イタリア・フィレンツェで修業したシェフが手がける伝統的トスカーナ郷土料理
店に入るとシェフの二瓶亮太さんが、厨房でいくつもの調理を進めながら笑顔で迎えてくれた。日本やイタリアで修業し、シェフ歴23年(2022年現在)の二瓶さんだが、この世界に入ったのは25歳の時。
二瓶さんの父も料理人だったが、父の背中を追って料理人になったわけではなかった。朝早くて夜遅く、日曜日も仕事で、運動会にも授業参観も来てもらえない。そんな父を見て育った二瓶さんは、料理人にはならずに、プロのミュージシャンを目指していた。しかし、夢破れてバンドを辞め、一度は会社勤めをするが、サラリーマンは性に合わなかった。その時になって、初めて料理人の道を選んだという。
日本のイタリア料理店で修業すること4年、単身イタリアのフィレンツェへ渡った。いくつかの店で修業する中、新店の立ち上げを任されたり、少しずつ料理の腕を磨いていく。4年後、日本に帰国して横浜にあるイタリア料理店の立ち上げから7年間シェフとして務めていた二瓶さんは、「次は東京で勝負をしたい」と思っていた。
2011年にオープンした『オステリア・イル・レオーネ』で前任のシェフが辞めたところに、ちょうど都内で自分に合った店を探していた二瓶さんが引き継ぐ形になった。2016年2月のことだった。
「トスカーナの郷土料理や、フィレンツェ風Tボ―ンステーキの“ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ”を提供できる店をやりたかったんです」。二瓶さんが学んだ料理を表現していくこと6年、『オステリア・イル・レオーネ』は、カジュアルなイタリア料理店から本格的トスカーナ料理店として生まれ変わった。
前菜からパスタ、エスプレッソまで。まずは気軽に楽しめるランチを堪能
「ご予約をいただいて、お話しながら丁寧に料理をお出ししたい」。それが理想という二瓶シェフ。今回紹介するのはPranzo B(前菜盛り合わせ、お好きなパスタ、エスプレッソ or 紅茶)1980円(要予約)。お話をしながらも、前菜が美しく盛り付けられてゆく。食べるのがもったいないくらいきれいな一皿。どれから食べたらいいか迷う楽しみもある。自家製のフォカッチャも添えられている。
選べるパスタは2種類。この日は、サルシッチャとマッシュルームのオイルソース チーズと黒胡椒のカーチョエペペと、こちらのトマトソースのカラブリア風パスタ。
ぷりっとした小エビにズッキーニやゴーヤを合わせ、旨味とほど良い辛味のソースが絡んだ夏らしい一皿だ。
イタリアで学んだ文化や料理、大好きなイタリアをお客様に伝えたい
イタリアでコーヒーと言えばエスプレッソ。「エスプレッソがなきゃ、イタリア料理店と言えませんから」と、コースの最後を締めくくるエスプレッソにもこだわっている。二瓶さんがこの店に来た2016年からエスプレッソマシンを新しくし、いろいろ研究して本格的なエスプレッソに辿り着いたという。
極上のエスプレッソまで本格的なトスカーナ料理を目指す二瓶さん。本場フィレンツェで感じた味はそのままに、細かいところは少しずつ変わっているという。
「常連さんだったら、料理もワインもお好みをインプットしておいて、前回とは違うのをお出ししようとか。前菜もドルチェも出てきた時に、毎回まったく同じものだったら面白くないじゃないですか。だから、私は細かいところまで全部足し算して、それがいいお店だと思ってやっています」。
「ベースは絶対イタリアじゃないとだめなんですよ。イタリア人が作ったらこうなるだろう、イタリア人が食べておいしい、イタリアからは絶対はみ出ない。そういう料理を作りたい。そうやってイタリアで学んだ文化や料理をなるべく押し付けないように伝えられたらいいなと思ってます」。
シェフとの会話も楽しく、1人で来ても心地よく過ごせるお店。今度は、友達や家族、大切な人と予約して、Tボーンステーキやワイン、ドルチェ&カフェまでゆっくり味わいたい。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代