人間関係をも改善させる!?特別な水質
「戦時中、軍の倉庫として召し上げられていました。なので戦前からありました」と、歴史を話すのは店主の柳澤幸彦さん。2019年にリニューアルした際、徹底的にこだわったのは水質で、柳澤さんは、そのワケを次のように話す。
「民生委員をやってきて、関係が壊れた家族を見てきました。観察していると、きっかけは『父親のにおいが嫌い』などから心が離れていくんです」。
そうした経験から、汚れとにおいを取るお湯を追求するようになったのだという。
お湯は軟水で、ナノマイクロバブルを採用。
柳澤さんによれば「全国でこのお湯にできる機器を探しました。そして、馬の匂いも落とすほどのお湯をつくる会社を、北九州で見つけたんですよ」とのこと。
汚れや臭いが落ちるお湯を有効活用するため、浴槽には惜しげもなく新しいお湯が投入されている。「だから、浴槽のオーバーフローは都内で一番だと思いますよ」と柳澤さんは胸を張る。
万人を受け入れる懐の深さが垣間見える設備が、シャワーの一部に設置された硬水ゾーンだ。
「軟水は人気なんですが、最後は硬水でキリッとシメたいという方もいます。そのため、シャワーに硬水ゾーンを作りました」
あらゆる人を受け止める気概を感じる。銭湯ビギナーの方は、軟水と硬水を肌で比べてみるのも楽しいだろう。
120度!激強設定のサウナで「ととのう」
リニューアルで作ったというサウナは、マニアなサウナーをも唸らせる。
「男湯は約120度で、温度は都内トップクラスです。狭いので、温度を上げて回転も良くすると、多くの人が使えますしね」と柳澤さん。
類を見ない熱さの体験ができると同時に、待ち時間も減らすという一石二鳥になっている。
狭いスペースで満足度を高める工夫は他にも。
「水風呂の奥は1mの深さです。立って入れれば大人数が入れますからね」と話しつつ、本当は160cmという、とてつもない深さにしたかったそうだが、「溺れる人が出る」と家族に強く止められたんだとか。
綺麗であり続けるために
清潔を保つこだわりは壁面に。柳澤さんは「タイルが小さいと目地が多くなるので、カビや汚れが発生しやすいんですよ。だから大判のタイルにしました」と話す。
銭湯ではおなじみのペンキ絵も、カビの発生源になりやすいため廃止し、代わりに、浴室に向けて大きなテレビが設置されている。
絵ではなくテレビにした理由としては「風呂に入る時は、スマホも見れませんよね。だから、緊急地震速報が出た時もテレビですぐわかるようにという思いもありました」とのこと。
これらは、『松本湯』(中野区)や『巣鴨湯』(豊島区)なども見学し、リニューアルの参考にしたという。都内で人気を集める銭湯の、パイオニア的な存在となっているのだ。
銭湯界のパイオニア
さらに「今、多くの銭湯にある『LUUP』(レンタル電動キックボード)を、銭湯で最初に設置したのもうちです」と、柳澤さんの開拓心は、現在も止まらない。
実際、筆者も池袋駅からLUUPに乗って来店した。
大きな駅で乗り換えや電車を待つ煩わしさがなく、レンタル料金も165円だった。便利さもコスパも高い。
湯上りのドリンクも充実しているのが『妙法湯』の魅力。
「ガラスびん協会と組んで、全国のサイダーを取り寄せています。近隣の店で作ったビールも置いていますよ」と柳澤さんが話す通り、選ぶだけで目移りして楽しい。
こうした部分では銭湯という施設の在り方について、柳澤さんのこだわりがあった。
「銭湯は、町とともにあります。だからビールも近隣の店に頼んでいますし、当店のTシャツも大手に頼まず、近所の洋服屋さんに発注しています」。地域のコミュニティとしてだけでなく、街のハブとして機能している妙法湯は、地域に必要とされている存在だと感じた。
柳澤さんは「今後の妙法湯は、4代目に任せて行こうと思います」と話す。
経験と豪腕で、様々な変化を同店だけでなく銭湯業界にもたらしている柳澤さんから、あとを任された4代目が、若い感覚で今後どんな進化をもたらしてくれるのか期待したい。
取材・文・撮影=Mr.tsubaking