暮らす街に、ほっとくつろげる夜カフェを。

市街地から少し離れた住宅地、武蔵野市民文化会館の近くにわずか8坪ほどのちいさなお店をかまえている。三鷹駅北口から歩いて13分ほどだ。午後3時のお茶時に、温かみのある外観に惹きつけられ、そっと扉を開いて入ってみることに。

バス通りに面したマンションの1階にたたずむ。ベビーカーでも入りやすいようスロープも。
バス通りに面したマンションの1階にたたずむ。ベビーカーでも入りやすいようスロープも。

店内では店主が一人で仕込みをしている真っ最中。焼き上がったマフィンの香りがふわりとただよってくる。店で提供する食事・焼菓子・スイーツは、全て店主である鈴木菜央さんの手作り。2008年までは会社勤めをしていた鈴木さん、仕事のかたわらで焼き菓子やパンの作り方を独学で学んできたそうだ。

「両親が飲食店を経営していたこともあって、いつか私もカフェを開けたらいいなと思っていたんです。むしろそれが当たり前の景色だったんですよね」そうサラリと話す。

「会社を辞める」と決めてから、なるべくできることは自分でしたいと、店の場所探しから内装の仕上げまで、友人たちと共に自分で行ったそうだ。天井のクレイペイント、壁のスイス漆喰など温かみのある内装と空気感が心地よい。

鈴木さんがセルフビルドしたという温かみのある内装。あちらこちらに雑誌や絵本が。
鈴木さんがセルフビルドしたという温かみのある内装。あちらこちらに雑誌や絵本が。

「三鷹の街に住んで、ここがとても気に入ったんだけど当時は女性が一人でふらっと行けるお店がなくて。だから一人で入るのに気兼ねなく、ほっとできる場所が自分も欲しかった。仕事の帰りの夜、ちょっとお茶して読書できるお店があったらいいなと思って作りました」

開店した2009年当時は夜の営業がメインで23時まで営業していた『yomo-羊毛-』。ちょっと食事をつまみ、お酒やコーヒーを嗜み、ゆるりと過ごす。穏やかな時を味わいたい人にとっては救世主のような場であったのだろう。

店名にちなんでひつじグッズがそこかしこに顔をのぞかせる。近隣の羊毛作家さん作のウール人形が愛らしい。
店名にちなんでひつじグッズがそこかしこに顔をのぞかせる。近隣の羊毛作家さん作のウール人形が愛らしい。

2021年12月現在は鈴木さんが育児中なので、昼の開店がメイン。それでも週に一度は夜営業を続けているのは、長年心待ちにして訪れている客がいるからだ。

体に良い素材をたっぷり使ったメニューは、ハッとするほど自然な味

カフェでの提供商品は「信頼できる、体に良いものを」と鈴木さん自らが厳選した素材を使う。チャイなどにたっぷり使う牛乳やクリームは、低温殺菌方法で広く知られる群馬の『東毛酪農』のもの。一度口にしてみるとその違いははっきり分かる。

コーヒー・紅茶は、有機栽培やフェアトレード商品を直輸入する老舗、国分寺『ろばや』のものを扱う。調味料や野菜もなるべく減農薬で、化学物質を使わない素材を揃えているそうだ。何より鈴木さん自身が「おいしいものを食べたいから」だという。

ひとつひとつ手作りの焼菓子たち。ボウロなど小さな子どもが食べれるものも。
ひとつひとつ手作りの焼菓子たち。ボウロなど小さな子どもが食べれるものも。

早速味わいを確かめたく、NYチーズケーキをオーダー。見た目とは裏腹にすっと爽やかな口当たり。乳製品と思えない軽やかさだ。チーズケーキの土台は、店内で販売する「ショートブレッド」を使用。チーズのボリュームに負けない食べ応えが嬉しい。

NYチーズケーキ600円。ボリュームたっぷりなのに爽やかな食べ応え。
NYチーズケーキ600円。ボリュームたっぷりなのに爽やかな食べ応え。

お次は、店に訪れたのなら注文したいジンジャーチャイを。ボウルに並々と注がれるチャイの中には、スライスされた高知産の生姜の砂糖煮込みが。スプーンでしっかりすくえるくらいに、たっぷりと入っている。スパイスがしっかりときいたチャイとの組み合わせは抜群だ。味わいがサラリとクセのない『東毛酪農』の牛乳が、スパイスと生姜を引き立たせ、良い仕事をしている。

スプーンですくうとこんなにたっぷりと生姜が!ジンジャーチャイ730円。
スプーンですくうとこんなにたっぷりと生姜が!ジンジャーチャイ730円。

「この牛乳おいしい」とつぶやく私に「そうでしょう?本当にクセがないし、後残りもないんですよね」と鈴木さん。この感動の味わいはぜひ一度は体験して欲しい。

焼菓子ひとつひとつも自然な味わいだ。この日の「発酵バターと生クリームのマフィン」は、抹茶ホワイトチョコと、のりチーズ味。砂糖は控えめ、ほんのり素材の味わいを感じられるしっとりと柔らかい食感だ。

発酵バターと生クリームのマフィン。のりチーズは280円、抹茶ホワイトチョコは290円。
発酵バターと生クリームのマフィン。のりチーズは280円、抹茶ホワイトチョコは290円。

店のスタイルは変化しても、訪れる人にとっていつでも安らぎの場である

鈴木さんに子どもが生まれてからは「小さな子どもが訪れても安心なお店」へとメニューも内装も変化していっているそうだ。お散歩ついでにおやつを買いに訪れる、小さな赤ちゃん連れの家族の姿が微笑ましい。

昼も夜もと「穏やかにくつろぎたい」を叶える『yomo-羊毛-』。これからも時とシチュエーションで、スタイルを変えるのかもしれない。たとえそのスタイルが変容しても、訪れる人の心が緩む不思議な時間を体験できる、そのことはずっとずっと変わらないだろう。

ひつじの形が愛らしい、店頭のサイン。思わずつられてふらっと入りたくなる。
ひつじの形が愛らしい、店頭のサイン。思わずつられてふらっと入りたくなる。
住所:東京都武蔵野市中町3-4-4 武蔵野ビューハイツF号室/営業時間:12:00~17:30LO(水は13:00~20:30LO)
/定休日:日・祝/アクセス:JR三鷹駅から徒歩13分

取材・文・撮影=永見薫