年季の入った木の看板が目印。
年季の入った木の看板が目印。

若き2代目店主が引き継ぐのは、40年以上前に初代が作り上げた味と製法

毎朝5時半から仕込みを始める。
毎朝5時半から仕込みを始める。

初代店主が飯田橋、阿佐ヶ谷と移転し、高円寺のこの場所に居を構えたのが1996年。息子であり2代目の山本真也さんは、初代の元で10年ほど修業し、味や技術を引き継いだ。

初代から教わった技法が「ふつう」だと思っていた山本さんだが、これが珍しいものだとわかったのは数年前。30年間使ってきた製麺機が壊れたことがきっかけで、機械メーカーが主催するさぬき製麺の勉強会に行ったときのことだ。「水分量が多いのに塩の量は少ない。これでなぜ、きちんとしたうどんになるのかわからないし、コシがある理由もわからない」と、勉強会の主催者に不思議がられたという。

もともとは40年以上前、初代が中国の人に習ったうどんの作り方がベースとなっている。そこから研究を重ね、さぬきうどんよりも厚みを持った状態で長く寝かせるなど、独自の製法を確立したのだ。

うどんに天ぷら、炊き込みご飯などの人気セットをいただく

小鉢が複数付くのもうれしいポイント。
小鉢が複数付くのもうれしいポイント。

うどんに5種の野菜と海苔の天ぷら、自家製出汁の炊き込みご飯、そしてナムルと冷奴が付く「野菜天」1000円(2022年10月より1100円)をオーダーした。今回は冷たいうどんにしたが、温かいうどんに変更も可能。

茹でたてを冷たい水できりっとしめたうどんは、つややかに白く整っていてとても美しい。もちろん天ぷらは揚げたてだ。

コシが強く、つるりとした食感のうどん。
コシが強く、つるりとした食感のうどん。

太めの麺で、すするとつるつるっと入ってくる滑らかさと、モチモチとした食感が際立つ。ぎゅっと噛むと、押し戻してくるようなコシも魅力だ。うどん自体の塩気は少なめだからか、小麦が甘く香る。

山本さん曰く「関東と関西の中間くらいの味」というつゆは、ソーダガツオとサバで取った出汁と自家製のかえしを使用。かえしの味や量は、初代のものから見直し、試行錯誤を繰り返したと話す。結果として出汁の風味が強くなった2代目のつゆは、シコシコとしたうどんにいい塩梅で絡み、抜群の相性だと思った。

この日の天ぷらは、ナス、ピーマン、かぼちゃ、インゲン、海苔。
この日の天ぷらは、ナス、ピーマン、かぼちゃ、インゲン、海苔。

自慢の出汁とかえしで炊いた炊き込みご飯も人気だ。干し椎茸と出汁の旨味がじわりと広がり、ほっとする味わい。小鉢はもやしのナムルと冷奴が付き、体にもやさしい感じ。毎日食べてもいい味だな、と思った。

初代の残した落ち着いた空間に、2代目夫婦の味付けを

のれんや置物などは2代目夫婦のセレクト。
のれんや置物などは2代目夫婦のセレクト。

2021年からは、山本さんの妻・奈穂さんも店に参加するようになった。エステ業界で働いていた経験があるため、接客が得意な上、SNSを使った告知をしたり、メニューの黒板にイラストを加えるなど大活躍だ。山本さんは、「妻のおかげで女性の一人客や若いカップルが増えました」と話す。

丈夫で保温力も強い砥部焼は、うどんの丼にぴったり。
丈夫で保温力も強い砥部焼は、うどんの丼にぴったり。

数年前、丼や皿を砥部焼(とべやき)に一新したときも夫婦で相談し、思い切って決めたそう。

初代の作り上げた内装はそのままに、2代目夫婦が選んだものを少しずつプラスし、変化し続ける。古いものと新しいものが同居する、あたたかな雰囲気がとても魅力的だった。

かわいい箸置きがいっぱい。これも奈穂さんのアイデア。
かわいい箸置きがいっぱい。これも奈穂さんのアイデア。
「本当にいい妻で……」と山本さん。見ている方もほっこりする仲の良さ。
「本当にいい妻で……」と山本さん。見ている方もほっこりする仲の良さ。
住所:東京都杉並区高円寺北3-23-6/営業時間:11:00〜16:00(土・日・祝は~15:30)/定休日:水/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩3分

取材・⽂・写真=ミヤウチマサコ