1972年創業、2代目店主が働く人たちを応援するとんかつ店

五反田駅西口の路地裏で1972年の創業以来、ずっとこの場所で営業を続けているとんかつ店『とん金』。駅前よりは落ち着いた雰囲気だが、周囲には飲食店が点在する。

小さくても実力店が多い五反田で生き抜いているのには、それなりの理由があるのだろう。これは楽しみだ。

店の外までおいしそうなとんかつの香りが漂ってきた。
店の外までおいしそうなとんかつの香りが漂ってきた。

店の入り口にランチメニューがある。取材に行った火曜日は3品のメニューがあり、どれもそそられるので決めかねていた。ちょっといやしいけれど、こんなときは店内ですでに食べている人を参考にしてみよう。店に入ると、2代目店主の長塚洋徳さんが「らっしゃいませ〜ぃ!」と威勢のいい声で迎えてくれた。

火曜日のメニューは3つ。どうしよう、全部大好きなメニューなんだもん。
火曜日のメニューは3つ。どうしよう、全部大好きなメニューなんだもん。

「親父がここに店を開いて、僕は高校卒業と共にこの店に入り、イチから飲食のイロハを親父に仕込んでもらいました。店を継ぐつもりはなかったんだけど、就職活動が面倒で。オレは社会の歯車の一部になりたくなかったんですね。だから、1人でやってる方が性に合ってるんですよ」。そういって長塚さんは「ガハハハ!」と豪快に笑った。

 

店主の長塚洋徳さん。
店主の長塚洋徳さん。

長塚さんは先代から受け継いだ製法を遵守し、品質のよい素材を使って、揚げたてでボリューム満点のおいしいとんかつを提供してきた。安くてボリュームのあるランチやお酒も楽しめる夜のメニューはそのままに、時代に合わせて少しずつ手を加えたりもしているそうだ。

ランチタイムになると店内はお客さんでぎっしり。
ランチタイムになると店内はお客さんでぎっしり。

創業当時と比べてメニューやコンセプトは変わってはないそうだが、「昔はビルじゃなくて平家でね。今の店の半分くらいのスペースは別の人がパン屋さんをやってたんです」という。そして1990年ごろ、この場所にビルを建て現在の店を構えたそうだ。

さあみんなで覚えよう! 火曜のランチは海老コロ&バーグの日

世の中、ヘルシー嗜好になっているけど、やっぱりとんかつは口の周りを脂ぎらせながら食べたい。

「そうっすね。うちはキャベツもおいしいので、ジューシーなとんかつと一緒に千切りキャベツを食べるほうがヘルシーなんじゃないですかっ、ガハハハ!」。長塚さんが笑うたびに、筆者もつられて笑顔になる。話しているだけで元気をくれる人だなあ。この人が作る料理はおいしいに違いない。

平日は木曜日以外、毎日このラインナップで実施。
平日は木曜日以外、毎日このラインナップで実施。

ちなみにランチは日替わりがお得だ。たくさん食べられる人ならごはん、味噌汁、キャベツのおかわりが無料なのもうれしいところ。レギュラーメニューのとんかつ各種もオーダーできる。

「うちはあんまりこだわりがないんですよ。肉は昔から付き合いのある問屋さんから仕入れているんですけど、産地に頓着せずにおいしくていい肉だったら外国産も使います。ガハハハ! ウマけりゃオッケーですよ」。

とんかつメニューは昼、夜限らず食べられる。
とんかつメニューは昼、夜限らず食べられる。

好物のヒレカツにも心揺さぶられたが、日替わりランチのエビクリームコロッケと煮込みハンバーグ1000円をいただくことにした。

銘柄に頓着しないと言いつつも、良品の見極めはシビアな長塚さん。現在も初代から使っている生パン粉と大豆白絞油を使っているのはちょっとしたこだわりだ。

 

やや粗めの生パン粉だ。
やや粗めの生パン粉だ。

「一般的にとんかつはラードで揚げるところが多いと思うんです。確かにコクがあってうまいんですけど、うちのお客さんは年齢層が高めだし食後に胸焼けしてしまう方がいるかもしれない。でも、大豆白絞油だと食べやすいんです」。

自家製デミグラスソースをたっぷりかけて、筆者の目の前へ。
自家製デミグラスソースをたっぷりかけて、筆者の目の前へ。
熱い肉汁がこんこんと湧き出る。
熱い肉汁がこんこんと湧き出る。

まずはハンバーグから。ゆっくり箸を入れると、泉の如く湧き出る肉汁に目が点。ひと口大に切ってご飯と一緒に食べれば夢心地だ。やや柔らかめのハンバーグなので豚100%かと思いきや、国産牛との合挽きで、しかも牛のほうが割合が多いそうだ。

たっぷりソースをかけて食べた海老クリームコロッケ。このソースはキャベツにかけてもおいしかった!
たっぷりソースをかけて食べた海老クリームコロッケ。このソースはキャベツにかけてもおいしかった!

海老クリームコロッケは、ベシャメルソースから手作り。ごろっとしたゆで卵とプリッとした海老が衣の中に包まれていた。金ごま入りのソースは甘めで、これはきっとヒレカツにも合う。そういえば、コロッケはたっぷり油を吸っているはずなのに胃が軽い。先ほど伺った通り、秘密は大豆白絞油にあったのだ。

太く食べごたえのあるマカロニには卵とカラシがたっぷり。マスタードではなくカラシなのがポイント。
太く食べごたえのあるマカロニには卵とカラシがたっぷり。マスタードではなくカラシなのがポイント。

マカロニサラダはカラシがきいていて独特だった。辛くはないが、酸味と清涼感のある香りがいい。さらにマヨネーズとゆで卵がまろやかにさせているのだ。あー、これビールに合いそうだなあ。

夜は飲めるとんかつ屋として地域に愛されている

昼も飲めるが、やはり酒は夜がメイン。夜のとんかつメニューも昼と同様盛りの良さとコスパが人気の秘訣だが、「夜はもっとハードですよ。ガハハハ!」と長塚さんがまた笑った。ニンニクをたっぷり使ったポリネシアン定食(生姜焼きならぬニンニク焼き)メニューが自慢で、それをつまみにお酒を飲みに来る常連が多い。かくいう長塚さん本人も「大好物!」と語る。

たまたま夜のヒレカツを仕込んでいた。見るからにおいしそうだ。
たまたま夜のヒレカツを仕込んでいた。見るからにおいしそうだ。

「夜はね、ほんとよくある昭和の飲み屋さんの感じでもあるんだけど、いろんな人に来てもらうために、目を引くメニューを考えたりもしていますね」と長塚さんは話す。「うちのとんかつ1人前はけっこう量が多いんです。単品でも定食でも注文できますよ。親父の頃からこのスタイルなんです」。

とんかつとビール、またはレモンサワーも最高だ。
とんかつとビール、またはレモンサワーも最高だ。

昔からの常連は夜にやってくる人が多いそう。これまでは年齢層が高かったが、2023年に入ると20代の若者が増え、上は60、70代までと年齢層がグンと広がった。そのわけはSNSで紹介されることも増えたからだとか。

「うちはね、あんまりメニュー選びで悩んでいる人がいないんです。YouTubeとか見て食べたいものを決めてくるので。オレに写真を見せて、『これください』っていう人もいますよ。やっぱりポリネシアン定食とヒレカツは人気ですね」。

ポリネシアン定食も気になるけどやっぱりヒレカツがキター! 次はヒレカツを肴にキーンと冷えたビールかレモンサワーをいただきましょう。あー、想像しただけでも笑いが込み上げてくる。ガハハハ!

住所:東京都品川区西五反田7-5-4 長塚ビル1F/営業時間:11:30〜13:45LO・18:00〜21:00LO(ドリンクLO22:00)/定休日:木・土・日・祝/アクセス:JR・私鉄・地下鉄五反田駅から徒歩8分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢