有名ラーメン店主に憧れて、目指したラーメン道

独学と言っても、ラーメン店で働いた経験もある小島さん。大好きなラーメンをたくさん食べ歩くなかで、とある有名店主の店を訪れたそう。

「もともとラーメンは好きだったけど、『麺処 ほん田』に出会うまでは、美味いラーメンってわからなかった。『ほん田』で食べて初めておいしいと思って、それでラーメン屋をやろうと思いましたね。本田さん自身にも憧れて独立を目指したんです。面識ないですけど(笑)。移転した秋葉原の店もすごい並びますが、今でも食べに行ってます」

小島さんは『ほん田』に何度も通い、ほかにも多くのラーメン店を食べ歩いて自分の目指すラーメンを探し続けた。ラーメン作りはというと、「自分でラーメンの本を買って読んで作りましたね」と小島さん。ラーメンの教本から技術を学んで試作を重ね、食べ歩きと合わせて、ほぼ独学で自身のラーメンを作り上げたそう。

JR埼京線板橋駅から徒歩20秒。東口左手の交番前、緩い坂道を上がってすぐ右側。坂の手前にある立て看板が目印。
JR埼京線板橋駅から徒歩20秒。東口左手の交番前、緩い坂道を上がってすぐ右側。坂の手前にある立て看板が目印。

「取材はずっと断ってたんです」という小島さん。奥様の明日香さんが言うには、「メディアが苦手で。シャイなんです(笑)。SNSも苦手なので、店のTwitterも私がアップしてるんですよ」とのこと。今回、初めてのメディア登場となる。

店主の小島哲也さん。奥様の明日香さんとはオープンとほぼ同時に結婚。店でも家庭でもよきパートナー。
店主の小島哲也さん。奥様の明日香さんとはオープンとほぼ同時に結婚。店でも家庭でもよきパートナー。

オープンから12年経つうちに、ラーメンにも変化が。「最初は、『ほん田』さんと少し似たところを追ってたけど、今はもう全然違いますね」と言うように、メニュー名は変わらないが、ラーメン写真を見ると、かなり様変わりしているようだ。

基本は左上の特製醤油らーめんだが、塩や魚介豚骨つけめん、濃厚らーめん、油そばも用意されている。
基本は左上の特製醤油らーめんだが、塩や魚介豚骨つけめん、濃厚らーめん、油そばも用意されている。

お客様の声から生まれた油そばは、女性でもサクッと食べれる人気メニュー

おすすめを伺うと、「油そばですね」という予想外のお返事。東十条時代の『ほん田』リスペクトなら魚介豚骨つけめんか、淡麗の醤油か塩らーめんかな?と思っていたのだが……。そもそも油そばは、オープン当初はなかったメニューだそう。

「最初はつけめんと醤油しかなかったんですね。それが、お客さんから油そばを作ってほしいと言われて。オープンから半年後くらいに、お客さんの声から生まれたメニューです。板橋の街に求められて作りましたね」と小島さん。

そういえば、昼営業終了前に伺ったところ、会社員や学生などお客さんが皆、油そばを注文していた。確かに人気のメニューらしい。それならばと、油そばをお願いした。

油そば800円。麺はカネジン食品の極太麺。麺量は茹で前240g、具だくさんでボリューム満点。テイクアウトもあり。
油そば800円。麺はカネジン食品の極太麺。麺量は茹で前240g、具だくさんでボリューム満点。テイクアウトもあり。

「ぐるぐる混ぜてください」と促されるまま、ぐるぐる混ぜるとタレがまんべんなく麺に絡まり、持ち上げるとうどんのような見た目。温玉うどん的な油分控えめマイルドなタレが、思いの外あっさり。

ラーメンの醤油ダレに鶏油、酢を合わせたものだそう。そこに時折フライドオニオンの芳ばしさと、鷹の爪のちょっとピリ辛なアクセントが加わる。これは女性客でもペロリと完食する仕上がりだ。

「お客さんはサラリーマンや若いOLさんが多いけど、東京国際フランス学園や西巣鴨の大正大学も近いので、学生さんもよく来てくれますね。油そばは女性に人気です。JET日本語学校は目と鼻の先なので、台湾からの留学生も食べに来ますよ」

美容師のようなお洒落スタイルながらラーメンは真剣

客層は若い人も多そうだが、多国籍でもある。もう少し年齢層高めのお客さんはというと「年配の方には、塩や醤油らーめんが人気ですね」。

老若男女を問わず、幅広く食べやすいように考慮し、オープンから何度もブラッシュアップを重ねている。さらに昨年の春から、醤油と塩らーめんはスープの味自体を再構築したという。

「醤油は動物系も少し強くしましたが、和出汁をすごく強くしましたね。塩もベースは醤油と同じでリニューアルしてますし、タレも香油も変えています。それで、麺が合わないなと思って、醤油は麺も変えました」

現在、油そばとつけめんはカネジン食品、ラーメンは浅草開化楼で、濃厚と塩が細麺、醤油が中太縮れ麺と使い分けている。

厨房では真剣そのもの。提供時の「お待たせしました〜」の声がソフトで心地よいトーン。
厨房では真剣そのもの。提供時の「お待たせしました〜」の声がソフトで心地よいトーン。

お洒落なユニフォームで、カリスマ美容師と言ってもいいような出で立ち。イケメン店主にド派手な性格を予想していたが、ラーメンの話になると真面目な顔になる。

地元の常連客について伺うと「美容師さんが多いです」と、やっぱり! ほかにも居酒屋など飲食店関係のオーナーが多いそう。明日香さんにも聞いてみると「駅前のスナックのママとかに人気です。みんな、すごく優しいんですよ」と、地元のおばさま方に愛されていることがうかがえる。

カウンター10席。柔らかな照明でバーのような落ち着く店内。折り畳みで収納できる仕切りもスマートだ。
カウンター10席。柔らかな照明でバーのような落ち着く店内。折り畳みで収納できる仕切りもスマートだ。

実は、店を始めて12年間、休んでいないという。「新婚旅行も行ってないですし、旅行自体してないですね。普段、店に15時間くらいいますから。仕事が生き甲斐なんです。まだまだ作りたいものがいっぱいありますよ」と小島さん。

店の情報を媒体にも載せず、口コミだけで広まってきた『麺屋 ほたる』。派手な見た目とは裏腹に、真面目にコツコツ作り続けてきたその味は、この地にしっかり根付いていた。

住所:東京都北区滝野川7-2-10 SSKビル1階/営業時間:11:30~15:00・18:00~材料終了まで(22:00頃)。日曜のみ通し営業/定休日:月/アクセス:JR埼京線板橋駅から徒歩1分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代