有名店より独立した店主が真心を込めて作る渾身の一杯

新橋駅周辺には、ファストフードから食通も唸る美食の店まで多種多様の店舗が軒を連ねる。烏森口を出てにぎやかな通りから入った裏路地にある『麺屋 味方』。くよくよしたときに元気付けてくれそうな名前が気にいった。

昔ながらの日本家屋を改装した店舗。一角には同じような飲食店が並んでいる。
昔ながらの日本家屋を改装した店舗。一角には同じような飲食店が並んでいる。

店内は2階建ての日本家屋をリメイクした高い天井で開放感があり、観葉植物に囲まれたラーメン店らしからぬ雰囲気。この店は、『ラーメン二郎』で13年間修業した店主の蛯名雄輝さんにより2018年4月3日にオープンしたという。

厳しい表情で作業をする蛯名さんを見て、やっぱり名店出身だし、ガンコそうな方かもと思ったのだが、雑談を交わしているうちに飛び出した「でもねぇ、オレ、あんまりラーメン食べないんですよ」という一言にズッコケた。

青森出身の蛯名さんは上京し『ラーメン二郎 池袋店』に就職。超人気店だったため仕事は想像以上にハードだったが、本人いわく「学生時代は体育会系だったので部活感覚」で仕事をこなし、技術を身につけていったという。「行列店でしたし、ものすごくやりがいもありましたよ」と当時を振り返りつつ、「誤解されたら困るんですけど、今もおいしいラーメンを提供するべく日々、真摯に作っていますよ(食べ歩くほどラーメン好きではないが)!」と蛯名さん。大丈夫です、隆々とした腕の筋肉と粉だらけのシャツを拝見すればわかります。

厨房の中では厳しい表情だが、実は笑顔がカワイイ店主の蛯名さん。
厨房の中では厳しい表情だが、実は笑顔がカワイイ店主の蛯名さん。

ラーメンは基本的に修業してきた店の作り方や味を踏襲しつつ、「せっかく自分の店を出したのだからオリジナルを」と開発したのが、朝限定メニューのきしめん450円と、まかないサンド550円だ。

自家製麺するきしめんはラーメンと同じ生地で作る。
自家製麺するきしめんはラーメンと同じ生地で作る。

つるっと喉越しのいいきしめんは、関西風のカツオだしでいただく。「トンコツは一切入ってません。そこにラーメンのように好きなトッピングができるので、チャーシューを乗せる人もいますよ。最近はきしめん狙いの常連さんも増えています」と蛯名さん。

そしてテレビでも取り上げられたことがあるまかないサンド。パンはそのときによりバンズかイングリッシュマフィンで、自慢の分厚いチャーシューとレタス、タルタルソースを挟んでいる。

やわらか〜い豚バラチャーシューのサンドイッチで朝から元気100倍!
やわらか〜い豚バラチャーシューのサンドイッチで朝から元気100倍!

朝営業はだいたい週に1回、7〜9時に実施。「ありがたいことに好評なのですが、1人でやっているので未明から仕込みをしても間に合わなくて今は週1くらいがやっとなんです」。

2年がかりでやっと借りられたという店舗。客席は全5席だ。
2年がかりでやっと借りられたという店舗。客席は全5席だ。

忙しい店のフォローをしてくれているのが、会社員の奥さま。会社が休みの日は店の手伝いをしたり、インスタでの情報発信&管理をまかなっている。「営業時間は夫の体調と体力と相談、みたいなところがあって。今日は昼だけ、明日は昼と夜と、営業時間がまちまちなんですよ。基本2週間分の営業時間を決めてカレンダーをインスタにアップしています」と奥さま。

せっかく来たのに閉まってた〜、と店の前でがっかりしないように来店前に必ずインスタをチェックしてから行こう。

山盛り野菜と分厚いチャーシューに、豚のうまみが溶け出したパンチのあるスープ

きしめんやまかないサンドもいいけれど、看板メニューをいただかずには帰れない。一番人気のラーメン(塩)1000円をお願いします。

基本的にはラーメン(醤油、辛、塩)、と汁なしラーメンといったメニュー展開。たまに限定も登場する。
基本的にはラーメン(醤油、辛、塩)、と汁なしラーメンといったメニュー展開。たまに限定も登場する。
麺は毎日オーション(小麦粉の銘柄)で自家製麺する。並は茹でる前で200g、写真は“ややマシ”で300gほどだ。
麺は毎日オーション(小麦粉の銘柄)で自家製麺する。並は茹でる前で200g、写真は“ややマシ”で300gほどだ。

厨房の片隅に置かれた製麺機で毎日麺を打っている。二郎系でも店舗により麺の形状はさまざまなのだが、蛯名さんの作る麺は中太の平たい麺でややちぢれている。

カネシ醤油に漬け込んで仕上げるチャーシューは豚バラとウデがある。
カネシ醤油に漬け込んで仕上げるチャーシューは豚バラとウデがある。
アツアツの麺を箸1本で上げるのも修業先で学んだという。
アツアツの麺を箸1本で上げるのも修業先で学んだという。
切った瞬間に肉汁がほとばしる分厚いチャーシュー。
切った瞬間に肉汁がほとばしる分厚いチャーシュー。

スープは豚ゲンコツ、豚の背脂、バラ肉を4時間ほど煮込んだもの。そのあとバラ肉をカネシ醤油(二郎系ではおなじみの混合醤油)に漬け込む。「やわらかいのですぐ味が染みるんですよ」と蛯名さん。

山盛りのもやしも乗って、ほどなく着丼。
山盛りのもやしも乗って、ほどなく着丼。

蛯名さんの作業をじっと見守っているうちに出来あがった。うわぁ、なんて存在感なんだ。無意識にゴクリと喉が鳴った。

トッピングのもやしが重くて、丼の底から麺を引っ張り出すのに苦労した。麺は太くて弾力がある。
トッピングのもやしが重くて、丼の底から麺を引っ張り出すのに苦労した。麺は太くて弾力がある。

麺はモチモチと弾力があり、噛むほどに小麦の香りがふわ〜っと鼻に抜ける。ガツンと豚の旨味が利いたスープは、ほんのり醤油っぽい色をしている。

 

さらりとしたスープだが、脂が多めでパンチがある。
さらりとしたスープだが、脂が多めでパンチがある。

スープと麺の相性を確認したら、続いてラーメンの総大将・チャーシューにも着手。一口ではとても食べられない大きさで、しっかり醤油が利いている。そこへシャキシャキのもやしをパクリ。1分ほどでさっと茹でることでこのシャキシャキ感を出しているのだそう。こってりした口の中がもやしでリセットされ、何回でも箸を運びたくなる。この感覚がたまらない。

箸で持ち上げたら崩れてしまうくらいやわらか〜い。
箸で持ち上げたら崩れてしまうくらいやわらか〜い。

いくつもの観葉植物、スケボー、レゲエ……蛯名さんの好きなものに囲まれた店内

蛯名さんご夫婦と話をしているうちに、すっかりリラックスしている自分に気がついた。そうか、店内の植物たちがそうさせるのかも。ちょっとラーメン屋さんにしては……緑が多めかも!?

天井につかんばかりにスクスクと育っているアレカヤシ。
天井につかんばかりにスクスクと育っているアレカヤシ。

すると、目を輝かせながら蛯名さんが語り出した。

「オレなんか撮らなくていいんで、ウチの子たちを撮ってくださいよ! いちばん大きなのがアレカヤシっていうんですけどね、左のほうは2代目。右は奥さんのお母さんが開店祝いにプレゼントしてくれたんです」といって目尻を下げる。

スープを炊いたり、麺を茹でたり、店内に蒸気が充満していて温室のようになっているため、植物たちにはいい環境なのだとか。アレカヤシをきっかけに、すこしずつ観葉植物の鉢が増えていった。店内に飾っている大好きなスケボーや、レコードから流れるレゲエも蛯名さんのお気に入りだ。

カウンターの上にも自由に伸びる植物たちが! 「植物のためにしょっちゅうホームセンターに行ってるんですよ」と奥さまからのミニ情報アリ。
カウンターの上にも自由に伸びる植物たちが! 「植物のためにしょっちゅうホームセンターに行ってるんですよ」と奥さまからのミニ情報アリ。

「だいたい朝4時に来て夜まで店にいるんですよ。だからリラックスできる店にしたいなと思ってたらどんどん自分の趣味のものが増えていきました(笑)。こういう自分だけの空間作りたかったんですよ」と蛯名さん。

ターンテーブルの上にはメニューもあるが、周囲にいろんな“好きなもの”が。情報量が多すぎるかも。
ターンテーブルの上にはメニューもあるが、周囲にいろんな“好きなもの”が。情報量が多すぎるかも。

「外観は古い日本家屋の店舗だから、見た目は何屋さんかわかりにくいでしょう? だから最初は入り口にラーメンのポスターとかも貼ってたんですよ。中もカウンターとイスだけでいかにもラーメン屋さんっぽい感じだったんですけど、今は自分らしい感じでいいかなって(笑)」と、満面の笑み。

じゃあ、もうこの店はある意味で蛯名さん家じゃないですか。今度から入るときには「お邪魔しま〜す」って言わなきゃ。もちろん、ラーメンもマシマシでお願いします。

住所:東京都港区新橋4-6-10/営業時間:7:00〜9:00・11:00〜16:00・17:30〜20:00(売り切れ次第終了)
※その日の営業についてはInstagramを参照/定休日:日(ほか不定休あり)/アクセス:JR・地下鉄・ゆりかもめ新橋駅から徒歩5分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢