創業1930年。愛され続けるメニューを提供し続ける老舗洋食店でランチをいただく
子供の頃、特別な日にはレストランで食事するのが楽しみだった筆者にとって、あつあつの鉄板にのったまま運ばれてくるハンバーグステーキはまさにスペシャルメニュー。その中でも、特別な「ごちそう」といえるのが老舗洋食店『つばめグリル』で食べるハンブルグステーキだ。
今回のランチの目的は、久しぶりに『つばめグリル』のハンブルグステーキをいただき、子供の頃に感じたワクワク感をふたたび体験すること。さっそく『つばめグリル』がある品川へ向かう。
旗艦店である品川駅前店は、JR品川駅から徒歩2分という好立地だ。高輪口を出て左を見ると大きな看板があるので迷うことはない。店を見た途端、なぜか早足で店に向かう。
店内に入ると、まず目に入るのが、正面にあるオープンキッチン。
「『つばめグリル』では、すべての店舗がオープンキッチンになっています。お客さまに調理する様子を見ていただくことで、安心・安全であるということを知っていただくためです」と教えてくれたのは品川駅前店のショップマスター(店長)である日向秀夫さん。
日向さんは1989年入社のベテラン店長さん。銀座店や二子玉川店などを歴任し、現在では旗艦店である品川駅前店のショップマスターだ。フロアー全体を見ながら、お客さん一人ひとりに気を配る。常連客には日向さんファンも多く、会えないと残念がる人もいるそう。
休日には家族と外食するのが楽しみという日向さんは、「食事のためにでかけても、つい、そのお店のスタッフさんの接客を見てしまいます」と言って笑う。いつでも勉強し続ける、まさに接客のプロだ。
「当社は昭和5年(1930)に新橋で創業しました。店名の“つばめ”は、特急つばめ号からきています。運転開始当時は新橋駅に停車していましたが、やがて新橋駅を通過するようになり、その名を後世に残すために『つばめグリル』としました」と日向さんが店名の由来を教えてくれた。現在は新橋にお店はなく、ここ品川駅前店が旗艦店となっている。
アルミホイルには、絶品ハンブルグステーキと老舗のプライドが包まれている
今日の注文はもちろん、つばめ風ハンブルグステーキランチ2046円。アルミホイルで包み焼きにするという調理方法は、肉や魚を包んで蒸し焼きにするパピヨット料理をヒントに開発されたそう。1974年から続く人気看板メニューで、来店した客の8割は注文するという。ふっくらとアルミホイルで包み焼きされたまま提供される、つばめグリルの看板メニューだ。
「ハンブルグステーキに使っている牛肉・豚肉は国内の生産者から一頭まるごと仕入れています。セントラルキッチンで8cmのブロックに加工し、肉の鮮度を保つために、ひき肉にするのは各店舗で行います」。
まさに「挽きたて・あわせたて・焼きたて」のハンブルグステーキだ。
テーブルにランチが運ばれてきた。まず目がいくのが、あつあつの鉄板の上にのり、パンパンに膨らんだアルミホイルだ。この中には待ちに待った「ごちそう」が入っていると思うと、はやく開けたい気持ちでいっぱいになる。早速、開封の儀式だ。
フォークで開封すると、蒸気とともにハンブルグステーキと特製ビーフシチューが混ざりあい、凝縮された濃厚な香りがふわっと広がる。まさに「ごちそう」感いっぱいの演出だ。あつあつの鉄板のうえで、まだぐつぐつと煮立ったままのビーフシチューの中にハンブルグステーキが現れる。
ハンブルグステーキの上には、自家製ビーフシチューソースでとろとろになるまで煮込んだ牛肉の塊がごろりと乗っている。さっそく、一口いただくと、ステーキのふんわりとした食感とコクのあるビーフシチューの濃厚な味わいが混ざり合い、口の中に広がる。ハンブルグステーキからは肉汁があふれ、肉そのものの味わいをしっかりと楽しめる。
包み焼きすることで、ビーフシチューソースとステーキの味がそれぞれを引き立てて、絶妙なバランスを生み出している。あつあつのハンブルグステーキの下にはしなしなのいんげん豆。このしなしな食感とすこし残った苦みが味のアクセントになっている。
付け合わせは、まるごと1個のベイクドポテトにクレソン。ポテトの食感と味わいに合うように、バターにひき肉を混ぜた専用のソースがかかっている。もちろん、ビーフシチューソースをかけてもおいしくいただける。こまかいところまで老舗らしいこだわりがあるのだ。
つばめ風ハンブルグステーキは、アルミホイルを開封するときのワクワク感からメインのハンバーグから付け合わせまで、まさに「ごちそう」ハンブルグステーキだった。とてもおいしくいただきました。
必ず注文したい! 絶品トマトのファルシーサラダにもこだわり満載
もう1つ注目したいのがトマトのファルシーサラダ。ハンブルグステーキを注文するときには、ぜひともトマトのファルシーサラダ付きのランチを選びたい。湯むきしたトマトを少しくり抜き、そこへオニオン、セロリ、チキンのサラダを入れて特製ドレッシングをかけた一品だ。このサラダを目的に訪れる常連客も多いそう。ひと口いただくと、ドレッシングと冷えたトマトの酸味が混ざりあい、クセになる味わいだ。
子供のころのワクワク感をもう一度経験したいとの思いで注文したハンブルグステーキ。歴史のある洋食店が長い年月守ってきたメニューを久しぶりに味わってみると、「おいしい」だけではなく、食材選びから調理方法までこだわりが詰まった料理と、丁寧で温かい接客が合わさってこそ本当の意味での「ごちそう」だと再認識した。近いうちに、そしてこれから先も、このワクワク感を求めて来店するのは確実だ。
次回はディナータイムに来て、ハンブルグステーキと店長おすすめの人気メニューである自家製ソーセージの盛り合わせ、そしてビールをゆっくりと楽しもうと心に決めて、お店をあとにした。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=羽牟克郎