定番から変わり種まで40種以上から選べるおでん
立石に住む人々の間で「おでん」といえば、知らない人はいないほどの名店『丸忠蒲鉾店』。その隣で営業を行う『おでん丸忠』では、『丸忠蒲鉾店』で販売しているおでん種を酒と一緒にいただくことができる。某テレビ番組のおでんランキングにもランクインするほどの実力を持つ、こちらのおでん。期待に胸をふくらませつつ店内に足を踏み入れると……
オープンな外観で、気軽に立ち寄りやすい雰囲気が漂う店構え。店内には、中央に一定のスペースを空けて、カウンターが2列並び、店の軒先には屋台気分が味わえそうなテーブル席も用意されている。珍しい配置のカウンター席は、その間のスペースを店主の日高さんが客席を行き来する用の通路として活用。そんなこぢんまりとした店内では、自然とお客さん同士の距離も近くなりそう。実際に、居合わせたお客さんが意気投合し、一緒に次の店をはしごするケースも少なくないという。
黒板に書かれたおでんのメニューに目を向けると、その種類の豊富さに圧倒。その数なんと40種以上。どれも良心的な価格で、ついついあれこれ頼んでしまいそうだ。中でも、日高さんがオススメするのは、自家製の中華揚げ。さつま揚げを中華風にアレンジしたこのおでん種は、ネギやニンジンなどの野菜と魚介の旨味が凝縮した中に、後からピリッと感じる一味の刺激がいいアクセントになっている。そして何より、おでんのおいしさを左右する出汁が絶品。「昆布とかつお節で取っただけ」というシンプルな出汁に、何種類もの練り物の旨味が染み出し、この絶妙なハーモニーを作り出しているのだという。
ほかには、女性に人気だというトマトのおでん。ひと口頬張ると、しっかり出汁の染みたトマトがじゅわっと旨味を放つ。トマトの酸味と、あっさりした出汁の旨味、そしてトマトの上にかかっているバジルの香りが口いっぱいに広がって、新感覚のおいしさだった。「このあっさりした出汁とトマトが合うんじゃないかと思って作ってみたら、想像通り相性よく仕上がった」と、メニュー考案の裏話を披露してくれた。
居酒屋オープンから2014年までの7年間、『二毛作』という名で営業していたこの店。現在『二毛作』は本家(丸忠蒲鉾店)から巣立ち、少し離れた場所で営業を行っているが、立石におでん文化を根付かせた同じルーツを持つ者同士、今なお“せんべろの街”を盛り上げている。土日ともなれば、周辺の居酒屋をはしごして訪れる客も多いと話す日高さん。店の名物料理をつまみながら、気軽に酒を楽しむことができるこの街の雰囲気は、さながら東京下町の“サン・セバスチャン”のように思えた。
平日は14時から、日曜・祝日は13時からオープンする『おでん丸忠』。気に入ったおでん種を見つけたら、隣のお店でお土産を購入できる便利さも魅力のひとつ。今日も、じっくりおでんの具材を煮込んで、酒を愛する人々の訪れを待っている。
『おでん丸忠』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英