納得のいく味ができずに一度お店を閉めて再度修業に
末広町駅を出るとすぐ蔵前橋通りに出るのだが、御茶ノ水方面に向かって歩いていくとまあラーメン店の多いこと! この辺りも紛れもなくラーメン激戦区である。店の前で店主の渡邊泰隆さんが迎えてくれた。
30歳のときに脱サラしてラーメン店を立ち上げた渡邊さんは、弟の琢哉さんと一緒に板橋区蓮根にあった「ラーメン Y’s」で修業をし、2000年に『神田ラーメン わいず』を立ち上げた。しかし、「オープン当時はなかなかお客さんが来てくれなくて苦労しました」。
そこで渡邊さんは一念発起し、いったん店を閉めて修業しなおすことを決め、横浜の有名店で再度修業。そして、スープを一から作り直した。「『どうせならあり金全部使っちゃえ!』って材料に目いっぱいお金をかけて、スープの寸胴にバンバン入れちゃって(笑)。髄や肉の表面にある旨味だけを抽出したいから、長く煮込まずに材料を頻繁に入れ替えるという今の方法にしました」と渡邊さん。
鶏ガラや豚ガラは長く煮込むと濃度が出るが臭みも出てしまう。「臭みがあるのがいいという人もいますが、うちの場合は臭みのない、濃厚でかつキレのあるスープに仕上げているんです。ビールでいうところの一番絞りみたいなものですね(笑)」。
スープの調理方法を変えた頃、『神田ラーメン わいず』がたまたま情報誌に取り上げられて注目を集め、人気店になったそうだ。店が軌道に乗ってきた2015年、末広町駅からすぐのこの場所に2号店となる『秋葉原ラーメン わいず』をオープン。周辺は多種多様のラーメン店が密集し、かなり厳しい場所ではあるが「やりがいはあります!」と目を輝かせる。
超濃厚なのに後味スッキリ! キレ味のいい濃厚ラーメン
こだわりはスープだけではない。全国の有名ラーメン店で使用されている三河屋製麺所の特製麺を使用する。「それまで三河屋さんの既存の麺を使っていたんだけど、さらにおいしい麺を作るべく、オリジナル麺を共同開発したんです。ラーメン用や豚そばなど、それぞれのメニューに合わせて麺を変えているんですよ」。
というわけで、まずは1番人気ののり玉ラーメン1090円をいただくことにした。トッピングには、ほうれん草、チャーシュー、海苔、ネギと家系の定番が乗る。
麺はモチっとしながらも加水率が高めなため喉越しがよく、濃口醤油がキリッと利いているスープは濃厚だが後味はスッキリ。ときどき、シャキシャキのほうれん草やとろ〜り半熟の味付け玉子を食べて味を変化させる。しっとりした厚めのチャーシューは焼いてから低温調理をしているからスモーキーだ。
こういうパンチのあるラーメンを食べると、みるみる力がみなぎっていくようだ。夢中で食べていると、渡邊さんからこんなアドバイス。「ラーメン用の麺は、時間がたっていくと麺から旨味や水分が溶け出してきてもっとおいしくなるんですよ」。
のり玉ラーメンを半分食べたところで、渡邊さんから「これも食べてみてくださいよ!」と差し出されたのは、豚そば990円。
デーンと厚くて大きなチャーシューが2枚。スープで煮込まれたキャベツともやしが山になっている。雪崩のように山の側面を覆う刻みニンニク、頂上には背脂がパラリ、パラリと冠雪。いわゆる二郎系だ。
「試作と試食を重ねて2022年にやっとデビューしたのがこの豚そばです。豚そばに合う甘みのある特製醤油を開発したんです。ガツンと醤油が利いておいしいでしょう?」と、渡邊さん。
醤油のかえしがガツンと利いた濃厚なスープと、モチモチ歯ごたえのある極太麺、そして大ぶりなチャーシュー。すべてにおいてモーレツなパンチの応酬だ。加えてスープで煮込まれた野菜もシャキシャキ感があり、食べやすくてまろやか。アキバ系男子を中心に話題になり、さっそくファンもついているようだ。
舌の肥えた人が多い秋葉原。だから強い個性を武器に勝負をかける
秋葉原駅から末広町駅まで歩いてくる間にもラーメン店がちらほら見受けられる。蔵前橋通りやジャンク通りは、とりわけラーメン店がひしめく密集地隊で、そのど真ん中に位置する『秋葉原ラーメン わいず』はまさに最前線だ。
「この辺りは舌の肥えたお客さんが多いと思うんですよ。うまい店はあっという間に話題になって、クチコミが伝わるのも早いですしね。だから、とにかくおいしいものを作ることが大切かな」と、笑う渡邊さんだ。
「それから、秋葉原によく来るお客様の傾向として、ひとつ気に入ったら“この店”で“このラーメンを食べる”というのがだいたい決まっている感じがします。なので、万人に好かれる味よりも、個性を強調して熱烈なファンを増やしていきたいんです」。
2020年には楽天市場で通販事業も開始。お取り寄せサイト「宅麺.com」では2年連続もっとも売れた家系ラーメンにもなった。自宅でもこの店の味が食べられると好評だ。渡邊さんは、「ラーメンが好きな人は全国にいます。店に来たくても来られない遠方の方にもうちのラーメンを食べてもらいたいと思って始めました」と語る。
気軽に外食ができなくなった昨今、こうした方法で全国の認知度向上をもくろむ。もしかして世界や宇宙までも狙っているかも!? 渡邊さんの夢は尽きない。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢