「浴室は、窓を大きくして自然の光を取り込むことにこだわっています」と、4代目の石井健介さん。その言葉通り、外光がたっぷり入る浴室は、湯船がキラキラと光を反射して明るく開放的な印象。
店名と雰囲気から、最近できた施設かと思いきや、その歴史は古いと石井さん。
「一番古い記録で、大正12年(1923年)にはあったことがわかっています。震災で湯船も大きく揺れて大変だったという話も聞いています」
最初は千駄ヶ谷で営業を始めたが、第二次世界大戦で消失して築地で再建。昭和31年(1956)に現在の東中野にやってきたという。
少なくとも100年以上という、見た目と名前からは意外な歴史を重ねている銭湯だった。
汲み上げた地下水を機械に通して軟水化させているため、しっとりとした肌触りが特徴的な水質。肌の保湿や疲労回復、冷え性などに効果があるとされている。
内湯の脇には、大きなテレビモニターが。石井さんは「テレビは、ブラウン管だった時代から設置しているので、常連さんにはお馴染みになっています。これも父のこだわりですね」と話す。
テレビがあると音声が俗っぽくて、非日常感が妨げられることもある。
しかしここでは、音声がオフにしてあり字幕があるので、見たい人にも見たくない人にも、程よい存在感なのが良い。
昭和31年に東中野で再建されてから数度のアップデートをしてきた同店だが、平成22年の改装で導入されたのが「炭酸泉」。
お湯に炭酸ガスが溶け込んでおり、ゆっくり長く入ることで、炭酸ガスが血管を拡張させ血流を良くするとされている。
炭酸が抜けにくいように37~38度に設定されているため、何も考えずにゆっくり入ってボーッとするのがオススメ。
じっくり入ることで保温効果が長続きし、湯冷めしにくいのも特徴だ。
サウナの設定温度は男湯で105度(女湯90度)とストロングな設定で、コアなサウナファンも唸る熱さになっている。そんなサウナは、2022年6月にさらなるアップデートを遂げていた。
「オートロウリュと、その熱気をサウナ室全体に拡散させるファンを取り付けました。当時、都内の銭湯では初めての設備だったんです」
ファンは、体に風が直接当たらないように設置されており、ロウリュの熱が頭上から舞い降りてくるような体感がある。
サウナで追い込んだ後は水風呂。14度という低めの設定でバブルもついているので強めの冷たさがあるものの、水質のおかげか肌へのタッチは柔らかい。
ビギナーにもマニアにも愛される水風呂だ。
深さも100cm近くあるため首元まで浸かることができて、火照った体をしっかり冷やしてくれる。
こちらの目玉といえば長さ7mほどある屋外プール。都内の浴場施設で、この規模のプールがついている施設は見たことがない。
石井さんによれば「3代目が『とにかく他にないものを』という思いから作りました。夏場は28度、冬場で18度くらいですね」とのこと。
サウナ後に水風呂がわりに利用する人も多く、通常の水風呂と違って、プカプカと浮かべるのが楽しい。平日の昼など、利用者の少ない時間には泳ぐことも可能だ。
筆者も、初めて利用した際は全裸で泳ぐことに違和感を覚えたが、今ではめっきり虜になっている。
プールの脇には露天風呂。
日替わりで、コラーゲン・ラベンダーなどの入浴剤が入っているが、特徴的なのは「木酢液」という聞きなれないものが入った日。
木酢液とは入浴剤ではなく、炭を作る際に出た液体のことで、抗菌や脱臭などの効果があるとされている。オーガニックなガーデニングをする人にはお馴染みだ。
焚き火の煙のような香りがするので、他ではなかなか味わえない入浴体験ができること間違いなし。
100年以上の歴史を紡ぎ、アップデートを続ける『アクア東中野』。更新も大事だが、銭湯にとっては維持も重要だ。維持に欠かせない清掃について、石井さんは次のように話す。
「開店前に清掃する銭湯も多いんですが、うちは絶対に営業後すぐにやります。朝までほったらかすより、すぐに掃除をする方が綺麗に保てると思います」
営業後となると、深夜0時~2時くらいまでの作業となる。スタッフの確保も容易ではないはずだが、清潔さへのこだわりが垣間見える。
軟水と強めのサウナ、そして名物のプールを楽しみに、『アクア東中野』へ出かけて見てはいかがだろう。
/アクセス:JR・地下鉄東中野駅から徒歩2分
取材・文・撮影=Mr.tsubaking