『新装版 東西名品 昭和モダン建築案内』
比較して楽しむ、1920年代の建築群
建築は文化の、時代の鏡だ。東京圏と京阪神圏に現存する建築を比較しまとめた本書が注目したのは1920年代。大正末期から昭和初期。それは西洋の技術と知識の流入を経て、大衆文化が花開いた時代だった。その空気を知る人はもうほとんどいないだろうが、当時の英知の結集である建築物はタイムカプセルのように街に佇み、100年の時の流れを物語る。
とりあげるテーマは19。例えば巨匠フランク・ロイド・ライドの項なら、東は自由学園明日館(みょうにちかん)、西は旧山邑家(やまむらけ)住宅。小学校なら東は泰明小学校、西は旧明倫小学校といった具合。
難解な専門性の高い解説ではなく、設計意図や地域における当時そして今の役割などを中心とした説明で、何よりビジュアルが美しい。なかでも個人的に好きなのは、編集部にもほど近い旧佐藤新興生活館、現・山の上ホテルだ。コンパクトながら趣あふれる空間で、ひとたび入るとタイムスリップした心地になる。対する西は現・東華菜館で、あ、清洲寮もいいよな~、駅は鶴見駅を取り上げるとは! とページをめくる手がとまらない。なじみの薄い関西の建築も、東との比較で眺めると興味が湧いて、訪れてみたくなるから不思議だ。
とはいえ、この本は単なる建築紹介では終わらない。グローバル化が進むなかで、独自の文化とは何なのか、過去の財産をどう残し、活かしていくべきかを筆者は強く問いかける。
ディテールや歴史背景を知れば知るほどに建築、そして街歩きは面白い。目に映る建物を前に自らが属する社会のあれこれを考える、脳内散歩のヒントも詰まっている。(町田)
『川端龍子vs.高橋龍太郎コレクション ~会田誠・鴻池朋子・天明屋尚・山口晃~』
『龍子記念館』で開催された同書タイトルの展示会の図録兼書籍。近代日本画の巨匠・川端龍子の作品と、現代美術収集家・高橋氏が率いる会田誠氏、山口晃氏ら現代美術作家の各作品を、左右見開きで並べるなど、実際の展示を再現している。それらの対比は、時代の風雲児たちの対決か、それとも共鳴なのか、肌で感じたい。(高橋)
『グッモー!』
「グッモー」から始まるTwitterで注目されるタレント・井上順さんの初エッセイ。前半は生い立ちから芸能界での活躍など半生を振り返り、後半では渋谷で生まれ育ち、今も渋谷で暮らす著者お気に入りの渋谷散歩コースやスポットを掲載。街中でのスナップも多く、激変する渋谷の新しい魅力も伝わってくる。(土屋)
『百花帖』
挿し花家の雨宮ゆかさんがセレクトした、初心者でも気軽に扱える親しみやすい100点の花紹介。生け方やうつわとの合わせ方にはじまり、それぞれの花の育て方や人の暮らしとの関わりがつづられるエッセイ。生活のワンシーンに寄り添うようなそれぞれの写真が味わい深く、思わず花を買いに出かけたくなってしまう。(吉岡)
『散歩の達人』2021年12月号より