静かな路地裏にたたずむコーヒーロースタリ―
駅前から歩くことおよそ2分、喧騒を離れた閑静な路地裏にたたずむ一軒のコーヒーロースタリーが『MUTO coffee roastery』だ。温かみのある手書きの黒板と、やわらかく灯る看板に惹かれて店内に入る。
取材で訪れたのは店のオープン時間より前。店内に入ると、ちょうどコーヒーの生豆を焙煎しているタイミングだった。焙煎をしているのは、店主の武藤修一郎さん。店内にある大きな焙煎機でほぼ毎日のように焙煎を行っているそうだ。
「コーヒー豆は焙煎で味が決まるんです。だから、豆ごとの味わいの特徴を最も引き出すローストポイントを見極めて、煎り止めを行う必要があります。焙煎したあとは、熱が十分に入らず茶色くならないクエーカーと呼ばれる豆や割れてしまっている豆など、コーヒーの味を落とす原因となる欠点豆を手作業で取り除いています」
こうした幾重もの工程を経て、ようやくコーヒー豆が店頭に並ぶのだとか。こうした過程を知っていると、何気なく飲んでいるコーヒーにもありがたみが感じられてくる。
生まれ育った中野で念願の店をオープン
武藤さんは、もともとコーヒー好きでいつか自分の店を開くことに憧れを持っていたそう。
そのため別の仕事をしながらも、スペシャルティコーヒーの専門店『堀口珈琲』でコーヒーの知識や焙煎の技術を学び準備を進めていた。そして2014年、ライフスタイルの変化や理想的な物件との出合いといったタイミングが重なり、生まれ育った中野で念願の店をオープンすることに。
オープンしてから丸8年が経った現在、同店はすっかり地域に愛されるロースタリーカフェとなった。
店内では常時、15種類ほどのコーヒー豆を販売している。同店で販売するのは、スペシャリティーコーヒーと呼ばれる高い評価を得た高品質なコーヒー豆。その中からさらに選りすぐった厳選のコーヒー豆を、焙煎したてのフレッシュな状態で楽しめる。
味わいのカテゴリーは「すっきりめ」「苦め」「バランス」と大きな3種類のタイプに分け、その中から個人の好みに合ったものを提案してくれるので、初めてコーヒー豆を購入する人にもわかりやすいのが魅力的だ。
コーヒー豆の販売だけではなく、テーブル席とカウンター席をゆったりと配したカフェスペースでは淹れたてのコーヒーを提供。木の温もりに包まれながらコーヒーを味わい、都会の喧騒を忘れて心安らぐひとときを過ごすことができる。
コーヒーを自宅で楽しみたい人のほか、中野で落ち着くカフェを探している人にとっても理想的な空間といえるだろう。
香り豊かなコーヒーと手作りスイーツを堪能
コーヒーは、4種類のオリジナルブレンドをはじめ、個性豊かなシングルオリジンコーヒーを多彩に用意。お湯の温度、豆の量、淹れ方によっても味わいが変わるため、豆ごとのベストな風味を引き出すべく丁寧にドリップしている。
この日提供してくれたのは、ホンジュラス/チャギテ IH-90というシングルオリジンコーヒー。焙煎度合いは、苦味とコクを引き出すフレンチロースト。瑞々しい口当たりで飲みやすく、後味にしっかりとコクも感じられるのが特徴だ。
一口飲むごとにふっと肩の力が抜けていくような、リラックスする一杯だった。
また、コーヒーと一緒に堪能したいのが手作りスイーツ。定番のベイクドチーズケーキとガトーショコラに加え、この冬からスタートし4月頃まで提供予定の季節限定メニュー、カッサータが仲間入りした。爽やかなチーズの中に、ナッツやドライフルーツのアクセントがたまらない一品だ。スイーツはコーヒーとセットにすればコーヒー代に450円追加で味わえるのもうれしい。
「おいしいコーヒーを提供することで、心が落ち着くひとときの手助けができれば」と話す武藤さん。
味わい深いスペシャリティコーヒーを日常に取り入れることで、何気ない時間も優雅なひとときへと格上げしてくれそうだ。
取材・文・撮影=稲垣恵美