創業はパン屋から。タカセビルの1階は、おいしそうなパンと洋菓子がたっぷり
創業は大正9(1920)年。現在のタカセビルとは少し離れた場所だったそうだが、今と同じ池袋駅の東口前でパン屋としてスタート。昭和10(1935)年頃にはパンと洋菓子の販売、喫茶店、レストランと営業の幅も広がっていった。しかし、戦争で建物が焼失してしまう。戦後すぐに4階建てのビルを建て、昭和53(1978)年、現在のタカセビルが建築された。
パンやケーキは板橋にある工場から毎日7回配送されるので、常に作りたてが買える。「作り方は昔からあまり変わらず、職人による手作りの味を守っています」と常務の森さん。では昔とまったく変わらないかというとそうではなく、さらに洗練した味わいになるよう材料を見直すこともある。「もっとおいしくできるのではないか」を常に考えているそう。例えば定番のシュークリームに入れるカスタードクリーム。かつては香料としてバニラエッセンスを使っていたが、より豊かな香りを求めてバニラビーンズを使うようになった。ブラッシュアップを欠かさず、歴史を重ねてきた老舗だと感じる。
大きな窓とゆったりしたインテリアが魅力の9階コーヒーラウンジ
1階の奥からエレベーターに乗り9階へ。エレベーターホールを降りると、すぐ目に入るのがガラスケースに入ったサンプルだ。デパートのレストランを思い出す。懐かしい〜。いかにも老舗喫茶という感じのクリームソーダの緑色が鮮やかだ。
大きな窓からたっぷりの日差しが入る店内はとても明るく、十分な広さがあるのでゆったりした雰囲気だ。ピカピカの床や照明、そして重めのカーテンに「すてきな店に来た」と感じる。
池袋駅を見下ろす贅沢は9階でこそ
2階の喫茶室と9階のコーヒーサロンでメニューの違いはあまりないが、池袋駅東口が一望できるこの風景は9階ならでは。さっきまで歩いていた場所を上から眺めていると、なんだか不思議な気持ちになる。この日はあいにく雨が降ったりやんだりの天気。青空ならばもっといい景色だろうと思うが、色とりどりの傘が開いたり閉じたり、薄く黒い雲が流れていくのをぼんやり見ているのもなかなか穏やかで贅沢な時間だ。
フルーツとクリームたっぷり。ガラスの器に盛られたプリンアラモード
横長のガラスの器にのってきたお手本のようなプリンアラモード。フルーツソースがかかったアイスクリームと生クリーム、フルーツが満載だ。一番上のチェリーの赤が全体をきりっと引き締める。昨今のレトロブームでSNSでも人気なのも納得のかわいさだ。
プリンはバニラの香りと卵の風味が強く、昔ながらのしっかりとした固さ。なめらかな舌触りで、やさしい甘みとカラメルソースの苦味が絶妙だ。乳脂肪分にこだわった生クリームで作るホイップクリームは、オーダーが入ってから手で立てる。作りたてなのでふんわりと軽く口の中で溶けていく。アイスクリームの冷たさもいいアクセントだ。
「池袋に行くならタカセがあるね、といつでも言ってもらえる店でありたい」森さんはそう話す。いつ来ても変わらない定番の味。しかし時代とともにブラッシュアップを重ね、新しい商品にも挑戦していく。老舗ならではの安心感、そして窓からの風景とたくさんの楽しみ方がある店だ。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ 構成=アド・グリーン