高円寺からスタートして約20年貫く、麺も香味油も各店で自家製

『麺処 田ぶし 高円寺本店』があるのは高円寺駅北口広場から西北に伸びる高円寺中通商店街。この場所で20年を迎えようとする人気店だ。

マネージャーを務める青木貴士(あおきたかし)さんは、『麺処 田ぶし』のラーメンには3つの大きな特徴があるという。

1つは香味油。厳選した煮干しとアゴを弱火でじっくり炒って、魚介独特の臭みを抑え、豚骨スープの脂に鰹節などと一緒に加えて、さらに低温でじっくり火を入れてつくるというもの。3種類の魚介の旨みと香りが油に移って香ばしく仕上がっている。

現在、麺は3種類。太麺と極太麺は全粒粉入り。手前の太麺はつけ麺、右後ろの中太は本家 田ぶし らーめんなどに使われている。極太麺は、20周年記念商品 ド煮干しつけ麵用だ。
現在、麺は3種類。太麺と極太麺は全粒粉入り。手前の太麺はつけ麺、右後ろの中太は本家 田ぶし らーめんなどに使われている。極太麺は、20周年記念商品 ド煮干しつけ麵用だ。

2つ目は自家製麺。小麦は国産にこだわり、2~3日熟成させてから使っている。「打ったばかりの麺は粉っぽいのですが、時間を置いて熟成させると水が浸透してコシが出ます」と青木さん。麺は3種類。全粒粉入りの太麺と中太麺、そして細麺。メニューによって麺が変わる。

寝かせるだけではいい麺にはならない。湿度によっても、麺の状態によってもゆで時間が変わるので、毎朝必ず麺の味見をするのだとか。

そして最後がスープだ。2日かけて完成させているスープ。1日目は、豚骨を丁寧に洗ったあとアクを取りながら煮込み、ガラを叩くようにして旨みをスープに移した後強火で数時間炊くという作業を2回。ひと晩寝かした後に鶏のモミジや煮干し、アゴを加えて、さらに炊き込む。「モミジを入れると少し甘みが出るんですよ。スープもガラの質によって濃度が変わってくるので、煮詰める時間を長くしたり、短めにしたりと工夫していますね」と青木さん。

高円寺を本店に、神奈川や静岡に10店舗近く展開している『麺処 田ぶし』では、これを各店舗でやっているというから驚く。

シンプルなメニューでも具材たっぷり

本家 田ぶし らーめんは850円。普通盛りでもなかなかのボリュームだ。
本家 田ぶし らーめんは850円。普通盛りでもなかなかのボリュームだ。

代表するメニューでもある本家 田ぶし らーめんをいただいた。初期からあるシンプルなメニューながら、チャーシューに卵、メンマとネギ、ノリとラーメンらしい具材が揃っていて、丼を目の前にしたときの気持ちを盛り上げてくれる。

もっちりした中太麺によくからむスープは寒い時期こそ、スープをレンゲですくってどんどん飲んでしまうタイプ。

香味油の鰹がしっかり香り、濃厚ながらバランスがいい味に仕上がっている。

穂先メンマもこだわりの具材。10センチ近くあるような長いメンマは、ごま油を使ってごく弱火で時間をかけて炒めている。風味がよく、穂先なので食感も柔らかだ。

お腹いっぱいになって気分よく帰ってほしい。大盛り無料。平日には学割も

入り口そばに券売機。無料の麺大盛りを希望するときは、スタッフさんに伝えればOK。
入り口そばに券売機。無料の麺大盛りを希望するときは、スタッフさんに伝えればOK。

本家 田ぶし らーめんは一杯で満足感がある。しかし、腹ペコで訪れた人に嬉しいのが大盛り無料というサービスだ。対象はつけ麺も含む全てのラーメンのメニューだ。「7、8割の人が大盛りを頼みますね」というから、若い人が多い高円寺らしい。

さらに店の心意気を感じるのが、なんと学割があること。平日限定で学生証を提示すると一杯500円でラーメンが食べられる。もちろんこちらも大盛りが無料という、サービスのよさ。店ごとに手も時間もかけて作っているラーメンで、訪れる人にはお腹いっぱいになって満足して帰って欲しいという気持ちが伝わってくる。

「最近は食材もずいぶん高騰していますが、企業努力でなんとか頑張っています」と青木さん。サービス精神だけでなく、20年の間には味噌らーめんやエビ味噌らーめんなどメニューを増やして時代の流れに合わせてきたそう。

カウンター11席のこの店で創業社長がスタートさせた『麺処 田ぶし』。今やインドネシアのジャカルタにまで店は広がり、運営している業態も焼き鳥店やイタリアンやビストロ居酒屋など幅広い飲食店企業となった。お客さんに対する旺盛なサービスだけでなく、スタッフさん達にとっても働きやすい会社を作ってきたそうだ。

その会社の精神を受けとったのか、マネージャーである青木さんは接客で心掛けていることがある。「『ありがとうございました』の後に『午後も頑張ってください』とか夜なら『お疲れ様でした』とか声をかけるようにしています。ラーメンを食べたあとに、元気になって欲しいですから。居酒屋などと比べてラーメン屋は滞在時間が短いので、少しでもほっとしてもらいたいです」。

香り高くしっかりした味わいのスープで、もっちりした麺の味とこだわりの具材も楽しめる『麺処 田ぶし高円寺本店』。お腹に余裕があれば大盛りをぜひ。まんぷくで店を後にするときは、ほっとする言葉にも耳を傾けてみたい。

取材・撮影・文=野崎さおり