お客様に早く提供ができ、ロスも少ない“細麺のうどん”の発想からスタート
都営地下鉄新宿駅が最寄りだが、小田急線南新宿駅からも同じくらい近い。新宿駅周辺の近代的なホテルや高層ビルがありながら、個人店や年季の入った雑居ビルも残っていてどこか懐かしい雰囲気だ。
左手に見える代々木ゼミナール本校の前を通過して道なりに坂を下っていくと、十字路の角に『楢製麺』がある。
『楢製麺』は2019年5月にオープン。都内の某有名うどん専門店で修行を積んだオーナーの楢原慎司さんが、長年描いてきた『細麺の店を出してみたい』という夢を叶えたのがこの店だ。
「ここから徒歩5分くらいのところにある『うどん慎』は、私が独立して2011年5月に開いた最初の店です。天ぷらは揚げたて、麺は打ちたて、切りたて、茹でたてにこだわってコシのあるうどんを提供しています。一般的にうどんを茹でるのに15分くらいかかるのですが、オーダーを受けてすぐ提供するためにお客さんがいてもいなくてもずっとうどんを茹でていなきゃいけないんです。すると当然、フードロスが毎日たくさん出ちゃうんです」と楢原さん。
『楢製麺』では前述の打ちたて、切りたて、茹でたてを踏襲しながら、「細麺だとスープのロスもない、麺も1分ほどで茹であがるのですぐ提供できるうえに麺のロスもない」と語る。つまり、環境にもやさしい。しかも、無添加・無化調、麺に塩とかん水不使用とカラダにだってやさしいのだ。
コンセプトは“うどん屋がやってる細麺”。かん水ナシ、塩ナシの新感覚麺
『楢製麺』を象徴するのはやはり麺だろう。いったい、その正体は何なのか楢原さんに聞いた。
「開発を始める時に、うどん屋が作る細麺なのでうどんのようななめらかな食感があることと、5秒前後のゆで時間にしたいというテーマがありました。一般的にうどんは塩水と小麦で作るんですが、 うちは塩もかん水も使わないからうどんでもラーメンでもないっていう(笑)。言うなればうどんの進化系ですね」。
うどんの塩やラーメンのかん水は小麦粉をまとめる目的で添加する。その代わりとして入れているのは卵だ。卵の独特な味と香り、そして「麺を噛んだときのプリッと感がいい」と楢原さんは胸を張る。
また、早い茹で時間にもこだわる。楢原さんはとんこつラーメンの本場、福岡・久留米の出身。「地元のラーメン店だと麺を5秒くらいで茹で上げるんですよ。だからうちも5〜8秒であげてます」。
え、うどんなのに秒であげるんですか⁉ 驚きのあまり楢原さんを二度見してしまった。そんなの食べたことがない。どんな味なんだろう、早く食べてみたい!
喉越しのいい細麺が、滋味深いスープが! 抵抗なく体にしみ込んでいく
オーダーしたのは一番人気の特製醤油1540円。オーダーが入ってから製麺機のさぬき一番が端正な細麺を作ってくれる。自家製麺もさることながら、こだわりはスープやチャーシューにも。
メニューの塩と醤油は、山梨県産信玄鶏と鳥取県産大山鶏のもも肉、手羽先、ガラでじっくり炊いた出汁に北海道産羅臼昆布の出汁を合わせたスープ。天然醸造の醤油と生醤油で味を整えているという。
「出汁は鶏1:昆布1の割合で入れます。贅沢に羅臼昆布を6%も入れてるんで、結構ガツンと主張が強いですよ」。そう楢原さんが言う通り、出汁を注いだ鍋を火にかけると途端に昆布の香りがぷ〜んと。ああ、いい香り!
するとまもなく着丼。
撮影していると湯気とともに上がってくる鶏と昆布の香りが誘惑してくる。楢原さんが「のびやすいので早く食べてください!」と言うので、早々にカメラを置いていただきます!
まずは麺から。太さや食感はひやむぎに似ている。小麦の香りが強いのだがふわっと卵の存在感もある。あっさりしながらも鶏油のコクやりんご酢のまろやかさが、麺とスープをつないでくれている。
チャーシューは3種乗る。信玄鶏の低温炙りチャーシュー、北海道産夢の大地豚トロチャーシュー、宮崎県産豚肩ロースチャーシューだ。鶏はしっとりしながら炭火で炙ったスモーキーさがあり、このメニューのプレミアム感を高めている。
楢原さんによれば、「タケノコと味玉はカツオと昆布出汁で味付けています。タケノコは鹿児島産のマタケで、無添加で真空にしてあるものが年中届くんですよ」とのこと。よく出汁がしみていてまるで煮浸しみたい。シャクシャクといい食感で、甘く香りもいい。
無添加・無化調、麺に塩を加えないなどカラダにやさしいからかもしれないが、スポンジに水が吸い込むように抵抗なく体に吸収されていく『楢製麺』の看板メニュー・醤油。その感覚はおかゆに似ている。ちょっと風邪気味で食欲ないなあ、なんて日にはコレをツルッと1杯食べて早めに布団に入りたい。きっと翌朝になったら元気を取り戻していることだろう。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢