誘惑だらけの商店街を抜けて……
雑色駅からスタート
世の中には一部、一般的なイメージの範疇を大きく超えて立派な食事処を併設している銭湯があり、僕はそういう施設を心から愛している。今回巡るのはその最上級。湯上がりにゆったりと食事や酒を楽しめる上、なんとお風呂が天然温泉という天国のような2軒だ。大田区は「黒湯」の温泉が広く分布していることで有名な地。そんな温泉施設が徒歩でハシゴできる距離に数軒存在する雑色〜蒲田近辺は、僕にとってはもはや湯治場だ。この日のスタートは雑色駅。駅前の商店街はとても活気があって、肉屋の総菜を買い食いしたくなり、「風呂前に軽く一杯やっていきます?」と聞くと、同行の編集部T橋に「今日は我慢してください!」とたしなめられるのだった。
活気ある商店街を行く
迫りくるお総菜の誘惑
まるで温泉旅館! 絶品つまみと地酒に舌鼓
そんなことをしていると、あっという間に『ヌーランドさがみ湯』に到着。ここに来るのは初めてだったが、館内に入り、あまりの雰囲気のよさに大興奮した。1階に浴室、食事や休憩ができる2階には、昔懐かしいゲームコーナーやカラオケルーム、卓球台まで完備。なにより、ステージ付きの大宴会場! 畳敷きの大広間に長テーブルがいくつも並び、日が差し込む窓の外のテラスには、ちょうど紅葉が見ごろを迎えている。もうここ、ほとんど温泉旅館じゃないか!
種類豊富なお風呂を楽しむ
風呂の種類も多く、とくに東屋風の露天の居心地が極上だ。まったりとした肌ざわりの黒湯を出ると、体がぽかぽかといつまでも温かく、その状態でキーンと冷たい生ビールを喉に流しこめば、「は〜……」。言葉が出ない。
充実のつまみで昼飲み開始
料理は専属料理人が作る本格派で、特に日替わりの壁メニューには、新鮮な魚介もあり、居酒屋顔負けの品揃え。巨大な海老カツの盛りつけに、しばし目が釘づけになった。ご主人すら何年前かわからないという創業時、ここは食堂だったそう。その頃から付き合いのある酒屋から仕入れたという、地酒まで揃えている。
こだわりの日本酒も勢ぞろい
あ〜、このまま一日中ここにいたい。だけど、今日は“温泉ハシゴ酒”なる酔狂な企画の真っ最中だったことを悔やむしかない。
なぜかやりたくなるレトロゲーム
グッズも忘れずにチェック
黒湯の殿堂で触れるもうひとつの温かさ
続いて向かったのは、おなじみの『蒲田温泉』。とりあえず儀式のように熱湯へ入り、ひぃひぃ言いながら一瞬で上がり、あらためてぬる湯でリラックスする。
歴史ある黒湯を堪能
ここの湯上がりのお楽しみは、なんと言っても「温泉釜めし」。各種具材の味がよ〜く染みこんだ、黒湯を意識した茶飯をつまみに、「黒湯ビール」をぐいっとやる。……っぷはー! なにからなにまで黒湯ずくめの極楽だ。
名物の釜めしと黒湯ビールで乾杯
これが大田区名物・汐焼きそば!
この満足感。酒場に繰り出すのは今日は無理!
優しく世話を焼いてくれる女将さんとの会話も楽しみのひとつ。訪れるたびに「うちは本当に自由だから。どうぞいたいだけいて、好きに過ごしてね」なんて言ってもらって、心までぽかぽかになってしまうのだった。
もう酒場にはいけない体に……
某女優も着ていた蒲田温泉Tシャツ
『黒湯天然温泉ヌーランドさがみ湯』詳細
『蒲田温泉』詳細
取材・文=パリッコ 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2022年1月号より