元は創業約100年の酒屋
『ヤマザキショップ上総屋店』の歴史は、100年前までさかのぼる。上総(かずさ)、現在の千葉県中央部にあった酒蔵を、進藤さんのお祖父さんが東京に進出させ、店を構え「上総酒店」という酒屋となった。
お父さんの代を経て、1999年にコンビニに改装し、現在のヤマザキショップとなる。進藤さんはこのタイミングで跡を継ぎ、3代目の店長となった。上総屋店というのは、酒屋時代の名前を受け継いだもの。
コンビニ開店当初は外に雑誌を置いていたのだが、2013年に撤去しテーブル席を設置。店内にはイートインコーナーとして、お酒を飲めるカウンターを用意し、生ビールを提供した。今でこそ当たり前になっているイートインだが、当時としてはかなり先駆け。しかもお酒を飲めるのは、現在でも貴重である。
本来は生ビールのテイクアウトを目指し、フタを改良したりと工夫したが、残念ながら流行らず。酒屋時代の角打ちでは中年のサラリーマンが多かったので、若い人向けのスタイリッシュな現代版角打ちを目指し、イートインにすることでその目標を叶えた。
中古レコード店兼コンビニに
外から見えるイートインコーナーの目隠しにと、すりガラスの代わりにしたのがレコードジャケット。飾りはじめると、レコード好きな人が入ってくれるようになり、レコードジャケットを肴に飲むというスタイルが確立していった。
1週間ごとにテーマを変え、“ 来日中のアーティスト”や、四季に合わせ、夏には“海や水着”のジャケットにしたところ、コンセプトが面白いと話題に。普通のレコード店では飾らないような、日の目を見ないレコードを押し出した。
そのうちレコードを売って欲しいという人が現れ、近所にレコード店やフリーマーケットがなかったことから、定休日の日曜に店内にてフリマを決行。すると店長が出したレコードが思いの外売れ、もともと店長がレコード屋になりたかったのもあり、古物商の免許をとってレコードの買取もはじめる。
DJイベント&DJ教室
もともとジャズのライブなどを店内でやっていたこともあり、DJイベントも開催。2015年、メディア芸術祭で大賞を受賞したアーティストの岸野雄一さんがDJをしていたことから、レコードコンビニも話題となり100人以上が集まる。
これをきっかけにイベントの依頼が舞い込み、近所の中洲町会からは若い人たちが少ないので盛り上げて欲しいということで、檜の上に機材を持ち込んでDJブースを作り、DJ盆踊りを開催する。
他にも銭湯でDJをしたり、レコードの出張販売などをしたりと、店を飛び出し凱旋的なイベントを続け、レコードコンビニの名が広まっていく。今も店内でのDJイベントはほぼ毎週末行われており、直近ではレコードコンビニから徒歩100mくらいの浜町船着場近くの隅田川テラスにて、野外フェス的な堤防DJを行った。
また、地下の倉庫を改装したスタジオでは月末にDJ教室も開いている。珍盤亭 娯楽師匠さんによるCDJ教室とバイナルDJ教室の他、スクラッチ教室もあり、InstagramとTwitterで生徒を募集している。
コンビニを通した町づくり
進藤さんがたまたま好きだったレコードと音楽をきっかけに、レコードを聞いたことがない人も集まりはじめ、コミュニケーションを通してさまざまなことが生まれてきたレコードコンビニ。以前はこのあたりの下町界隈とのつながりだけだったが、最近は中野や高円寺など西側との交流も生まれている。
「やったことないことをやりたい」という進藤さん。地元の人に浜町が面白いと思って欲しいという思いが第一にある。「こんなことやったことないよね、浜町にこんなのないよね」というお客さんの意見を吸い上げて、とりあえずやってみるのがモットー。ときには失敗することや、人が来ないこともあるけれど、実行することが何より大事だというレコードコンビニの今後の活動に目が離せない。