レトロなビルに佇むタンメンとギョウザの専門店
新橋駅烏森口を出てギラギラしたネオンの海をかき分けながら歩いていくと、ちょっとレトロなレンガのビルの看板に“タンメン・ギョウザ専門店”の文言が目に入り、興味をそそられる。引き戸をあけて店に入ると、店長の平山周作さんが迎えてくれた。
新橋の駅前にはさまざまなラーメン店がある。そのなかでもひときわ目を引く『タンメンしゃきしゃき』。個人的にタンメンが大好きなので興味津々だ。なぜ専門店にしたのか平山さんに聞いてみた。
「東陽町にある『來々軒』っていう老舗の中華屋さんと交流があって、うちのオーナーがそこのタンメンのレシピを譲っていただいたんです。まあ、簡単にいうと、オーナーのタンメン好きが高じて店を出したというわけです」。
本店は最初江戸川区にオープンし現在は錦糸町に移転。ここ新橋店は2011年にオープンした2号店だ。
平山さんと『タンメンしゃきしゃき』のオーナーは中学の同級生。平山さんは前職では普通のサラリーマンだったが、会社勤めは向いてないかな、と思いながら働いていたという。
「その頃、東日本大震災があって、こんなときにやりたくないことをやってるのはなんか違うと思って退職しました。そしたらたまたまオーナーと再会して『(ウチの店で仕事)やる?』『(特別やりたい仕事があるわけじゃないし)やる』と。飲食業は初めてでしたが、そこから気づけばずるずる10年やっちゃっています」と、照れくさそうに笑う平山さんだが、10年続けばホンモノ。材料を仕込んだり鍋を振ったりするのは性に合っているようだ。
「駅前に行列のできるラーメン店があるので儲けを出すのは厳しいですよ! でも、コロナで大変な時を乗り越えてきたので投げ出せなくなっているっていうか。頑張って店を盛り立てていきたいですね」と平山さんは語る。
並でもしゃきしゃき野菜が山盛りON! 満腹食べても罪悪感ナシのタンギョウセット
メニューはタンメンとギョウザのみで、野菜増しは無料。さらにランチタイムはご飯も無料でついてくる。「丼の重さを入れずに麺大盛りと野菜マシで1.6kgくらいになるんですけど、どうします?」と平山さんが平然とした顔をして聞いてくる。い、1.6kg!? ムリムリッ。
大盛りはムリそうだがギョウザを食べてみたいので、タンメンとギョウザ(5個)のタンギョウセット1100円をオーダーした。タンメンとギョウザ2個のレディースセットもあり、「男性でもオーダー可能です」とのこと。
麺をゆで始めると同時に、スープとギョウザの準備も。タンメンは熱したスープに具材を入れたあと、野菜を被せてフタをするように蒸しあげる方式だ。まずは中華鍋で豚バラ肉を軽く炒め、具材を投入。こりゃあすごいボリュームだ。
ウワサには聞いていたけど、かなり野菜の量が多くて驚いた。「厳密に量ってないですけど、たぶん700〜800gくらいあると思う。ただ、熱が通ったらしんなりしちゃうので思ったよりイケますよ」と、平山さん。こんなに食べられるだろうか。やれるかオイ、やれるのかオイッ! と、胸に手を当てて自問する筆者。
丼にブレンドした岩塩、コショー、その他調味料、ラードを入れ、ゆでたての麺とスープ&具を乗せて完成だ。
タンメンと並行して焼いていた自家製ギョウザもこんがり焼き上がりついに実食だ。まずはタンメンから。
麺と野菜を一緒に食べたいのだけど、野菜がいっぱいすぎて丼の縁から箸を滑らせなんとか麺を引っ張り出してきた。途端に「もわん」と立ち昇る湯気を顔いっぱいに浴びながら、一気にすすれば至福のひととき。キャベツが、もやしが、ニラが、ニンジンが、しゃっきしゃきといい音を奏でる! あっさりとした塩のスープに野菜のおいしさが溶け込み平打ちのモチモチ麺が合う。
一心不乱に食べ進めていると平山さんから「半分くらいまで食べたら卓上にある自家製ラー油をかけて食べてみてください。味変になりますよ!」と、アドバイスが。ひとさじかけてみると、唐辛子の香ばしさと抜けのいい辛さで、やさしい味のタンメンが違う印象になった。これで後半は食べ進めていこう。
これは魔法の丼かな?と疑うほど、食べても食べても量が減らない気がしていたが、ラー油をかけたら食欲ターボが加速。これはいいぞ! 「ラー油はギョウザにつけてもおいしいですよ!」と言うので試してみた。肉厚でモチモチの皮の中には具材がいっぱい。持っただけでもずっしりと重い。
モチモチとした肉厚の皮の中には豚ひき肉、キャベツ、長ネギ、ショウガ、ニンニク、ニラが入っていて、砂糖や塩、コショウなどでシンプルに味付けられている。「割合的に野菜が多めです」と平山さん。
「うちのギョウザは野菜の割合が多いので、タンメンと一緒に食べて食後は満腹だ〜!と思っても、意外とこなれるのも早くてもたれにくいんですよ」と語る。
おじいちゃんもペロリと完食! 幅広い年齢層に愛される
平山さんがいう通り確かに完食後は満腹で、帰りは2度と立ち上がれなくなるのが怖くて電車の座席に座れなかった。しかし、約1時間でこなれてきて夕飯時にはちゃんとお腹が空いてきた。このタンギョウセットならめいっぱい食べても罪悪感が少ないかも。
そう感じている客も多いのか、近隣で働くサラリーマンを中心に女性の姿も目立つ。平山さんも「けっこうな年のおじいさんもいらっしゃいますよ。家系とかと違って食べやすいんでしょうね。ウチの客層は新橋にある他のラーメン店と比べると幅広いと思いますよ」と語る。
周辺には官公庁があり都会のど真ん中の新橋でありながら、田舎のおばあちゃん家みたいな手動の木の引き戸や、教室にあるような大きい黒板、そしてなんといっても時代に左右されないタンメン&ギョウザの味がノスタルジックを感じさせる。飾らず変わらない味にホッとするのかもしれない。気忙しくて心がザワザワするときはここでゆっくりタンメンをすすってみよう。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢