1989年オープン。駅前でいつも待っていてくれるような安心感
『Yonchōme Cafe』は、高円寺南口のロータリーに面したビルの2階にある。高円寺駅のプラットフォームに降りたとき、南口に立ったとき、ふと看板が目に入る。いつもそこにあることに安心感を感じる店だ。
駅前にあってアクセスが抜群なこと、ランチタイムから夜遅い時間まで休憩時間なく営業していること、個人経営のカフェながら広々としていて席が多いから仲間と集まりやすいこと、またボリュームのあるメニューが手頃な値段で提供されることなど、高円寺に集まる若者たちにとってはありがたい存在だ。これまで客として訪れていた人の中には、作家や役者、ミュージシャンとして有名になった人も多い。駆け出しの頃に訪れた思い出の場所として公に名前を挙げたり、作品に取り入れたりする人も少なくない。
『Yonchōme Cafe』ができたのは1989年。ニューヨーク留学から戻ってきたオーナーが、留学中に気に入っていたアメリカンダイナーのエッセンスを取り入れた店を作った。店内に鉄製のフェンスがあるのは、ニューヨークの街並みを意識してのことだ。
ニューヨークを意識したインテリアだが、店内のあちこちにあるステンドグラスはフランスの教会、大きな時計はロンドンの駅で使われていたもの、天井はアメリカから取り寄せたブリキ細工と、オープン当時から店のインテリアにはオーナーの思い入れが詰まっている。今では店内でWi-Fiも利用できる環境となっているが、その設備追加の時にも店の雰囲気を壊さないようにと、ケーブル類の色も厳選するなど店の雰囲気を守りながら、時代の流れを共存させる配慮も欠かさない。
コーヒーは“いかにもアメリカンダイナーで使われる分厚くてたっぷり入るカップ”で提供されるのが店の伝統だ。コーヒーはこのカップで出すと決めているオーナーは、ときどきアメリカまで行ってはスーツケースいっぱいにマグカップを買って帰ってくることもある。
テレビや映画のロケ地として使われる聖地としての顔も
インテリアのこだわりが映像制作関係者に気に入られてのことか『Yonchōme Cafe』は数々の映画やドラマのロケ場所として使われてきた。代表的なのは1990年公開の映画『つぐみ』や、2011年の映画『ツレがうつになりまして。』。映画に使われたメニューを目当てに訪れる映画のファンも後を絶たない。近年テレビドラマのロケに使われたときにはTwitterで「『Yonchōme Cafe』がロケに使われている!」と常連客らしきアカウントが盛り上がった。
メニューが豊富なのも『Yonchōme Cafe』の特徴だが、やっぱり代表的なメニューはタコライスだろう。ピリ辛の自家製チリミートが食欲をそそり、ボリュームもたっぷり。表面には野菜がたっぷりと野菜不足になりがちな人にもぴったりだ。
アメリカンダイナーらしいメニューとしてここ数年で追加されたのがハンバーガー類だ。手作りのバンズは、外側がカリッとしていて中身がじわっと柔らかい。粗挽きの牛100%のパテの上に、レタス、トマト、玉ねぎがのってボリュームもある。
窓際の席からは高円寺のロータリーが見渡せ、行き交う人々を眺めながらアイデアを巡らせることができるのも『Yonchōme Cafe』のよさ。気負わない雰囲気でのんびり過ごせる。広い店内の一角で仲間たちが賑やかな時間を過ごすことから生まれたカルチャーもあるに違いない。
夢を目指す人たちが集ってきた『Yonchōme Cafe』。これからも高円寺から羽ばたく若い人たちを応援し、かつての若者たちには思い出の地としても変わらずそこにあって欲しい。
取材・撮影・文=野崎さおり