個性強めの居酒屋がひしめく高円寺でスポットライトを浴びた、山形のアイデンティティ
しっかりファンがついている名酒場や、あの手この手でクラッシュ&ビルドを繰り返すチェーン居酒屋、腕とアイデアで新規客を引きつけるニューカマーなど、群雄割拠の高円寺を生き残るにはまさに至難の業。そんななか、“山形料理”というニッチなジャンルで切り込んできたのが、2017年にオープンした『山形料理と地酒 まら』だ。
「前身となる店は一般的な居酒屋としてスタートしました。でも、料理や食材にストーリーがあったほうがお客様の満足度が高いと思ったんです」と、山形料理に特化した理由を店長の笹谷健悟さんはこう語る。
「醤油やみりん、里芋だって他県で作られたものとそれほど味は変わらないと思います。それでもやっぱり郷土料理は地のものでつくったほうが断然おいしくなる。そういうストーリーって大事なんですよ。実際、僕や総料理長をはじめ、山形出身のスタッフも多かったりもするので、より地元の味が楽しめると思います」。
なぜか自然に引き合い、スタッフの約1/3が山形出身。お客さんは、地元の味を懐かしんでくれる人もあれば、山形に縁はないけれど店のファンという人まで年齢も性別もバラバラ。また、『アメトーーク』で高円寺芸人のみなさんに紹介され、若年層にも広く知られるきっかけになったとか。
続けて笹谷さんは店名について「『まら』は、マーラという悪魔から。仏教では煩悩の化身といわれているんですけど、“おいしい”とか“楽しい”という、煩悩を満たす店でありたいという願いが込められています。あと、平仮名にしたときのまるっこい形に、親みやすさを感じたんです」、そう教えてくれた。
うまい水があるからうまい米ができ、当然、日本酒もおいしくなる
山形は蔵王、出羽三山といった山々に囲まれていて、うまい水と昼夜の寒暖差、それに加え豊かな里山にも恵まれている。
日本海に面した地域と山に面した地域では食文化が違うので、同じ地域の酒と料理のペアリングは最高にマッチするのだとか。
笹谷さんは、「山形はくっきりとした四季感がある土地なので、いい酒ができるんですよね。辛口よりも甘口が多いかもしれないです。うちでは山形の地酒を常時20種以上、味わいも幅広く取り揃えています。メニューにないものもあるので、希望の酒があったらお問い合わせください」と案内してくれた。
酒と一緒に味わうなら、まずは芋煮! 地元では夏の定番だし豆腐!
私ごとですが、おやつにレンチンして食べるくらい里芋好き。この店の一番人気という芋煮を何よりも楽しみにしていた。ついに登場、赤い汁碗に盛られてやってきた麗しの芋煮ちゃん!
「芋煮は内陸と海側ではちょっと味が違うんです。しかも、それぞれの家庭によって具材が違うんですけど、うちのは内陸出身の料理長の味です(笑)。具材は牛肉、里芋、ゴボウ、キノコ、コンニャクで、かつお出汁の醤油味になりますね」と、笹谷さんもにっこり。
山形では秋になるとBBQのように屋外で芋煮を楽しむ習慣がある。芋煮を目の前にすると、つい顔がほころんでしまうのかもしれない。
「ちなみにお碗の目安は1人前、小鉢660円は2人前、鉄鍋は3人前です。鉄鍋は、食べた後に芋煮の定番、シメのカレーうどん1人前440円も用意していますよ!」
おお〜これは是非食べてみたい! こういう地元っぽさは、出身者でなくても参加したくなるもの。これぞ、冒頭で笹谷さんが話していた「ストーリー」である。
ほかにも、店内には羽黒町の農家・源助のつや姫で作ったおにぎりや、河北町名物の冷たい肉そば、さくらんぼ鶏の竜田揚げや山形豚のとんテキなど、山形の大地の恵みがモリモリ!
この店で“おいしい”と“楽しい”に感動したなら、さあ誰に何から話そうか。思い出して二度おいしく感じられる店である。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢