カウンター6席の店から4店舗を展開する大人気店へ

初めて下りた京急本線北品川駅。歩道橋を渡って国道15号を超えた向こう側へ。
初めて下りた京急本線北品川駅。歩道橋を渡って国道15号を超えた向こう側へ。
駅正面のガソリンスタンド横の路地を進み、右に曲がって行き止まりのビル2階が店舗。
駅正面のガソリンスタンド横の路地を進み、右に曲がって行き止まりのビル2階が店舗。
行列時は、階段下にある看板を参考に。
行列時は、階段下にある看板を参考に。

『中華そば 和渦 TOKYO』店主の高橋宏幸さんは、煮干しラーメンのお膝元、青森出身。高校卒業後に上京し、ラーメン人生の第一歩は、濃厚チーズとんこつの人気店『九十九ラーメン』から始まった。修業すること十数年、ある時、名店『不如帰』でラーメンを食べて衝撃を受けた。修業先の濃厚とんこつラーメンとは真逆の清湯ラーメン。これがきっかけで「自分で店を出すなら清湯ラーメンだ」と目指すラーメンが決まった。

『中華そば 和渦 TOKYO』店主の高橋宏幸さん。4号店オープンで超多忙な日々。
『中華そば 和渦 TOKYO』店主の高橋宏幸さん。4号店オープンで超多忙な日々。

2016年5月23日、大井町に『中華そば 和渦』をオープンしたのは、高橋さんが36歳の時。清湯ラーメンで独立の夢を果たし、看板には愛妻の名を掲げた。

都心からも遠く駅から離れた場所だったが、「感動するくらいおいしければ、お客様は足を運んでくれる」。その思いから、修業先とは違う味で、あえて難しい道を選んだ。強い信念で納得いく味を目指すうち、カウンターだけの小さな店に、少しずつ人があふれるようになっていった。

「大勢の人が来てくれるのはうれしい。でも、お客様をお待たせするのは忍びない」と、高橋さんは移転を決意する。現在の北品川の広い店舗に移転したのは、2019年4月15日のことだった。

広々とした明るい店内に、カウンター5席、テーブル4席×2・2席×3の計19席。
広々とした明るい店内に、カウンター5席、テーブル4席×2・2席×3の計19席。

移転を機に、念願の自家製麺も開始した。「中華そば屋たるもの自家製麺で」という思いが強く、独学で創り上げた麺に合わせて、スープやタレなども見直していったという。リニューアルしたラーメンにも多くの人が詰め寄せ、瞬く間に大人気店へと上りつめた。

2021年に2号店『MENクライ』、2022年5月に3号店『メイドインヘブン』、同年9月に4号店『らーめん亭 ひなり竜王』がオープンし、現在、4店舗を展開するまで急成長した。そんな多忙な高橋店主に変わって店のことを答えてくれたのは、店長の大町さん。

「社長の引き出しの中には、たくさんやりたいものがあると思うんですよね。いまこのラーメンができたら、次はこっちのラーメンをやってみたいと、次々に新しいアイディアが生まれてくるんです」。そうやってタイプの違う店舗を創り上げていったのだ。

お話をうかがった、店長の大町さん。
お話をうかがった、店長の大町さん。

もともと地元の茨城県で飲食店を営んでいた大町さん。36歳の時にお店をたたんでフィリピンのセブ島に留学し、そこでラーメン店出店の話があり、研修を受けたのがラーメンの世界に入ったきっかけだったそう。その後、コロナ禍で帰国し、『中華そば 和渦 TOKYO』の門戸を叩いた。

一緒に働くうちに高橋店主の人柄に惹かれていったという大町さん。「何よりも社長の人柄が大きいですね。すごいエネルギッシュなんです。人一倍働き者っていうか、働いてる感覚もないくらい。マグロみたいな人なんですよ。すごく人当たりもよくて、こんなにバランスのとれた人が世の中にはいるんだなって思いましたね」。

もち小麦に出合って自家製麺がさらにおいしく!

お話をうかがうだけで魅力あふれる店主が作りあげた味が楽しみに! 早速、店長の大町さんに、おすすめの一杯を作っていただいた。

手際よくラーメンを作る大町さん。広い厨房の奥には自家製麺の要、製麺機が見える。
手際よくラーメンを作る大町さん。広い厨房の奥には自家製麺の要、製麺機が見える。

おすすめの特製醤油そばは、山水地鶏や岩中豚などの動物系に、野菜や乾物などを加えたスープ、6種の醤油をブレンドした醤油ダレを合わせたもの。醤油のキレがある、個性が強めのラーメンだ。

特製醤油そば1150円。スープにも使われている岩中豚の大判チャーシュー2枚、麺が隠れるほど具だくさん。
特製醤油そば1150円。スープにも使われている岩中豚の大判チャーシュー2枚、麺が隠れるほど具だくさん。

「飽きられないように少しずつ配合を変えたり、細かなブラッシュアップもありますが、実は年に一回、6種類のうち1種類が違う醤油になるほど、それくらい大きく変えるんですよ」と大町さん。初期のラーメンとはかなり違う味ながら、また食べたくなってしまう、ここでしか食べられない味だというところは変わっていない。

ラーメン用には切刃22番のしなやかな細麺。スープが絡んで麺がきれいな醤油色に。
ラーメン用には切刃22番のしなやかな細麺。スープが絡んで麺がきれいな醤油色に。

少しずつブラッシュアップを重ねていった麺は、2号店『MENクライ』でもち小麦に出合ったことでさらに変わったという。ラーメン用の細麺にはもち小麦をブレンドするようになって、もちもちでつるっとした喉越しに。ワンタンの皮は、ふわとろやわらかな口当たりで、なんともち小麦100%! 今では系列店の全店でもち小麦を使うようになり、自家製麺のレベルは格段にアップした。いつまでも啜っていたい味わいで、さらにおいしくなったのは食べてみればよくわかる。

特製には山水地鶏と岩中豚のワンタンが1ずつ入る。もち小麦100%の皮に包まれた肉餡がジューシー!
特製には山水地鶏と岩中豚のワンタンが1ずつ入る。もち小麦100%の皮に包まれた肉餡がジューシー!

佐野実リスペクトで山水地鶏や醤油、小麦粉、丼にもこだわる

「おいしい麺を食べてもらいたい」という方向へシフトしてきた高橋店主。各系列店でももち小麦を使用したモチモチ極太手打ち麺、喜多方や佐野ラーメンからヒントを得たピロピロ太縮れ麺と、一度食べたら忘れられないおいしい麺を生み出してきた。

合わせて変わっていったスープは、卓上に置かれた食材の蘊蓄(うんちく)を見ただけでわかる人もいるはず。ラーメンの鬼と呼ばれた故・佐野実御用達の山水地鶏などの食材が使われている。

黄金色に輝くベースのスープは、見た目からもおいしさが伝わってくる。
黄金色に輝くベースのスープは、見た目からもおいしさが伝わってくる。

『支那そばや』は修行先ではないが、「佐野さんをリスペクトしていて、丸鶏や醤油、小麦粉など、佐野さんが使っていた食材をこちらでも使わせていただいています」と高橋さん。他にも、醤油そばが盛りつけられた丼は、佐野氏がラーメン専用に開発した有田焼の丼だ。おいしいラーメンのためのこだわりは、佐野氏の偉業から学び、それを乗り越えて、メンマや玉子などいたるところに施されている。

本枯れ節でまぶしたメンマは、完全発酵原料の「タケマン」のメンマを使用。
本枯れ節でまぶしたメンマは、完全発酵原料の「タケマン」のメンマを使用。

壁に掲げた高橋店主の写真には、「ラーメンに想いをのせて、食べさせたい一杯がここにある」と書かれていた。ここまで“こだわり”と書かせていただいたが、真摯に食材に向き合い、大切に調理し、あたり前のことを職人として、ただあたり前にするだけ――そう語りかけてくるようだ。本当に感動するくらいおいしい、想いのこもった一杯をぜひ味わってほしい。

住所:東京都品川区北品川3-2-1 MTM STUDIO2F/営業時間:11:00~14:30・18:00~21:00(土・祝は11:00~14:30)/定休日:日/アクセス:京急電鉄本線北品川駅から徒歩1分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代