そもそもの始まりは「庶民の手に届くようかんを」
まもなく創業120年を迎える浅草の『舟和』は全国においてもその知名度は高い。お芋の銘菓は数あれど、長きにわたって人々に愛されてきた「舟和の芋ようかん」は日本の和スイーツの代表格ともいえるだろう。
創業者である小林和助が、当時高級品だった煉(ね)りようかんに代わってもっと庶民が手軽に楽しめるようにと考案したのが芋ようかんだった。 その後も時代の流れに伴い、これまでの伝統を受け継ぎながらも、カフェやスイーツの実演販売店などを展開して新しい風を取り入れてきた。
現在浅草にかまえる6店舗のうちの3店舗 (仲見世1号店、2号店、3号店)は、浅草寺へと一直線に伸びる仲見世通り沿いに隣り合って並んでいる。浅草寺に向かって手前から1号店、3号店、2号店と不規則なのがおもしろい。これは店ができた順番につけられたのだとか。
お芋好きにはたまらない舟和ならではのスイーツメニュー
今回訪れたのはその真ん中にある3号店。お芋スイーツを中心とした実演販売店だ。話を伺った(株)舟和本店営業部の圷(あくつ)さんと仲見世担当の菅野(かんの)さんによると、お客様の大半は女性なのだそう。
たしかにお芋好き女子は多い。これは確固たる事実である。お芋スイーツが勢ぞろいの店があれば、つい立ち寄りたくなる習性を持っている。店のメニューの多くは舟和ならではのスイーツ。他ではなかなか食べられないと思うとどれも食べたくなってしまう。
困った!
そこで参考までにお二人に3号店の人気商品を尋ねてみた。
芋バターどら焼き380円
女性に圧倒的人気を誇るメニューだ。食べやすいようワンハンドタイプに改良されており、普通のどら焼きとは一線を画している。もちろん筆者もいただいた。たっぷり入ったバターの程よい塩気と、芋あんのやさしい甘さのハーモニー。これはもう間違いないおいしさである。
ちなみにこの3号店は唯一どら焼きを実演販売している店舗。芋バターどら焼きを含め、全部で4種類あるどら焼きメニューは、ここでしか買うことができないので要チェックだ。さつまいもが苦手な方は小倉バターどら焼き380円はいかが?
芋ようかんソフトクリーム350円
芋バターどら焼きと並ぶ不動の人気商品。菅野さんいわく「日本のお客様には圧倒的に芋ようかんソフトが人気ですが、外国人のお客様に人気なのは抹茶ソフトなんですよね。」なるほど、やはり日本人には「舟和=芋ようかん」という概念が刷り込まれているらしい。こういう裏話も浅草ならではという感じがしておもしろい。
そして寒い時期に人気なのがこちらである。
焼芋ようかん280円(数量限定)
焼いた芋ようかんの上にバターをのせた3号店ならではの味だ。溶けたバターが温かい芋ようかんをやさしく包み込む。いつもの芋ようかんとはまた一味違うおいしさを楽しみたい。
他にもトロッとした汁に香ばしい焼き餅が入ったお芋のおしるこ380円(冬季限定)や、マイルドな甘味と塩味のコラボが絶妙な芋ようかんとクリームチーズパイ380円もぜひ押さえておきたい。
ちなみに仲見世通りでは食べながら歩くことは禁止されている。横に設置されたカウンターで楽しもう。
柔軟さとスピード感が魅力の『舟和』という企業
現在(株)舟和本店では、代表取締役社長・副社長ともに女性が務めるという。圷さんと菅野さんはこう口を揃える。「私たち男性には思いつかない女性ならではの視点や発想が多いですね。」いらっしゃるお客様の多くが女性である『舟和』にとって、トップのお二人が女性というのは大きな強みといえそうだ。
また『舟和』は現場の声にも柔軟に耳を傾けてくれる社風なのだという。たとえば新商品についてもそうだ。社内には「企画開発課」があるが、その一方でお客様と日々接している店のスタッフからの提案で生まれるメニューも少なくない。
「まず企画書を提出するんですか?」と、この日案内していただいた圷さんと菅野さんのお二人に聞いてみると、「いえ、実際に商品を作って現物を持っていき、社長に食べていただきます。それが一番早いですから。」との答えが返ってきた。
思わず「え?社長さんとはそんなに近い距離感なんですか?」と聞き返す。どうやら筆者がイメージする「120年の老舗『舟和』」と実際のそれとでは、よい意味で大きな隔たりがあるようだ。
「早いときは提案から2週間で商品化されることもあります。『すぐにお店に出してください。』と言われて、逆に現場のスピードが追いつかないときもあるくらい。」と圷さんは苦笑する。
なるほど。『舟和』で働くには相当なスピード感が必要なのですね。
それにしても圷さんと菅野さんのやりとりが何ともほのぼのとして心地よい。そしてお二人のことばの随所には「舟和愛」が感じられるのだ。
現場からの声を届けられる風通しのよさ。それに耳を傾ける柔軟さ。そして形としてつくりあげるまでのスピード感。長年受け継がれてきたものを守りつつ、攻めの姿勢も忘れない。そんな『舟和』の一面を思いがけず覗かせてもらうことができた。
構成=フリート 取材・文・撮影=千葉深雪