティを使用している。この2つは見た目以上に食べ応えがある。うおお、パワーがみなぎってきたぞ〜。
全集中で大人のお子様ランチに向き合ったこの日の昼食。額の汗がその証しだ。「ごちそうさまでした!」と樋口さんに声をかけると、チラッと筆者を見て少し恥ずかしそうに笑って「ありがとうございまーす」とすぐさま作業中の手元に目を向けた。
「うまいもんを自分で作っちゃおう!」という発想からシェフを目指した
樋口さんはほとんど1人で厨房を賄っている。特にランチは短期決戦だから集中力と手際の良さが肝要になる。
そもそも樋口さんは幼少のころから“うまいもん”が好きだった。シェフを目指したのは高校生の頃。「家族で外食したとき『うんめー!』って思ったんですけど、『また食べたいなら自分で作ればいいんだ』と思って(笑)」、バイトの給料が入ってはグルメ本を片手に方々へ食べ歩き、舌と腕を鍛えていたそうだ。
そのなかで出会ったイタリアンの名店に見習いとして入店し、親方から10年みっちりと料理のイロハを教授された。「とにかく厳しい人でした。でも、材料の状態の見方、肉の火の入れ方、調味料やドレッシングなどできるだけ手作りなのも親方の教えからです」と振り返る。今も“うまいもん”を提供するため、気の遠くなるような“ひと手間”をいくつも重ねているのだろう。
「夜はやっぱり牡蠣。それからプリフィックスコースもあります。アラカルトメニューも充実しています。夜はメニューにないものでも、材料があれば作ることもできますよ」と樋口さん。なんでもアリの店だから、おすすめメニューに大きく「餃子」と書かれていたりもする。それがまたいいじゃないですか!
「食べている人の反応がすぐ見えるこの店が気に入っています。理想はひとりひとりの好みに合わせた料理の提供ですね」と言ってほほえんだ。自分が本当に食べたい料理が出てくる店なんて夢みたい。それでもやっぱり大人のお子様ランチを頼んでしまうかも。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢