空に浮かぶ雲のようなロゴに思いを込めた、自慢のワンタンメン
店頭幕に大きく描かれたワンタン入りの店名は、遠目からでもひと際目立つ。「ワンタンをロゴデザインにするのは、ずっと前から決めてたんです。ワンタンの店だって分かりやすいように。雲を呑むって書いて「雲吞」なんで、ワンタンのロゴは雲をイメージしてるんです」というように、背景の青が空、ロゴの白で雲を表現している。そんな長田さんの想いが詰まったロゴデザインからも分かるように、おすすめはワンタンメンだ。
スープは鶏、豚、煮干し、昆布などの出汁がバランスのよい仕上がり。油も控え目すっきり後を引く美味しさ。麺は自家製ストレート中細麺。麺は日によって若干加水を高めにしたり、製麺の仕方を少し変えたりしているという。
麺量も茹で前160gで提供している。「オープン時は『かづ屋』と同じ170gでしたが、麺を残されることはないですけど、たまに麺を少なくしてくださいという方もいるので、みなさんの反応を見て少し調整しました」。大きめのワンタンが5個入っているからボリュームも満点だ。
大釜にたっぷりの湯を張って麺を泳がせながら茹で、平ザルで鮮やかに麺上げして美しく整えられた麺は、するすると啜れるしなやかさ。
老舗ラーメン店『かづ屋』で10年修業したのちに独立開業
長田さんは山梨から上京するも、やりたいことが見つからず職を転々としたいという。きっかけは、2011年の東日本大震災。祖父もラーメン店を営んでいたことから、自分もラーメンの道を目指すことを考えたという。ところが最初にしたことは、ネットで“支那ソバ”と検索。なかなかにユニークなスタートかもしれない。
「どういうラーメンがいいかなと“支那ソバ”で検索したら、かづ屋の社長のブログが出てきたんです。そこに社長の考えや人となりが書かれてあって、長く修業するならこういうところがいいなと。あと、うちは体育会系じゃありませんって書いてあって、ここだと思いました(笑)」
『支那ソバ かづ屋』といえば、1989年目黒で開店するとワンタンメンが話題となり、すぐに人気店に肩を並べたお店。今では『かづ屋』で修業した弟子が出店した店も増えている。『かづ屋』の店主のブログには、長田さんの独立までの話もすべて記されている。本来5年で独立するところを、なかなか資金が貯まらなくて倍の10年いたことも。
「5年過ぎてからのほうが勉強になったことが多かったですね。もしかしたら、5年で独立したら失敗してたかもしれない。結果、10年いたのは僕にとってはよかったです」と、長く面倒を見てくれた社長への尊敬と感謝の気持ちが、長田さんの言葉の端々から伝わってきた。
1年くらいかけて決めた大山の店舗は、居抜きでほぼ手をかけないで済んだため初期投資もかなり抑えられた。「待てば必ずチャンスがあるからって、社長に言われてたんですよ。ここだと思いましたね。工事は2日で終わって、明け渡しから3週間でオープンできました」。
大山はファミリー層も多く住む街。だからこそ、ラーメンも手軽に食べられるようにしたいとカウンターだけでなく、テーブル席にもこだわったという。
「僕も子供がいて外食でも一緒に食べたいなーという気持ちがありました。店先に少し段差はありますが、バギーで入ってもらっても大丈夫なスペースも確保してあります」。
基本を忘れずに、自分の色を出せるようになりたい
『かづ屋』でも人気のルーロー飯は、こちらでも売切れ必至の人気ぶりだ。五香粉(ウーシャンフェン)スパイスが効いた独特の風味で、担々麺と合わせて食べる人が多い。『おさだ』では、その味を少々変えているという。
「『かづ屋』ではチャーシューをオーブンで焼いた時に、下に溜まったタレを継ぎ足して詰めて、ルーローのコクを出すためのつけダレを作るんです。うちでは、そこまでの量が焼けないのでタレが貯まらない。何でコクを出そうかと思った時に、揚げネギを使うことにしたんです。台湾料理でもルーローに紅葱頭という揚げた赤ネギを使ってますので、ちょうどいいと思いましたね」。
オープンから2カ月。「今は、自分のベースをしっかり作ること。それができてからつけソバを始めたり、夏メニューも考えていきたい。いずれは、自分の色が少しずつ出せるように、経験を積んでいきたいと思ってます」と長田さん。
朝は6時から始まり、昼営業が終わってご飯も食べず、休憩もとらずに次の日の仕込みで夜の0時、1時帰宅はざらだという。疲労した身体に鞭打ってがんばり続ける店主が作る一杯は、ふくよかなベールのなかにしっかりとした芯を感じる味わいだ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代