ちょりんた(@chorinta)さんフォト_1
profile:ちょりんた
インスタグラマー
平日は会社員、週末はフォトグラファーとして活動。
Instagramでは、旅やアート、建築の写真や動画を発信。

今回のフォトコンテストは、対象となるスポットでの撮影がマスト。「歴史・文化にまつわるスポットを巡る」と聞くと、修学旅行のような、ちょっとお勉強っぽい旅を思い浮かべる人が多いかも知れない。ところが少し視点を変えるだけで、どこも魅力的な被写体ばかり。

7つのモデルコースが提案されているが、ちょりんたさんがチョイスしたのは「三英傑の一人“徳川家康”ゆかりの地を巡る」という、広域エリアにまたがるコース。

「徳川家康はメチャメチャ有名な歴史上の人物。そんな人と静岡との関係性が一番伝わってきそうに感じられたのが、このコースだと思いました。家康さんは人生の大事な分岐点に立った時代、ちょうど静岡で過ごしていたというから、そんな気持ちや体温のようなものが、感じられる写真を撮りたいですね」

最初に向かったのは、静岡県西部の大都市浜松。元亀元年(1570)、それまで本拠としていた岡崎城を嫡男の信康に譲り、家康は遠江の曳馬(引間)城を大幅に改修。浜松城と名も改め、自らの居城とした。その頃の家康は、三河と遠江の2カ国を治める大名となっていたのだ。岡崎では支配地域の西に偏っているのと、駿河に進出していた武田信玄という強敵に備えるための移転であった。

浜松八幡宮の拝殿写真は、手前の枝をぼかして立体感を出した。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
浜松八幡宮の拝殿写真は、手前の枝をぼかして立体感を出した。 撮影/ちょりんた(@chorinta)

この時期の家康は、とにかく苦労の連続。同盟を結んでいた織田信長の要請に従い、各地の戦場へ援軍として出向いていた。さらに、戦国最強と謳われた武田家と国境を接していたから、文字通り心休まる日はなかった。

そんな折、城の鬼門を守る氏神として、家康自身が数度社参したのが「浜松八幡宮」である。境内には、三方原合戦で武田軍に敗れた家康が、身を隠したと伝わる楠もある。

そこでちょりんたさんが撮影した写真からは、古い社に息づく古木の生命力が溢れていた。歴史スポットを撮影する場合、どうしてもメインとなる建物や場所に目がいってしまいがち。あえて言い伝えに着目し、それを切り撮るのも面白いと感じさせられた。

家康が身を隠したという言い伝えが残る楠の古木。枝が画角からはみ出した構図からは、生命力の強さが感じられる。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
家康が身を隠したという言い伝えが残る楠の古木。枝が画角からはみ出した構図からは、生命力の強さが感じられる。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
楠を撮影中のちょりんたさん。
楠を撮影中のちょりんたさん。

続いて訪れた「元城町東照宮」は、明治時代になって曳馬城跡に創建された社。家康が浜松に入る前は、東照宮が建つあたりが城の中心であった。城跡らしい遺構は見当たらない小さな神社だが、ちょりんたさんは隣接する建物で御城印を発行しているのを発見。

そこに行かなければ手に入らないものは逃さない、という姿勢も忘れてはならない。そして境内では、甲冑姿の徳川家康と日吉丸(後の豊臣秀吉)が並ぶ像にフォーカスした。

手に入れた御城印を持ち、さっそく撮影。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
手に入れた御城印を持ち、さっそく撮影。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
元城町東照宮の境内に建つ家康と秀吉の像。真ん中に立てば出世するとか!?  撮影/ちょりんた(@chorinta)
元城町東照宮の境内に建つ家康と秀吉の像。真ん中に立てば出世するとか!?  撮影/ちょりんた(@chorinta)

「やはり青空を背景にしたお城は、どの角度から見ても絵になりますね。でも何も考えずに正面から撮影したのでは、平凡な写真になってしまいがち。奥行きが出るように、あえて被写体の手前に“何か”を入れ込み、立体感が出るようにしたいですね」

家康が壮年期に過ごした浜松城は、決して大きな城ではないが、家康が大きく飛躍した時代に居城としていたため、そこはかとない威厳が漂っている。ちょりんたさんの撮影テクニックはあえて空を広くし、手前に木の枝を少し入れることで、立体感とともに城が持つ威厳まで強調しているように感じられる。

同じように、城内に建つ壮年期の家康像も、あえて手前に植え込みを入れ、それをぼかすことで、写真に立体感が生まれるうえ、後ろに建つ主人公たる家康像が際立っている。この像を何度も見ているのだが、撮影された写真は驚くほどチャーミングだった。

背景の空を画面に大きくとり、手前に木の枝を入れて奥行きと開放感を強調した浜松城。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
背景の空を画面に大きくとり、手前に木の枝を入れて奥行きと開放感を強調した浜松城。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
これも手前に植木を入れ、後方の家康像を際立たせた構図に仕上げている。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
これも手前に植木を入れ、後方の家康像を際立たせた構図に仕上げている。 撮影/ちょりんた(@chorinta)

浜松城の後は、史実をなぞるように駿府城に移動した。駿府は今の静岡市で、家康は天正14年(1586)に浜松から駿府に居城を移している。だが天正18年(1590)には豊臣秀吉の命により、関東へ移封され江戸城に入った。しかし慶長12年(1607)になると、家康は再び駿府城に移り、そこで外交などの政治を執ったため、“駿府の大御所”と呼ばれた。

復元された駿府城の櫓と門。左上に見える静岡県庁の建物との対比が面白い。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
復元された駿府城の櫓と門。左上に見える静岡県庁の建物との対比が面白い。 撮影/ちょりんた(@chorinta)

駿府では今川家の人質であった青少年期、5カ国を治める大名となった壮年期、そして江戸に幕府を開き、それを息子に引き継いだ後の大御所時代を過ごしている。駿府は家康にとって特別な地であったのは間違いない。

そんな駿府城は現在、駿府城公園となっている。復元された櫓や門があるが、ちょりんたさんがとくに着目したのが、公園内にある駄菓子屋さん。店内には静岡市民が愛して止まない「しぞーかおでん」が、じつに美味しそうに煮込まれていた。

今回紹介するのは、あえておでんの写真ではなく店の暖簾。ちょりんたさんは「逆光を上手に使って、エモーショナルな雰囲気のある写真にしました」とコメント。何気ない1枚だが、確かに旅情が感じられる。

おでんの暖簾が夕陽に照らされていたので、逆光を上手に利用して映える写真に。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
おでんの暖簾が夕陽に照らされていたので、逆光を上手に利用して映える写真に。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
逆光写真撮影中のちょりんたさんを順光で撮影。
逆光写真撮影中のちょりんたさんを順光で撮影。

自らの死期を悟った家康は、側近に「死して後、遺骸は駿河の久能山に納めるように」と遺言している。元和2年(1616)5月、2代将軍徳川秀忠は家康の遺言に従い、久能山への社殿創建に着工した。

社殿は国宝に指定されているだけあり、その絢爛豪華さは、誰もが目を奪われる。ところがちょりんたさんは、逆光の中に凛と立つ鳥居の上に、光をためた樹木が覆う写真がお気に入りと語る。同じように、表参道の石段を下りている際、一ノ門が逆光で額縁のように見える写真もおすすめとのこと。その他の久能山東照宮の建造物写真については、次回詳しくふれていきたい。

絢爛豪華な建物も素敵だが、日本文化が持つわび・さびを感じさせる雰囲気の写真に、多くの人が惹かれる。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
絢爛豪華な建物も素敵だが、日本文化が持つわび・さびを感じさせる雰囲気の写真に、多くの人が惹かれる。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
表参道の石段を下ると、一ノ門越しに駿河湾が望める。太陽の位置を計算して撮影した1枚。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
表参道の石段を下ると、一ノ門越しに駿河湾が望める。太陽の位置を計算して撮影した1枚。 撮影/ちょりんた(@chorinta)

久能山からはバスで清水駅に向かい、さらにバスを乗り換え、清見寺前のバス停からすぐの場所に建つ清見寺も、家康と縁深い古刹だ。

長い歴史を感じさせる清見寺。建物の外観も絵になるが、内部は映え写真の宝庫だった。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
長い歴史を感じさせる清見寺。建物の外観も絵になるが、内部は映え写真の宝庫だった。 撮影/ちょりんた(@chorinta)

戦火に巻き込まれ焼失した寺を再興したのが、家康の幼少期に教育係を務めた太原雪斎禅師であった。そうした関係から、家康はこの寺で、雪斎禅師の手習いを受けたと。大方丈には、家康公手習いの間が残されている。

ここも「インスタ映えする写真が随所で撮影できます」とちょりんたさん。そのあたりは、次回以降に詳しくふれる。

大方丈に残されている家康公手習いの間。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
大方丈に残されている家康公手習いの間。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
部屋全体を収めるための撮影ポジションがとれないため、部屋の全体撮影は難しい。
部屋全体を収めるための撮影ポジションがとれないため、部屋の全体撮影は難しい。

チョイスしたモデルコース、最後の訪問先は富士宮にある「富士山本宮浅間大社」。富士山の噴火を鎮めた御神徳により崇敬を集め、富士山信仰の広まりとともに全国に祀られた浅間神社の、総本宮である。

「ここでは神社と富士山を、いかに上手に写真に収めるかがポイントですね」

果たしてどんな写真が撮影できたのか、楽しみにしていて欲しい。

富士山本宮浅間大社の近くから望む富士山。左下に鳥居が見える。神社と富士山がどうコラボするかが見もの。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
富士山本宮浅間大社の近くから望む富士山。左下に鳥居が見える。神社と富士山がどうコラボするかが見もの。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
楼門越しに拝殿を望む。厳かな雰囲気が伝わって来る。 撮影/ちょりんた(@chorinta)
楼門越しに拝殿を望む。厳かな雰囲気が伝わって来る。 撮影/ちょりんた(@chorinta)

第2回は歴史的な建造物を、いかにして“映え写真”にするか、じっくりと見ていきたい。

三英傑の一人‟徳川家康”ゆかりの地を巡るモデルコースDATA

モデルコースの詳細はこちら

1.浜松八幡宮 家康が身を隠した楠の大樹
☎053・461・3429/境内自由/無休/無料/静岡県浜松市中区八幡町2/遠州鉄道八幡駅から徒歩5分

2.元城町東照宮 天下人ゆかりの神社で出世を祈願
☎053・452・1634(浜松市観光インフォメーションセンター)/境内自由/静岡県浜松市中区元城町111-2/JR東海道新幹線浜松駅からバス6分の浜松城公園入口下車すぐ

3.浜松城公園 家康が築城した“出世城”
☎053・453・3872/入園自由(天守閣入館は8時30分〜16時30分:最終入館16時)/無休/入場料200円/静岡県浜松市中区元城町100-2/JR東海道新幹線浜松駅からバス8分の市役所南下車、徒歩6分

4.駿府城公園 徳川家康が大御所として過ごした城
☎054・251・0016(駿府城公園二ノ丸施設管理事務所)/入園自由(東御門・巽櫓、坤櫓、紅葉山庭園は9時~16時30分/月曜休(祝日の場合は開園)/3施設共通360円/静岡県静岡市葵区駿府城公園1-1/JR東海道新幹線静岡駅から徒歩15分

5.久能山東照宮 徳川家康を祀る最初の神社
☎054・237・2438/9時~17時/無休/500円(博物館と共通800円)/静岡県静岡市駿河区根古屋390/JR東海道新幹線静岡駅からバス50分の久能山下下車、徒歩20分または日本平山頂から日本平ロープウェイ(往復1250円)5分、久能山駅下車

6.清見寺 築山池泉回遊式庭園は国の名勝
☎054・369・0028/8時30分~16時30分(拝観受付~16時)/無休/300円/静岡県静岡市清水区興津清見寺町418-1/JR東海道本線興津駅から徒歩15分、またはJR東海道本線清水駅よりバス10分の清見寺前下車

7.富士山本宮浅間大社 家康が寄進した数々の建造物
☎0544・27・2002/境内自由/静岡県富士宮市宮町1-1/JR身延線富士宮駅から徒歩10分

静岡県には、徳川家康、源頼朝や北条氏ゆかりの地をはじめ、歴史・文化にまつわる遺産がたくさん!

#SHARE_SHIZUOKAフォトコンテストが2023年2月28日まで開催中!詳細はこちらから!

取材・文・撮影=野田伊豆守

変化に富んだ自然に恵まれた静岡県は、泰平の時代を築いた徳川家康がこよなく愛した地としても知られている。自然だけでなく、歴史や文化と出合える静岡の素敵なスポットを舞台にしたフォトコンテスト「#SHARE_SHIZUOKAフォトコンテスト」が2023年2月28日まで開催中だ。そこで日本中を旅し、各地で旅やアート、建築をテーマにした“映え”写真や動画を撮影している人気インスタグラマーの「ちょりんた(@chorinta)」さんとともに、静岡の歴史・文化の新たな魅力を探しに出かけてみた。思わず誰かにシェアしたくなるような写真撮影のヒントがたくさん詰まっているので、ぜひ参考にしてほしい。3回にわたりアプローチ法に触れていくが、2回目は歴史的な意義が詰まっている建造物を、より魅力的に撮影する方法を紹介しよう。
徳川家康は人格が形成される少年から青年にかけての時代、自身の気力だけでなく国力も充実していた壮年期、そして江戸に幕府を開いた後の大御所時代の3度、静岡で暮らしている。幼少の頃に過ごした故郷のような地であっただけでなく穏やかな気候、変化に富んだ自然が、家康の心を捉えていたようだ。そんな静岡を舞台に、2023年2月28日まで開催中のフォトコンテスト「#SHARE_SHIZUOKAフォトコンテスト」も、いよいよ大詰めだ。日本中を旅し、各地で旅やアート、建築をテーマにした“映え”写真や動画を撮影している人気インスタグラマーの「ちょりんた(@chorinta)」さんがこのフォトコンテストのメディア編集長となり、3回にわたり実際に静岡のスポットを訪ね、写真撮影のヒントやコツを紹介してきた。第3回の最終回では、静岡らしい自然と歴史が融合した風景を、より魅力的に撮影する方法に迫ってみたい。