職人が手作りする個性的なビール

ギネスのサーバーも見えるカウンター席。いい雰囲気だから、ちょっと気取ってみたい気分になる。
ギネスのサーバーも見えるカウンター席。いい雰囲気だから、ちょっと気取ってみたい気分になる。

日本にクラフトビール(Craft Beer)が誕生してからすでに30年以上は経つ。ビール好きの筆者も何度か飲む機会はあったが、積極的に「今日はクラフトビールを飲むぞ」と意気込んで酒場に繰り出したことはない。いつものように、いつもの店で、いつものビールで喉を潤すのが常である。だから、クラフトビールに関しては初心者といえる。

まず、クラフトビールについて整理しておこう。クラフトビールとは、小規模なビール醸造所(ブルワリー)でビール職人が造るビールのこと。以前、地ビールブームというのがあったが、地ビールとクラフトビールは同じもの。ビール造りにおいて、醸造所やビール職人の考え方が明確に打ち出されるようになり、職人が手作業で造り出すことからをCraft(クラフト/手工芸品)に例えてクラフトビールと呼ぶようになった。

つまり、「職人」が「手作り」する「個性的」なビールということになる。今回訪ねるのはクラフトビール専門店の『vivo!』。どんなビールに出合えるのか楽しみだ。

20年も前からクラフトビールに目をつけていた

オーナーの佐々木博之さんとスタッフの七絵さん。
オーナーの佐々木博之さんとスタッフの七絵さん。

オーナーの佐々木博之さんは2003年に池袋東口にショットバーをオープンさせた。しかし、ただのショットバーでは特徴がない。何か売りになるものを作りたいと考えたとき地ビールに目を付けた。当時はまだ地ビールが流行る前だったという。

そこで海外のボトルビールを中心に70~80種類を備えたビアパブをオープンした。やがて、国産の地ビールが流通するようになり、国内のブルワリーなどと親交を深めていくなかで、2010年、現在地に移ったのを機に樽生クラフトビール専門店にしたという。

冷蔵庫直結のタップから注がれる樽生クラフトビール

冷蔵庫と直結した22個のタップが並ぶ姿が圧巻だ。
冷蔵庫と直結した22個のタップが並ぶ姿が圧巻だ。

サンシャイン通りからビルの地下1階に降りていくと、シックで落ち着いた空間が広がっている。目を引くのがカウンター後方にあるタップ。タップとはビールの注ぎ口のことで、タップの数だけクラフトビールの種類があるということになる。

『vivo!』のタップは上下2列に計22個。つまり、最大22種類の樽生ビールを注ぐことができるわけだ。樽生ビールは3坪ほどの広さがある冷蔵庫に常時30樽が用意されている。この日用意されていたのは16種類。国内はもとよりアメリカ、ベルギーなど海外のものもある。海外のものを中心にしたボトルビールも15種類ほどあるので、ビールアイテムはかなりの数になる。

この中から好みに合うものを探すののは大変だが、メニューブックにはブルワリーやビールの特徴が記載されているのでビール選びの参考になる。迷ったらスタッフに尋ねるといい。飲みたい味や産地などを伝えればきっと好みに合うクラフトビールを選んでくれるはずだ。ビールのサイズは(S)280ml、(M)350ml、(L)470mlと3種類あるので好みの量でオーダーできる。

「エールは泡を少なく、ピルスナーはガス圧を強くなど、ビールによって注ぎ方を変えています」と話す七絵さん。
「エールは泡を少なく、ピルスナーはガス圧を強くなど、ビールによって注ぎ方を変えています」と話す七絵さん。

ハウスビールとビールによく合うフィッシュ&チップス

VIVOハウスエール42 S950円、M1100円、L1250円。フィッシュ&チップス1200円。
VIVOハウスエール42 S950円、M1100円、L1250円。フィッシュ&チップス1200円。

ハウスビールになっているのがvivoハウスエール42。なんと、東京都豊島区要町の『スナークリキッドワークス』というブルワリーに、この店のためだけに造ってもらっているという。「アメリカンホップを100%使用し、柑橘系の香りがする飲みやすいビールです」。そう教えてくれたのは七絵さん。

通年の商品だが、夏場であればスッキリと、冬場であれば味わい深く、季節に合わせて1回の仕込みごとに少しずつレシピを変えて造ってもらっているという。

このビールに合うのが、ビールの定番つまみともいえるフィッシュ&チッブス1200円。白身魚を衣に包んで揚げたイギリスの代表的な料理で、自家製タルタルソースとモルトビネガーにつけて味わう。軽い食感なのでサクサク食べられ、ビールの味を邪魔しない。

落ち着きのある色調でまとめられた店内。いい時間が過ごせそうだ。
落ち着きのある色調でまとめられた店内。いい時間が過ごせそうだ。

訪れるたび新しいビールに出合える

三面六臂S1050円、M1200円、L1350円。セロリのレモン醤油漬け600円、長ねぎのマリネ700円。
三面六臂S1050円、M1200円、L1350円。セロリのレモン醤油漬け600円、長ねぎのマリネ700円。

おすすめのビールとして紹介してくれたのが北海道のブルワリー『忽布古丹(ほっぷこたん)醸造』の三面六臂(さんめんろっぴ)。季節限定品で、苦みが少なく、柑橘とコリアンダーシードのハーブでスッキリと飲める。

ビールは時期限定のものもあるし、売切れたら違うビールを入荷するので常時メニューが異なる。また、毎月、ブルワリーごとのイベントも行い、イベントに関連したビールも入荷するので、訪れるたびに異なるビールを楽しめる。

料理はイタリアンをベースにしたものが中心で、パスタやピザもあるのでビールとともに食事を楽しむ客も多い。一番人気はセロリのレモン醤油漬け。爽やかな清涼感があり、香味野菜の癖があまりないのでビールのつまみに丁度いい。さっぱり系のつまみでは長ねぎのマリネも人気があるという。

クラフトビール入門は、まずブルワリーを知ること

熱心な『vivo!』ファンも多く、彼らのリクエストもあってTシャツ、パーカー、トートバックなどのオリジナルグッズも生まれた。
熱心な『vivo!』ファンも多く、彼らのリクエストもあってTシャツ、パーカー、トートバックなどのオリジナルグッズも生まれた。

店のコンセプトは「BEER+DINING BAR」。ふらっと立ち寄って軽く一杯という使い方もできるし、料理が豊富なので食事処としての利用もできる。クラフトビールを極めたいという客も大歓迎だ。もちろん、主役はクラフトビールだ。

クラフトビールの魅力は、まず、個性的であること。多彩な味があるので、好みのビールを探してみよう。ブルワリーの特徴や考え方を知ることもキーワードの一つになる。

前述した東京都豊島区要町の『スナークリキッドワークス』には、池袋から地下鉄で1駅という街にブルワリーがあることに驚かされた。街の小さなブルワリー。どんなビール職人が造っているのだろう。

1杯のグラスビールを前にして、ブルワリーや職人の姿を思い描いてみるのも楽しそうだ。そんなことを繰り返すうちにクラフトビールの魅力にはまっていくのだろう。そう感じた。

住所:東京都豊島区東池袋1-20-5 七富久ビルB1/営業時間:16:00~23:00(土・日・祝は15:00~)/定休日:無/アクセス:JR・地下鉄・私鉄池袋駅から徒歩5分

取材・文・撮影=塙 広明 構成=アド・グリーン