2019年にリニューアルした『浅草おでん大多福』の新店舗を探索

つくばエクスプレス・浅草駅から徒歩約5分。ビルの立ち並ぶ言問通り沿いに、行燈の灯る細道が現れる。大正4年創業の老舗『浅草おでん大多福』は、2019年に店舗を一新し、モダンな雰囲気で出迎えてくれる。

創業100年を超える老舗の風格にちょっとドキドキしながら扉を開けると、これ以上ないほど大きな酉の市の熊手が賑やかに出迎えてくれた。玄関には4代目手作りの旧店舗の模型が飾られ、2階の内扉には、旧店舗で使っていた外扉がそのまま流用されているという。昔から通う常連さんはもちろん、初めてのお客さんも昔の雰囲気を楽しめる工夫が嬉しい。

今回案内してくれたのは、6代目若旦那の舩大工海斗さん。大学卒業後に、日本酒と和食のお店での修業を経て、2019年のリニューアルオープンからお店に立つようになったという。今は、4代目、5代目と共に、親子3代で老舗の味を守っている。

3階まである店内には、カウンター席とテーブル席、円卓、個室まであり、一人でもグループでも過ごしやすそうな雰囲気だ。テーブルには専用の小鍋を設置してもらえるので、どこでも熱々のおでんが食べられるのが嬉しい。
が、若旦那曰く、初めてならカウンターで食べるのが一番おすすめだという。最高の状態でおでんが食べられるのはもちろん、作り手と直接コミュニケーションを取れるのも楽しい。じっくり話をしてみたいのなら、あまり混まない夏場が狙い目だ。

頼み切れないほど種類豊富なおでん種と、ちろり&樽酒の存在にワクワク

さて、さっそく頼もうとおでんのメニューを見ると、あるわあるわ、定番のおでん種だけでも30から40種。それに加えて季節ものも鍋に加わるというから、一度では到底頼み切れない。お店の人におすすめを聞いたり、カウンターなら目の前の大きなおでん鍋を眺めたりしながら、食べてみたい具材を少しずつ頼んでいこう。
ちなみに写真のお品書きは、初代店主直筆の年代物。今は無いメニューもあるが、キャベツ巻きや葱まぐろなどの人気メニューが、創業当時からあったことがわかる。

おでんの到着を待つ間にビールでも頼もうかと思ったが、カウンターの奥に素敵な樽を発見してしまった。木の香りが華やかな樽酒白鶴 一合700円、頼むとその場で樽から注いでもらえるのも楽しい。

更にお酒好きの心をくすぐるのが、壁に掛けられた常連さんのちろり。もちろん初めてのお客さんでも、カウンターで頼めばちろりでお燗してもらえる。

お通しで一杯やっていると、さっそくお待ちかねのおでんが登場! おでんだしの濃厚な香りと、みるからに味の染みた黄金色のおでん種は、眺めるだけでもお酒が進んでしまいそうだ。
それではさっそく、頂きます!

100年継ぎ足したおだしと絶妙な火入れで、おでんはここまで美味しくなる

まずは、常連さんに人気のおでん種のひとつ、キャベツ巻き550円を頂く。ナイフを入れてみると抵抗なくスッと切れ、ミルフィーユのようなキャベツの層が現れた。お箸で持ち上げてみるとずしりと重たい。じゅわっとおだしを含んだキャベツはとろけそうなほど柔らかく、野菜の甘みと、噛むほどに染み出す挽肉の旨味が加わって、何個でもぺろりと食べられる美味しさだ。

家庭のおでんが御馳走になる、『浅草おでん大多福』のキャベツ巻きのレシピ
季節ものを除いても30~40種あるという多彩なおでん種のなかでも、1、2を争う人気メニューが、キャベツ巻きだ。一見洋食のロールキャベツのようだが、こちらはあくまでキャベツが主役。挽肉の旨味とおでんのお出汁をたっぷりと含んだ…

次に頂いたのは、これまた常連さんに人気の、つみ入れ(つみれ)440円。毎朝生のイワシを仕入れ、粉は極力控えめに作るという一品で、これを食べるために通っている常連さんもいるそう。
箸で簡単に切れる柔らかなつみ入れは、舌の上でほろりとほどける。キャベツ巻きと同じおだしで煮ているはずなのに、いわしの濃厚な旨味が加わって、別の料理のような新鮮さだ。
聞けば、ただ一緒に煮込むのではなく、素材ごとに仕込みを変え、おでん鍋からお客さんに出すときにいちばん美味しい状態になるよう管理しているのだとか。たくさんの旨味が混在しているのに素材の味も活きているのは、その絶妙な煮込み時間と火入れ具合によるものなのだ。

鍋の中でひときわ目立っていたのは、たこ足990円。たことは思えない柔らかさで、噛めば噛むほど旨味が染み出す。
そして忘れちゃいけないのが、おだしの旨味をダイレクトに感じられる白滝170円と大根330円。大根は、なんと仕込みに3日も掛かるそう。1日目に水煮して冷まし、2日目にだしで煮て冷まし、3日目にやっとおでん鍋に入るという大根。見た目通り味染み抜群で、ちゃんと食感も残っているけれど、舌の上で最後はスッと無くなる淡雪のような仕上がりだ。

関東のおでんと言えば、濃口醤油で辛めに仕上げるのが定番だが、大多福はもともと関西をルーツに持つ店なので、薄口醤油ベースでだしを活かした味付けになっている。開店当初から継ぎ足し続けたつゆは、さまざまなおでん種から出るだしがまろやかに溶け合っていて、つい最後まで飲み干してしまいそうだ。

親子3代で作り出す、アットホームで遊び心溢れる空間

ところで、最近Twitterで一躍話題になったこちらのおでん蛇口。実は『浅草おでん大多福』の2階トイレに設置されているものだ。老舗なのに、こんなにふざけちゃって大丈夫?と思ったら、なんと旧店舗のトイレでは足元に金魚が泳いでいたというから、この茶目っ気は筋金入りだ。

お店の中を見回してみると、隠しおでんが散りばめられていたり、古地図や東京芸大生の作品が飾られていたりと、他にも気になる要素が満載だ。つい、これは何ですか?と店員さんに話しかけるところまで含めて、この店の楽しみ方なのかもしれない。

カウンターにかかるこの暖簾、実は4代目手作りの品だという。
「カウンター越しにお客さんの顔がよく見えるように、敢えて短くしたんです。カウンターのアクリル板にミニ暖簾を付けたのも、祖父の発案なんですよ」と教えてくれる若旦那の嬉しそうな様子に、なんだかこちらもほっこりと楽しい気分になって来る。
100年の歴史を持つ老舗ながら、誰もが親しみやすいこの店の魅力は、そんな親子3代の遊び心を忘れない楽し気な雰囲気が作り出しているのかもしれない。

『浅草おでん大多福』店舗詳細

住所:東京都台東区千束1-6-2 NS言問ビル1F/営業時間:10月~2月は16:00~22:00LO、3月~9月は17:00~22:00LO/定休日:月/アクセス:つくばエクスプレス浅草駅から徒歩5分

取材・文=岡村朱万里 撮影=高野尚人