昼はランチ&カフェ、夜は塩でお酒を楽しむソルトバー

船橋駅南口。新旧の店が入り混じったディープな仲通り商店街を抜けると、そこは徳川家康が江戸から東金に鷹狩りに行く途中で泊まる御殿があったと伝わる御殿通り。狭くてごちゃごちゃっとしている仲通りよりだいぶ落ち着いた雰囲気だ。少し進むと、こげ茶色のスタイリッシュな外観のお店が現れる。

店先には流木で作られた「OPEN」の看板。入り口扉の取っ手も流木でおしゃれ。
店先には流木で作られた「OPEN」の看板。入り口扉の取っ手も流木でおしゃれ。
入り口には「喫煙可能店」の標識。法令により20歳未満は入店できない。
入り口には「喫煙可能店」の標識。法令により20歳未満は入店できない。

コーヒーのいい香りがする店内で迎えてくれたのは、笑顔が素敵なマスターの神谷勝也さんと奥様の直子さん。結婚されて18年の仲良し夫婦だ。

二人とも出身は東京都練馬区。勝也さんは大学を卒業してからずっと飲食業に携わってきた。歌舞伎町でナイトクラブを経営していた父親を見て、「自分もいつかは」と考えていたという。フレンチレストランや居酒屋など幅広く飲食業を経験し、直近では東京ドームホテルでレストランのマネージャーを18年間務めた。

直子さんはコーヒーについて、多くのカフェや喫茶店で学んだ。また、リフレクソロジスト(英国式足裏健康法)の資格も持っている。「リフレクソロジーのお店を出すことも考えたけど、やっぱり飲食がやりたくて」と直子さん。

ランチタイムの調理担当は勝也さん、カフェ担当は直子さん。ランチでは自家製煮込みハンバーグが人気。バータイムは直子さんがつまみ、勝也さんがお酒を担当。バータイムでもコーヒーは直子さんが淹れてくれる。
ランチタイムの調理担当は勝也さん、カフェ担当は直子さん。ランチでは自家製煮込みハンバーグが人気。バータイムは直子さんがつまみ、勝也さんがお酒を担当。バータイムでもコーヒーは直子さんが淹れてくれる。

お店をオープンしたのは2018年9月。物件探しのポイントは、「東京近郊で乗降人数の多い駅、にぎやかすぎない」。一時期直子さんが働いていた場所でもあった船橋に決めたそう。

11:30~15:00はランチ&カフェタイム、18:00からはバータイムになる。「ただのカフェバーだと面白くないので」と思いついたのが、話のタネにも酒の肴にもなる“塩”だった。勝也さんは、もともと塩に興味があったという。

バータイムには約20種類の国内外産の塩を揃え、勝也さんが食材にあったものを選んでくれる。お客さんが好きな塩を選んでもいい。「肉だったら岩塩が合いますし、野菜やお豆腐など甘みのあるようなものは柔らかい味のもの。つまみによりけりですね。塩は素材の味を引き立てます」。

愛煙家のために厳選したタバコに合うコーヒー豆

直子さんが淹れるブレンドコーヒーの味はちょっぴり苦め。でも後味がすっきりしていて、香り自体は甘く感じる。

「ブラジル種とケニア種のブレンドです。香りが甘いのがブラジル。ブラジルだけだと濃厚な甘さとコクが出るんですけど、すっきり感は少ない。ケニアは酸味が強いので、ブレンドするとマイルドになるんです」と直子さん。

ストレートコーヒー550円は、柑橘系の独特な香りのエチオピアイルガチェフェ、甘い香りのバリアラビカ神山、さわやかな甘みのブラジルパッセイオ農園の3種類がある。
ストレートコーヒー550円は、柑橘系の独特な香りのエチオピアイルガチェフェ、甘い香りのバリアラビカ神山、さわやかな甘みのブラジルパッセイオ農園の3種類がある。

店のコーヒーのこだわりは「タバコに合うコーヒー」。タバコの味に負けないように深煎りの豆を使っているそう。最近のタバコって、いろんなフレーバーがありますもんね。

「ミルクをたっぷり入れてもちゃんとコーヒーの香りが残っていて、タバコのフレーバーにも負けないことを目指しました。いろんな焙煎所から取り寄せて、たくさん味見してたどりついた、タバコを吸う人のためのブレンドです」。

ブレンドコーヒー500円。メイプルシュガーがさらに香りを引き立てる。
ブレンドコーヒー500円。メイプルシュガーがさらに香りを引き立てる。

直子さんが作る自家製のコーヒーゼリーもこだわりの一品。エスプレッソ用の豆で落としたコーヒーを使っている。コーヒーゼリーに合う豆、焙煎具合、濃さなど試行錯誤を重ねたという。

「コーヒーとして飲むのは美味しくてもゼリーにすると全然美味しくない豆もあるんですよ」と直子さん。ちょっとでも酸味のある豆だと全然ダメなんだそう。

自家製コーヒーゼリー バニラアイスクリーム添え660 円。
自家製コーヒーゼリー バニラアイスクリーム添え660 円。

たっぷりの生クリームとバニラアイスもうれしいけど、ゼリーをそのまま食べても美味しい! 苦すぎずほんのり上品な甘さがついていて喉ごしもよく、いくらでも食べられそう。お酒を飲んだ後に食べていくお客さんもいるというのもうなずける。

「あなたは光の戦士ですか?」ゲーム好きが集う店

店名のTJは、神谷家の愛犬の名前ティーダとジェクトの頭文字。ゲーム好きな人はお気づきかもしれないが、ティーダとジェクトは“ファイナルファンタジーX”の登場人物の名前だ。実は勝也さんと直子さんは大のファイナルファンタジーファン。ゲーム好きなお客さんが来たときは、2人も一緒になって盛り上がるんだそう。

そういえばお店の入り口に“光の戦士優遇店”の張り紙が(“光の戦士”とは“ファイナルファンタジーXIV”のプレイヤーのこと)。

「はい、“光の戦士割引”ってのをやってます」。店に来て「光の戦士です」って名乗るってこと? 「そうです。けっこう来てくれますよ。たまにぜんぜんゲームを知らない人が言ってきたりもするんですけど、会話でばれますからね」。……ニセモノは見破られるそうなので要注意!

神谷さん夫妻と会話が弾むカウンターは9席。テーブル席もある。
神谷さん夫妻と会話が弾むカウンターは9席。テーブル席もある。

「とにかく、お客様にくつろいでもらいたい」と話す神谷さん夫妻。堂々とタバコを吸える場所がほとんどなくなった昨今、周りの人に余計な気を遣うことなくタバコを楽しめる店は貴重だ。そして、ゲーム好きな人たちが集い、語り、盛り上がる場所。ゲームをやる人もやらない人も混ざって、どんどん話題が広がっていく。

タバコの煙がくゆっていても、店内の空気は気持ちがいいはず。タバコもゲームも、好きなことを共有できるってステキ。私もファイナルファンタジーを始めてみようかな、と思ってしまった。

住所:千葉県船橋市本町4-35-21 カナーズ1F/営業時間:11:30~15:00・18:00~23:00/定休日:月/アクセス:JR・京成電鉄本線京成船橋駅から徒歩7分

取材・文・撮影=丸山美紀(アート・サプライ)