山崎製パンと「サンプラザ35」はこうして誕生した。
ヤマザキの対象商品についたシールを集めると白いお皿がもらえる「春のパンまつり」での累計交換枚数は、2018年に5億枚を突破したという。その製品が想像もつかないほどたくさんの食卓を支えてきたであろう『山崎製パン』の歴史は千葉県市川市から始まった。
創業者の飯島藤十郎氏は、新宿中村屋で勤めた後に教師となり、昭和16年(1941)に陸軍に入隊した後、市川国府台の陸軍部隊で終戦を迎えた。終戦を迎えて同市の練兵場跡地の開拓営団へ入植して農業を行っていたところ、昭和22年(1947)にカスリーン台風が襲来。被災した工場で入手した大量の濡れ藁を、肥料を必要としていた農家で小麦30俵以上と交換し、これを元手に昭和23年(1948)に国府台に製パン所を開業する。昭和27年(1952)には市川駅前に「サンプラザ35」の前身となる直売所を開いた。
現在の「サンプラザ35」は、地下1階に『スーパーヤマザキ』が、1階に焼き立てのパン・和洋菓子を販売する『ヤマザキプラザ市川』が、2階にカジュアルレストラン『レストランヤマザキ』、フレンチレストラン『ルミエール』が入る。
平成21年(2009)に全面リニューアルオープンをした『ヤマザキプラザ市川』は、広々としたベーカリーがメイン。併設のイートインカフェは、市川市民の憩いの場だ。ベーカリーの横には洋菓子売り場、そして山崎製パン初の和菓子専門の売り場がある。
目の前で焼き上げる大判焼きは餡がたっぷり!
店長の植木一敦さんによれば、和菓子売り場の目玉は実演販売の大判焼き。北海道産小豆100%のコクのあるつぶあんと、あっさりとした白あんの2種類がある。
香ばしい焼き色の皮はふっくらとして柔らかく、甘さを抑えた餡はとろりと優しい口当たりだ。
焼き立てをイートインスペースで食べるのはもちろん、持ち帰って温め直して食べるのもおすすめだ。電子レンジで温めてもいいけれど、トースターでリベイクすれば、焼き面のサクッとした香ばしさが楽しめる。
大判焼きが5個入る愛らしい紙箱入りは、手みやげに喜ばれる。
ここでしか食べられない! 大きな道明寺とぼた餅
実は『ヤマザキプラザ市川』には、ここでしか食べられない和菓子がいくつもある。
一年を通して買える塩漬けの桜葉で包まれた道明寺は、通常サイズと大ぶりのサイズが店頭に並ぶが、大ぶりのその名も「大きな道明寺」はここでしか食べられない。つぶあんの甘さが抑えられているうえ、桜葉の塩漬けの塩味で口の中がさっぱりするので、大きくてもなんなく食べきってしまう。
春は牡丹の花にちなみ「ぼた餅」、秋は萩の花にちなみ「おはぎ」と呼ぶという説があるけれど、ヤマザキの工場で作られるものは一年を通して「おはぎ」と呼ぶ。対する「ぼた餅」は『ヤマザキプラザ市川』限定で、こちらも道明寺同様大ぶりだ。きなことつぶあんの2種類があり、どちらももち米と餡のバランスがよく甘さも適度。気取りのない味にほっとする。
山崎製パンの創業地である国府台が、戦国時代に北条氏と里見氏の戦場だったことにちなむ「里見の郷」は黄味あんを包んだ焼き饅頭だ。こちらもスーパーやコンビニに並ぶ通常版と、『ヤマザキプラザ市川』限定の高級版がある。高級版は表面に焼き印が押されていて、食感はよりしっとりしている。進物にも人気だそうだ。
植木店長おすすめのお赤飯は早い者勝ち。
植木店長に大判焼きに次ぐ和菓子売り場でのおすすめを伺うと、笑顔で「お赤飯です」と即答。材料は「国産のもち米、備中だるまささげ、食塩」だけとシンプルで贅沢だ。和菓子職人さんが毎朝ふっくらと蒸し上げるお赤飯は、添付のごま塩を振りかけると旨みがアップする。一日最大で60パックしか作れないので、いつでも出合えるとは限らない。
私が『ヤマザキプラザ市川』に寄ると、必ずチェックするのは上生菓子だ。職人さんが手作りする季節の上生菓子は、お茶の先生にも人気だそうだ。
展望施設から見る「サンプラザ35」
「サンプラザ35」とJR市川駅をはさんで反対側、南口にそびえ立つ「ザタワーズウエスト」の45階に、市川市の「アイ・リンクタウン展望施設」がある。市川市民の私は、「サンプラザ35」にしょっちゅう寄るというのに、この展望施設から「サンプラザ35」の屋上看板の赤い太陽マークとヤマザキの文字を見ると、『ヤマザキプラザ市川』で熱々の大判焼きや、絶妙な加減にトーストされた食パンを食べたくてたまらなくなる。山崎製パン愛が強めで、「サンプラザ35」びいきなのだ。
文・撮影=原亜樹子(菓子文化研究家)