新宿の“穴場的酒処”でいただく創作和食
新宿三丁目駅C7出口から徒歩5分、新宿御苑駅からは徒歩8分程度。新宿6丁目の『新宿呑場 六』は、都内の有名イタリアンレストランで経験を積んだ料理人が手がける創作和食が人気のネオ大衆酒場だ。かつて同じ職場で働いていた代表の中村健人さんと店長兼総料理長の小林秀明さんが2019年11月に店をオープンした。
新宿6丁目は駅から少々遠く感じる距離にあり、新宿駅周辺に比べて飲食店の数は少ない。人通りもそう多くはないエリアで、『新宿呑場 六』は新宿の“穴場的酒処”を目指している。
「お客さんに、全部おいしかったですって言ってもらえるのはうれしいですね」と、笑顔を見せる小林さん。メニューを考える時のこだわりを伺ったところ、「トレンドを意識しつつ、ひとひねりすること」だそうで、日頃から味の探究に余念がない。
「おいしいものができる時って、あれこれ試行錯誤することがなくて、不思議と一発でガチッと決まることが多いんですよ」。小林さんが「一発でキマッタ!」という料理がこちら。豚肉の生姜“焼き”ではなく、厚切り豚生姜。しょうゆとみりんで下味をつけた豚肩ロース肉をブロックのまま低温調理したものだ。
レア風に仕上がったブロック肉をオーダーが入るごとに切り分け、一口大にカット。温めた生姜ソースをたっぷりかけて、千切りキャベツをのせる。
「はじめはランチの日替わり定食の1つだったんですが、お客さんに好評でレギュラー化しました」と小林さん。お客さんのリクエストで、夜メニューにも加えたという。
食べ応えのあるおかずと大盛りごはんは驚きのボリューム感
ランチメニューは、海鮮三食丼、厚切り豚生姜定食、唐揚げ定食、日替わり定食と、全4種。どれも1000円以下とリーズナブルなお値段だ。今回のランチのオーダーはもちろん、厚切り豚生姜定食で決まり。
肝心のお味は言うことなし! 角切りのお肉はジューシーで、分厚いのに難なくかみ切れるやわらかさ。低温調理によって絶妙なさじ加減で加熱しているそうで、小林さんの見事な腕前が発揮されている。生姜ソースがお肉の甘みを引き立てていて、いい仕事をしている。
この厚切り豚生姜、何しろごはんが止まらない。「午後も仕事をがんばってもらおうと、よかれと思って……」と小林さんが盛りつけてくれたごはんの量は、なんと約1.5合分! それでもペロッと残さず食べる女性もいるのだそう(筆者も完食!)。
お肉もごはんも平らげておなかいっぱいになったら、食後にはおいしいコーヒーが待っている。店の入り口にコーヒーポットと紙コップが用意されており、セルフサービスでいただくことができる。店内でもテイクアウトでもOKだ。
紙コップを手にコンビニから出てきた人たちが急ぎ足で会社に戻る姿を見て、コーヒーを買う時間の節約になればと思って始めたサービスだそう。そんなさり気ない心配りも、多くのお客さんを魅了してやまない理由の1つだろう。
店の味とスタッフにほれ込んで何度も足を運ぶ常連たち
調理に専念する小林さんを支えているのは、ホールリーダーのたかひろさん。中村さんから誘いがあって、オープニングスタッフとして働き始めた。
「以前はシャツにネクタイ姿でかしこまって接客する店に勤めてたんですが、今はお客さんとの会話やふれあいを楽しみながら働いています。お客さんがコバさんの料理をおいしいそうに食べて楽しく過ごしている様子を見ていると、ぼくもうれしくなります」。お客さんが喜ぶ顔を間近で見られることに、たかひろさんはやりがいを感じているようだ。
「たかひろはお客さんと仲良くなって、飲み友達になることもあるんです。スタッフに会いに来てくれるお客さんもたくさんいるんですよ」と、小林さんは顔をほころばせる。
ふとカウンター上の貼り紙が気になって近寄ってみると、メニューかと思いきや、お客さんの名前がズラリ。予約客を迎える際につくる席札が何枚も重なり合って貼ってあった。
大きいサイズの席札は常連さんのもので、名前の横にメッセージが書き添えてある。「○○さん、今日もいつものご用意して〼(マス)」「いつもThank youでーす!!!」そのひとつひとつに常連さんとのつながりを見て、お客さんにとても愛されているのだと感じた。
「もっと多くのお客さんにお楽しみいただけるように、これから会社を大きくして、いろんな業態にチャレンジしていきたいです」と、小林さんは意欲を示す。絶え間なく進化し続ける『新宿呑場 六』はネオ大衆酒場の領域を超えて、新たな扉を開くことだろう。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ