ジョイフル三の輪商店街

正式名は三の輪銀座商店街振興組合。都電荒川線の前身・王子電気軌道の開通を機に、大正8年(1919)に形成。店舗は現在約80店。三ノ輪橋停留場すぐ。

通りを歩けば撮影エピソードに当たる……どころかあふれ出る

テレビドラマなら『3年B組金八先生』、『三匹のおっさん』、『家政夫のミタゾノ』、『野ブタ。をプロデュース』など、映画ならカンヌ国際映画祭最高賞受賞の『万引き家族』などと作品例を挙げればきりがなく、テレビの情報番組やバラエティー番組、CMの撮影も数知れず。最近では2021年9月にリリースしたFUNKY MONKEY BABY’Sの「エール」のMV(ミュージックビデオ)の舞台として登場している、ジョイフル三の輪商店街。通りを歩けば、「昨日も昼からドラマの撮影やってたよ」とか、「石原良純さんも長嶋一茂さんもナイツの塙さんもここに座ってお茶を飲んでいきました」とか、「米倉涼子さんと話したわね」とか、「CM撮影で来た美川憲一さんは衣装も派手だったけどオーラも違った」とか、「店の前で撮影してるからのぞいたら、『もっと奥へ!』ってスタッフの人に言われちゃった(笑)」とか、どこのお店からも出るわ、出るわのうらやましいエピソード。「撮影は年中あるからもう慣れっこ」とみなさん口を揃えるが、とても楽しそうに話してくれる。

お店のモノから、時には人まで出演も!

「『万引き家族』の撮影ではご近所の『肉の冨士屋』さんが映っているのですが、制作スタッフの方に頼まれて、実は、総菜を並べる店頭の台だとかコロッケはうちのものなんですよ」
とは、ロケ撮影の常連店のひとつ、『とりふじ』の張替(はりがえ)一弘さん。そういう店舗同士のコラボレーションも、お店が充実している商店街ならではのエピソードだ。

『とりふじ』 創業は1961年。焼き鳥や揚げ物、サラダなど豊富な料理が広い間口にずらりと並ぶ総菜店。3代目店主・張替一弘さんは商店街の経理部長。
『とりふじ』 創業は1961年。焼き鳥や揚げ物、サラダなど豊富な料理が広い間口にずらりと並ぶ総菜店。3代目店主・張替一弘さんは商店街の経理部長。

また、ごくまれに商店街の人自身が撮影に参加することもあるそうで、
「藤竜也さん主演の刑事ドラマではうち(お惣菜の店 きく)で母が石野真子さんと共演させてもらったり、ある映画の撮影では八百屋さんのお母さんが体調不良で急遽(きゅうきょ)、私が代役で出たこともありました」
と、ジョイフル三の輪商店街の広報担当・廣瀬律子さんも照れくさそうに笑う。

しかしなぜそんなにロケにひっぱりだこ? 魅力のひとつはやはりこの古きよき雰囲気。屋根で覆われた通りはどことなくノスタルジックでセットのようにすら感じる。下町感、昭和感のある商店街を求めるならまさにもってこいだ。並ぶ店はオンリーワンな個人店ばかりで全国規模のチェーン店がほぼないのも、撮影しやすい点だろう。5人ほどが横並びで歩ける程度の狭すぎず広すぎない道幅や、活気はあるけど混み過ぎない人出も重要。

三ノ輪橋側から見た商店街。頭上には、外光を通す三角屋根が続く。
三ノ輪橋側から見た商店街。頭上には、外光を通す三角屋根が続く。

「聞くところによるとロケは昔から行われていたそうですが、今よりもっとにぎわっていたから撮りにくかったみたいです。ただね、2020年の三山ひろしさんのMV撮影は大変でした。日曜日の上、出演者に女性が多くいたせいか、普段寄って来ないような御仁たちも立ち止まってもうカットの連続で(笑)」
と、副理事長・高杉光徳さん。

商店街事務局。広報担当 廣瀬律子さん(右)と副理事長 高杉光徳さん(左)。
商店街事務局。広報担当 廣瀬律子さん(右)と副理事長 高杉光徳さん(左)。
『お惣菜の店 きく』 広報担当 廣瀬律子さんの店。天ぷらがメインで定番も旬の味も並ぶ。関東では珍しい紅しょうがの天ぷらが名物だ。
『お惣菜の店 きく』 広報担当 廣瀬律子さんの店。天ぷらがメインで定番も旬の味も並ぶ。関東では珍しい紅しょうがの天ぷらが名物だ。
『タカネット』 副理事長 高杉光徳さんの店。焼き肉弁当が自慢のロケ弁専門店。ランチタイムには店頭で、お得な500円弁当や総菜も販売。
『タカネット』 副理事長 高杉光徳さんの店。焼き肉弁当が自慢のロケ弁専門店。ランチタイムには店頭で、お得な500円弁当や総菜も販売。

今の推しスポットは380m続く屋根の上

また、受け入れ態勢もさすが下町、人情派。1件ずつ異なる撮影内容や所要時間に応じて、深夜撮影も行ったり、短時間なら撮影料を安くしたりと対応がきめ細かい。
「昼間に撮影許可をくれるお店が多いせいか、『あの商店街なら受け入れてくれるんじゃないか』と広く思われているのかもしれない。雨に降られて困った顔見知りのディレクターさんから『急だけど撮影いいですか?』って聞かれることもよくあるんですよ」(張替さん)。
「それもこれも人のおかげ。商店街の方々の大らかさと理解があるからこそです」(高杉さん)

そして極めつけは、アーケードの“上”の存在だ。ジョイフル三の輪商店街のアーケードは自動開閉する全蓋式で、まっすぐ380m続く。その上には同様に金網の通路が2本並列して延び、所々に橋も渡されている。

アーケードの屋根の上。両脇に通路があり、所々に橋が架かる。
アーケードの屋根の上。両脇に通路があり、所々に橋が架かる。

上がらせてもらうと周囲の家々の屋根が見渡せ、南東には東京スカイツリーも見えていい眺め! 実は今、商店街で最も推しの撮影スポットがここ。将来は一般開放してウォークツアーをすることを目指し、2020年にJSJ(ジョイフル三の輪スカイウォーク実行委員会)を発足。安全面の整備を計画しながら、まずはメディアに積極的に紹介しロケでの使用を提案しているという。ファッション誌の撮影ではこの屋根を開けて橋にモデルを座らせたり、『じゅん散歩』では高田純次が歩いたり、2020年にはボーイズグループ「JO1」のMVのロケに使われ、ここから飛び降りシーンも撮影された。
「いつかここを『ミッション:インポッシブル』のトム・クルーズに走ってもらいたい!」
と熱く語る高杉さん。ハリウッドデビューする日も近い⁉ ジョイフル三の輪商店街から今後も目が離せない。

取材・文=下里康子 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2022年5月号より