自分へのご褒美メシには絶対行きたい、大森の意外な名店

例えば仕事で大きな成功を収めた時、子どものテストがいい結果になった時など誰しもこんなことを思う時はあるだろう。「せっかくだから、今日は奮発しちゃおう」と。

たまには豪勢なものを食べたい、自分にご褒美をあげたい、そんなときに行くべき店……というのを大森で探すとなると意外と苦戦する。なんせオフィス街で居酒屋は多いものの、そのほとんどは庶民の味方とばかりにリーズナブルな価格なところばかり。せっかくだから豪勢なものを食べようという気分のときにはイマイチハマらない。

そんな特別な気分の時にぜひ行ってほしいのが『たか濱』だ。駅から歩いて2分……いや、駅から目の前、実質1分くらいのところに「こんな立派な店があったのか!?」と驚かされるはずだから。

お店は駅の目の前のビルの中という好アクセス。そのためお忍びで来店するという芸能人も数多いという。
お店は駅の目の前のビルの中という好アクセス。そのためお忍びで来店するという芸能人も数多いという。
店内に入ってすぐ目に入るのがこのカウンター席。ここではおひとりさまのお客さんが気軽にお酒を楽しめるようになっている。
店内に入ってすぐ目に入るのがこのカウンター席。ここではおひとりさまのお客さんが気軽にお酒を楽しめるようになっている。

「大森の街はビジネス街なので、うちみたいなところはちょっと珍しいかもしれないですね」と答えてくれたのは店長を務める久川さん。しかし、いい意味で大森らしからぬお店には会社帰りの重役クラスの方々がこぞってやってきては絶品の料理に舌鼓を打つという。多少値は張るかもしれないが、それでも“本物”が食べられる、間違いないお店だと言えるだろう。

全部で100席ほどあるが、中でも人気なのはこの水槽のある個室。ソファ席なのもムードを高めてくれる。
全部で100席ほどあるが、中でも人気なのはこの水槽のある個室。ソファ席なのもムードを高めてくれる。

まさに隙なし。こだわりぬいたフルコース

メニューを見ると、創意工夫を凝らしたアラカルトメニューが数多く名を連ねていたが、「せっかく来たのなら、これぞ『たか濱』というものを召し上がってもらいたい」という久川店長のおすすめに合わせ、季節のコースをオーダーした。

これがお店自慢のコース料理(6000円)。それぞれ季節の旬のものを取り入れるというコンセプトで季節ごとにメニューは変わる。
これがお店自慢のコース料理(6000円)。それぞれ季節の旬のものを取り入れるというコンセプトで季節ごとにメニューは変わる。
まずは前菜。合鴨のロースと卵のチーズ寄せ、そして姫サザエのつぼ焼きがうれしい。
まずは前菜。合鴨のロースと卵のチーズ寄せ、そして姫サザエのつぼ焼きがうれしい。

コース料理だけに一品一品提供されるが、最初にやってきたのが前菜。梅干しが入っているのが面白い姫サザエのつぼ焼きに、合鴨のロース、そして卵焼き?の3点かと思われたが……早速、『たか濱』のこだわりをここで見ることになった。

「卵焼きっぽいかもしれませんが、実はこれ、卵のチーズ寄せなんです」

確かに箸でつまんで見ると、卵がきめ細かく、一口かじるとふんわりとチーズの甘さが口に広がってくる。まるで上質なチーズケーキを食べているような気持ちに。そして、サザエに梅を乗せたのはえぐみ抜きのため。料理長の高い技術力がこの一皿で浮き彫りになった。

この日の刺身5点盛り。真ん中にある小鉢にはサーモンのピリ辛和えというオリジナルメニューが入っている。
この日の刺身5点盛り。真ん中にある小鉢にはサーモンのピリ辛和えというオリジナルメニューが入っている。
画力満点の黒毛和牛のステーキ。ソースの香りが食欲をそそる。
画力満点の黒毛和牛のステーキ。ソースの香りが食欲をそそる。

この日のメインは黒毛和牛のステーキ、そして刺し身の5点盛り合わせ。どれも旬のものを使った絶品だったが、筆者が一番印象に残ったのは刺し身に入っていた小鉢。当初はチャンジャかと思っていたら、実はこれサーモンのピリ辛和えというオリジナルメニュー。確かにピリッとした辛味が酒によく合う。

この日のご飯ものは真鯛とカンパチのてまり寿司。見た目にも美しい。
この日のご飯ものは真鯛とカンパチのてまり寿司。見た目にも美しい。
丁寧に仕上げられたタラの西京焼き。お酒との相性も抜群だ。
丁寧に仕上げられたタラの西京焼き。お酒との相性も抜群だ。

その後も魚料理が続き、真鯛とカンパチのてまり寿司に酒との相性が抜群にいいタラの西京焼きを堪能。ちなみにこの日最初に用意いただいたお酒はビールだったが、それもただのビールではない。無濾過という技法を用いて作られた「白穂乃香」というもので、普段よりもフルーティーな味わいが楽しめる。

この日用意していただいたビールは「白穂乃香」という無濾過な特別な物。フルーティーで飲みやすいのがポイント。
この日用意していただいたビールは「白穂乃香」という無濾過な特別な物。フルーティーで飲みやすいのがポイント。

その他、前菜としてシーザーサラダ、最後に甘味としてメロンをいただいたが、これで総額6000円のコースというのだから、想像よりもはるかにリーズナブルに思われる。

「実を言うと、内心もうちょっとアップしてもいいかなと思うんですけど……このご時世ですし、街の雰囲気に合わせるとこれ以上値上げはできないかなという感じです。せっかくならおいしいものを皆さんに食べてもらいたいですし」という久川店長の思いあふれるコースとなっていた。

魚から肉まで、全てにおいて繊細な味わいに料理長のハイレベルな調理が施されていた印象だったが、これこそまさに『たか濱』のこだわりだと久川店長は言う。

「うちのこだわりは何と言っても仕入れなんです。『その日一番おいしい食材を一番おいしく食べてもらう』というのがポリシーなので、仕入れから人一倍気を配りますし、やってきた食材はベストな調理法で召し上がってもらう。当たり前と言えばそれまでですが、それを突き詰めていくことで最高のパフォーマンスを提供しています」

こだわりと柔軟性がお店をより高みへ

「その日一番おいしいものを一番おいしく食べる」というシンプル過ぎるがゆえに難しいテーマを掲げ、お客さんたちと向き合っている『たか濱』。それだけに味にはうるさいツウな客の来店も多く、中には日頃から美食を楽しんでいる芸能人でもひいきにしている方がいるという。

ひとりひとりの席に用意されているシートはその日ごとに変更されるこだわりぶり。この日は夏の花火大会をイメージしたものに。
ひとりひとりの席に用意されているシートはその日ごとに変更されるこだわりぶり。この日は夏の花火大会をイメージしたものに。

こうしてみると『敷居が高い店』という風に思いがちだが、実際にお客さんと久川店長やスタッフとのやり取りを見ていると、意外なまでにフレンドリー。メニューのチョイスもお酒の進め方もスタッフがメニューごとにどれがベストな選択かを丁寧に説明し、そのチョイスを客も信頼して注文し、結果満足しているという様子がうかがえる。

「僕らもこだわりはありますが、それだけではなくお客様の声をいただいてそこでフィットするものがあれば取り入れるという感じですね。例えばお酒の仕入れなんかは常連さんのご意見を参考にするときもありますよ」

「その日、最高なものを食べてもらいたい」という思いに加え、お客さんの声を聞き入れ痒い所に手が届くようなサービスも実現させる。こうした柔軟性が『たか濱』を大森屈指の名店にしている所以と言えるだろう。

「なんだかすごく敷居の高いお店に見えちゃうのかもしれないですが(笑)、全然そんなことないので大森に来られた際はぜひ。きっと満足して帰ってもらえると思います」

住所:東京都大田区大森北1-1-2ブルク大森4F/営業時間:17:00~24:00/定休日:無/アクセス:JR京浜東北線大森駅から徒歩2分

構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌弘