まるで寿司屋!? ムード満点な店内に酔いしれる
都内屈指の観光地である浅草。駅から歩けば浅草寺に雷門など、様々な観光スポットが目に入って来るが、メイン通りから少し外れたところを歩くと下町ならではの風情溢れる景色が広がってくる。
そんな街に昭和28年(1953)から開業しているのが『おにぎり 浅草宿六』。都内のおにぎり屋さんとしては最も古いお店とも言われている。
「もともと僕の祖母がお店を始めて、僕で3代目になるのね。おにぎり屋にしたのは……おにぎりしか握れなかったからかな(笑)?」
そう答えてくれたのは、3代目のご主人である三浦洋介さん。生まれも育ちも浅草ということで開業当時のお店の様子も詳細に教えてくれた。
「この辺は夜になると飲み屋街になるので、ウチのお店もそれに合わせて当時は夕方5時から朝の3時までという営業時間だったの。それでシメにラーメンを食べるんじゃなくて、おにぎりを食べに来るというのが、この辺では通例になっていったの」
おにぎり屋さんと言うと、どちらかというと朝早くにオープンして、夕方には閉店しているというイメージがある中で意外な答えとなったが……三浦さんは「僕がお店に立つようになってからはお昼もやるようになったけど、他の店が最初じゃないかな? 朝の時間から営業しているというのは」
浅草の街に長年店を構え、都内のおにぎり屋さんの元祖とも言える『おにぎり 浅草宿六』。初めての専門店ゆえにお店の営業時間にも当時からこだわりがあったようだ。
あまりの人気ぶりに最大2時間待ちということも!?
さて、改めて『おにぎり 浅草宿六』の店内を拝見すると……おにぎり屋さんというよりもまるでお寿司屋さんやちょっとした料亭の雰囲気。お店が夜の時間帯をメインにしていたこともあって、イメージしていたおにぎり屋さんとはちょっと違う雰囲気だ。
「もともとは常連さんがシメで食べにくる感じだったんだけど、ランチをやりだしたら若いお客さんが買いに来てくれるようになったかな。コロナ前は観光客っぽい外国人の方も多く来てくれたんだけど、混雑すると4時間待ちとかもザラだったから、意外と外国人の観光客は減っちゃったけどね」
気になるお店のおにぎりの具材は定番のさけや梅干、おにぎりの具材ではあまり聞きなれない福神漬や紅生姜など、常時15~17種用意されている。気になった具材を見つけたら、お寿司屋さんのように三浦さんにオーダーしてから握ってもらう。
おにぎりの命とも言えるお米は年ごとに最高のものを選ぶというこだわり具合で、今年の場合は新潟県産のコシヒカリを使用。そして具材でも梅干しならば紀州の南高梅を選ぶなど、シンプルなものだけにひとつひとつ細かなこだわりを見せている。
しかし、お店としてのおにぎりのこだわりについて伺うと……「お店としてはこだわりはありません」という意外な答えが。果たしてその真意とは?
衝撃のフワフワ食感で、忘れられないおにぎりに!
手慣れた様子でおにぎりを握り、カウンター前に出してくれた三浦さん。おにぎりへのこだわりは、まさかのこだわりなしという回答になったが……それには三浦さんなりの思いがあった。
「おにぎりの情報については答えられるけど、味とかを語るのって苦手なんだよね。そういうところってお客さんそれぞれに感じてもらうものだと思っているからさ。ライターさんの思うように書いてみてよ」
ということで三浦さんの代わりに筆者が答えると……とにかく柔らかいのが最大の特徴。ギチギチに固めすぎず、かといって普通のご飯のようのまとまりがないわけではない。ひと口食べると口の中で米がフワっと広がっていく。具材のさけに到達すると、程よい塩味とご飯のバランスが見事でついつい二口、三口と進んでいく。
おにぎりはシンプルなメニューだからこそ、細部にまでこだわると、こんなにも上質なものへと様変わりする。浅草に行けば立ち寄りたくなる『おにぎり 浅草宿六』は、まさに浅草きってのグルメの名店と言えるだろう。
最後に三浦さんに「このお店のPR」をお尋ねしたところ、「浅草にはウチ以外にもたくさんいい店があるからね!」と少し自虐的なコメントが……。
「駅から歩いてきて分かったと思うけど、うちは浅草でも中心部ではないじゃない? でもそういう、メイン通りから外れたところにあるお店こそがホントの浅草でそれぞれの通りの外側に行くことが面白いよ。地元民が愛するお店がそこにはたくさんあるし、5分だけでも少し多く歩けば、いい店はたくさんある。それが浅草の良いところだね」
浅草を本当に愛しているんだなあ。
構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌弘