新品から好きだった古着に転換。古着独特の流通をうまく取り入れて安さを実現
ルック商店街にある古着店『BoobyTRAP』は緑色のテントが目印。現在高円寺に3店舗を展開する古着店グループ「グラスホッパー」の1号店で、安く古着が買える店として知られている。
代表の飯塚敏雄さん、通称サクさんが1998年に独立したときは新品の衣類を扱う店だった。独立以前も新品のメンズ衣料品を扱っていたサクさん。小ロットをスピーディーに作ってくれる韓国のメーカーに依頼してオリジナルアイテムを展開していた。
当時、そのやり方に興味を持ったのが高円寺の古着店経営者たち。小ロットでオリジナルを作るためのノウハウや取引先を教えて欲しいと頼まれた。もともと古着好きでもあったサクさんもお返しにと古着のノウハウを教えてもらったことから古着も扱うようになり、それからしばらくして古着ばかりを扱うようになった。
「好きだった古着を一点ものとして扱う方がおもしろいと思ったんですよ。うちの強みだった韓国の市場で小ロットの服を作ってもらう方法がなくなったり、新品がパタリと売れなくなったりしたことも後押ししました」
新品を扱っていた頃から、サクさんは海外から直接仕入れることを得意としていた。古着を扱うようになってからは、タイなどアジア諸国に仕入れに出かけることも増えた。繊維のリサイクルを目的に世界中から古着が集まる集積所があるのだ。
「工場で使うウエスとしてTシャツを加工したり、反毛という綿状に加工したりするリサイクル事業がアジアを拠点にしているんですよ。集まってくる衣類を仕分けすると、古着として商品になるものも含まれている。それを古着を商売にする人が買っていくんですね」
『BoobyTRAP』のいちばんの魅力は安さだが、その背景にはそういった古着独特の流通システムもある。
「安くて、流行のものを投入していくのがポイント」とサクさんは話すが、品揃えの幅広さ、価格の安さのおかげか、お店にはさまざまな年代の人が立ち寄っていく。昼間は年齢層が高く、夕方になると若い世代が多いというのも『BoobyTRAP』の特徴だ。「店を始めた頃20歳の若者だった人も、今や40歳だからね」とサクさんが話すように長年通う常連も多い。
ネクタイにスーツ、バンドTシャツ!幅広いラインナップがおもしろい
『BoobyTRAP』で目玉とも言えるのはネクタイ。少しダメージがあるものは、誰もが知る高級ブランド品でも、たったの100円という安さだ。定価なら3万円は下らないようなものを10本単位で購入して、自分でアイロンがけなどメンテナンスしたあと、オークションに出して利益を出すツワモノもいるという。
80年代や90年代に注目が集まる今は、仕立てのよさそうなジャケットも取り揃えられていて、そのラックだけを見るとあまり古着屋っぽくない。セットアップのスーツは若い世代が成人式やら、卒業式、入学式などを目的に買っていったり、日常的に着崩してみたりもしているとのこと。
幅広い年齢に人気があるのは革ジャンやミリタリーもの。「革ジャンはファッションというより冬には寒さ対策の必需品だね」と実用的な意図で買っていく人も多い。
季節を問わず力を入れているのがTシャツだ。80年代から90年代のバンドTシャツや、MBAやハードロックカフェのものなど掘り出し物が見つかる。懐かしいバンドやショップの名前が入ったアイテムは、見ているだけでも楽しめる。
ロックテイストのファッションは、新品を扱っていたときから力を入れているジャンルでもある。そのせいか近隣のライブハウスからは、毎日のようにチラシを置いて欲しいと頼まれていたこともあった。名の知れたミュージシャンが来店して商品を買ったこともあれば、何も買わずに出ていってショックを受けたこともあるというから高円寺らしいエピソードだ。
厳しい客が揃う高円寺で長く店を続けてきた秘訣は、社長が自らまめに働くこと!?
そもそもサクさんが独立するにあたって高円寺を選んだのは、当時高円寺に新品の服屋といえばチェーンのジーンズショップ1軒しかなかったから。当時から高円寺で洋服屋といえば、古着屋だったのだ。
「高円寺は古着文化が根強いですね。かつては学生の街で、古本屋、古レコード屋も多かったんですよ。古いけどいいもの、安いけどいいものを欲しがる土壌があります。お金がない分、知識のある厳しいお客さんが多いんです」
20年以上も店をやっていると、町の変化にも敏感になるようだ。「高円寺は、新宿に近い割に家賃が安いから、〇〇ブームになるとそのお店がどっと増えるんですよ。カフェブームのときは若い人たちがカフェを出していたし、美容院の注目度が高くなると小さな店舗が空いたと思ったら美容院になる。それで今は古着屋がたくさんできた感じだね」
「高円寺で成功すればどこでもやっていけると言われている」と話すサクさんに、20年も店を続けてこられた秘訣を聞いてみた。答えは「俺が働くことじゃないかな」。還暦を迎えたサクさんは、店は若いスタッフに任せつつ、仕入れのために長期で海外に行くこともあれば、YouTubeで古着屋開業講座なる動画を配信するほか、地元の古着店を盛り上げる活動も合わせて行っている。高円寺の厳しいお客さんに応える『BoobyTrap』は、これからどんな作戦に出るのか、気になるところだ。
取材・撮影・文=野崎さおり