はじまりは明治21年のカトリック教会。

目白坂本店があるのは、30年ほど前まで工場があった場所。
目白坂本店があるのは、30年ほど前まで工場があった場所。

『関口フランスパン』のはじまりは、カトリック教会内の製パン工場だ。当時の神父が孤児院の子供たちに手に職をつけさせる手段としてパンを作ることになったのだ。その教会というのは、丹下健三の建築として知られる東京カテドラル聖マリア大聖堂を有する関口教会のこと。当時の名称は小石川関口教会だった。

明治21年(1888)に始まったパンの製造は、後に高世啓三氏が職人ごと引き継いだ。小田原を訪れた宣教師が、小田原教会の有力信者で、炭やガスを扱う実業家だった啓三氏に事業を引き継いでくれないかと請うたのだ。

入り口付近に創業当時の写真も。
入り口付近に創業当時の写真も。

当時、フランスパンを焼く店は珍しく、各国の大使館や在留外国人たちもこぞってパンを買いに来たという。現在『関口フランスパン』は高世啓三氏のひ孫さんたちが経営している。

広々とした店内に並ぶパンは毎日100種類ほど

店に入ると、商品棚に種類豊富なパンがずらっと並んでいる。入り口近くにあるフランスパンから始まり、デニッシュにカレーパン、ピザパイ、食パンもいろいろ。冷蔵ケースにはサンドイッチもたっぷり。品揃えの豊富さにテンションが上がってしまう。1日の時間帯によっても、季節によっても商品は入れ替わるが、毎日ほぼ100種類近い商品が並ぶそうだ。

フランス産発酵バターを使ったロイヤルクロワッサンは食感サクサク。
フランス産発酵バターを使ったロイヤルクロワッサンは食感サクサク。

今、いちばんのおすすめはロイヤルクロワッサン。「口の中でジュワーっとバターを感じるように作っています」と話すのは、高世啓三氏のひ孫に当たる専務取締役の高世英司さん。以前からクロワッサンはあったが、2022年にコンセプトごと変更。何度も試作を重ねて完成させた自慢の品だ。ランス産の発酵バターを折り込み、バターが溶け出さないよう発酵の温度に気遣ったクロワッサンはサクサクで塩加減もまろやか。

左からバゲット、低温長時間発酵バゲット、フィアセル。いずれも303円。
左からバゲット、低温長時間発酵バゲット、フィアセル。いずれも303円。

低温長時間発酵バゲットも人気がある。生地を低温で長時間醗酵させることにより風味が一層引き立つバゲットで、1日に複数回焼き上がる。カットした状態で販売している方を買うと、香りに誘われて帰り道につまみ食いしたい衝動に駆られてしまう。

子供たちに人気のチョココアラは173円。とろりとしたチョコクリーム入り。
子供たちに人気のチョココアラは173円。とろりとしたチョコクリーム入り。

甘い菓子パンも種類豊富だが、特に子供たちに人気なのは愛らしいチョココアラ。ソフトな生地の中にチョコクリームがたっぷり入っていて、見た目と相まって自然と目頭が下がってしまう。チョココアラはガシャポンのモチーフにもなったことがあるのだとか。

いちばん古い商品のひとつ、フォンデュ。素朴な形がなんともいえない。
いちばん古い商品のひとつ、フォンデュ。素朴な形がなんともいえない。

いちばん古くからあるのは、フォンデュという名前のフランスパンだ。しかし昔から全く同じ味とはいかないらしい。「当時と同じ材料は手に入りませんし、どの材料も品質が向上したので、以前よりおいしくなっています。日本人の好みに合わせて、食感もソフトに変化しました」と高世さん。

「朝食用に食パンがおいしいとおっしゃるお客様もいますよ。キングブレッドというパンが一番人気で、夕方に焼きたてを出しています」。

「ミニデニッシュ6個入りパック」843円。
「ミニデニッシュ6個入りパック」843円。

デニッシュや惣菜パンの豊富さに驚く一方で、高世さんの話を聞いていると、バゲットなどのフランスパン、食パンなど、生地がメインのパンに重点を置いていることがわかる。

「やっぱりね、なんだかんだ言ってフランスパン、食パン、ロールパン。こういう素材としてのパンがいちばん大切だと思います」。つまり、パン作りにごまかしがないということだ。

歴史をつなぐため。時代に合わせて変化

「アンドがうまいのよ」と高世さんが言うあんどーなつは206円。もっちりした生地の中にこしあんが詰まっていて食べ応えも◯。
「アンドがうまいのよ」と高世さんが言うあんどーなつは206円。もっちりした生地の中にこしあんが詰まっていて食べ応えも◯。

『関口フランスパン』が大切にしているのは、教会時代から受け継ぐ、心を込めて手作りする精神。それからいい材料を使って、おいしいパンを作ること。お客様の立場で考えること。そして守りに入りすぎず、変化させていくことだ。

専務取締役の高世英司さん(右)とスタッフのみなさん。
専務取締役の高世英司さん(右)とスタッフのみなさん。

「当初は本当にフランスパンだけだったようです」。しかし昭和の初期には種類が少ないと商売しづらいと菓子パンなども作り始め、種類が増えていった。

現在ではカフェの併設や、外部のコンサルタントを交えた商品開発のほか、インターネットでの注文や宅配なども行ない、レジも自動でパンを識別してくれるものを導入。『関口フランスパン』は時代に応じて様々な変化を受け入れ生み出して、これからも続いていく老舗といえそうだ。

住所:東京都文京区関口2-3-3/営業時間:8:00~18:00(日・祝~17:00)/定休日:無/アクセス:地下鉄有楽町線江戸川橋から徒歩6分

取材・撮影・文=野崎さおり