麹町の少年像の服装が変わっていくことに気が付いた
まず、地下鉄麹町駅の1番出口を出た交差点に設置されている「夏の想い出」像。釣竿を持つ格好をした少年の銅像である。私が初めてこの像の存在に気付いたのは、2018年10月であった。釣竿にオレンジのカボチャをぶら下げて、ハロウィン風の装いをしていた。
私が仕事で麹町を訪れるのは3か月に一度くらいの頻度だったのだが、そのたびに少年の衣装は変わっていった。
翌年のハロウィンの季節には、前年と異なる衣装を着ており、そのつど衣装が作られているのだろうということがわかる。
また、少年は3月と11月の全国火災予防運動の前後には消防服を着ているが、こちらも毎年異なるデザインとなっている。
渋谷のハチ公像はタスキで訴える
この火災予防運動のようにメッセージ性の高い着衣が見られるのが、渋谷駅の「忠犬ハチ公」像である。説明する必要もないほど有名な銅像だが、普段はもちろん服を着ていない。ところが何か訴えかけたいことがあると、ハチ公がタスキをかけるのである。
待ち合わせ場所として多くの人が集う場所でもあり、その効果を見越してのタスキ掛けなのかも知れない。
最近になって着衣銅像になった子もいる
以前は着衣ではなかったが、最近になって着衣銅像になった子もいる。
麻布十番の広場「パティオ十番」に設置された「きみちゃん」像だ。童謡「赤い靴」のモデルになった少女・きみちゃんの像は、実際の子どもよりも少し小さめに作られている。2020年の新型コロナウイルス感染拡大以降、このきみちゃんに、小さな手作りの布マスクが着けられるようになったのだ。
2021年4月初めにきみちゃんを見かけた際には、ピンクのマスクに「バカ殿」や「ひとみばあさん」などのキャラクターが刺繍されていた。
2020年3月末に死去した志村けんの一周忌にあたり、彼の演じたキャラクターを刺繍したのだと思われる。その後もハロウィンやお正月など、季節感を取り入れた刺繍マスクを着けられていたきみちゃんだったが、2022年3月には「オバケのQ太郎」のキャラクターが刺繍されたピンクのマスクを着けていた。その刺繍の意図するところが何なのか、未だに謎が解けていない。
3月25日、所用があり麻布十番を訪れた際、きみちゃんはまだQ太郎マスクを着けていた。ところがしばらく目を離したすきに、きみちゃんのマスクが変わっていたのである。
水色地に、青と黄色の花とクローバーをくわえた白鳩の刺繍が施されている。これは恐らく、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナに対しての思いが込められた刺繍であろう。そのマスク変化の瞬間を目撃できなかったことが悔やまれる。
銅像に服を着せるという行為は、「裸で寒そう」という素朴な気持ちから生まれたものだと思う。しかしそれだけにとどまらず、設置者の思いやメッセージが込められた着衣銅像が多く見られる。しかもこれらの着衣銅像の多くは、月ごとに着衣が変わるなど、目まぐるしく変化している。あなたの街にもこうした着衣銅像がいたとしたならば、是非定期的に観察を続けていってほしい。
絵・写真・文=オギリマサホ