オーセンティックを追求する店づくり
悠々と流れる隅田川を渡る厩橋(うまやばし)。そのたもとに、西部劇に登場しそうな味のある雰囲気を湛えた店が現れる。上部には、大きく「BURGER」の文字。そう、ここが今回紹介する『McLean -OLD BURGER STAND-』だ。
店の前には、外観の世界観をさらに演出する看板やフライヤーなどが並ぶ。中へ入ると、細部の至るところにまで趣向を凝らした内装が姿を見せる。落合さんによると、この店のコンセプトは「アメリカに初めてバーガースタンドが誕生した1800年代後半頃のスタイル」をイメージしているそう。ちなみに、1階の半分は『LEAVES COFFEE』というコーヒースタンドが入り、複合施設として運営されている。
2階は『McLean -OLD BURGER STAND-』専用の飲食スペースとなっており、落合さんが集めたアメリカのアンティーク雑貨が随所に飾られている。その一画に、店づくりの参考にしたという1920年頃のバーガースタンドの写真が飾られていた。その上の写真には、見覚えのあるメニューボード。「これは、アメリカのマクドナルド1号店の写真です。実は、店の1階にあるメニューボードはこれをもとに作ったものなんです」と、落合さん。改めて見比べてみると、本物同様に再現されているのが分かる。
自身も大のハンバーガー好きを公言する落合さんは、本場アメリカのハンバーガー事情や歴史などに広く精通する。その中でも、外観のデザインにも表れているバーガースタンドが誕生した当時のオールドスタイルに強く興味を惹かれ追求。外観だけでなく、内装やメニューにまでそのスタイルが貫かれている。
店の世界観づくりにここまでこだわる理由を、落合さんはこう語る。「飲食店に重要なのは、決して味だけではないと思うんです。料理自体が美味しいというのは大前提として、空間も美味しさの判断を左右する大切な要素だと考えています。だからこそ、お客様の目に見えるものに関してはとことんこだわっていて、店内に飾っているものからスタッフが使用する備品に至るまで日本製のものは置いていません」。
よくある“アメリカ風”の店ではなく、あくまで忠実に現地感を再現するために妥協を見せない落合さん。その決意は、メニューにも表れていた。
“ひと口のバランス”にこだわったハンバーガー
この店で提供するのは、ハンバーガーとフライ類、そしてドリンクのみ。この潔いともいえるラインナップにも、やはり1800年後期のバーガースタンドの要素が大きく反映されている。豊富なメニューを売りにするグルメバーガー店も存在する中、あえてバーガースタンドが誕生した当時の限られたメニュー構成で勝負に出たのだ。
オールドスタイルなハンバーガーを再現したグッドオールバーガーをはじめ、アボカドチーズバーガーやベーコンチーズバーガーなどアメリカでも定番のメニューが並ぶ中、ニンジャテリヤキエッグバーガーや蔵前天麩羅バーガーなど日本らしいメニューも登場する。さらにビッグマックLという、どこか既視感があるネーミングのハンバーガーも。「マクドナルドが大好き」という落合さんが、本家ビッグマックへのオマージュとして開発した一品で、ネーミングは Big McLeanの略称から付けられているのだそう。その遊び心は、オリジナルのソフトドリンクにも垣間見えるので、訪れた際はぜひ注目してみてほしい。
この店で提供しているハンバーガーは総じて、味わいのバランスを意識して作られている。ひと口で、バンズ・パティ・野菜・ソースなどの調味料を一度に味わえるハンバーガーという料理の特性を踏まえ、食材のどちらかが主張しすぎることのない、平等なバランスを重要視しているのだ。そのため、パティもガッツリとしたものにはせず、毎日でも食べられるくらいのジューシーさに仕上げているという。
オフィスや工場、住宅地、そして隣には浅草が位置していることから、コロナ禍以前は外国人観光客の姿も多かった蔵前。創業当時までグルメバーガー専門店がゼロだったこの街で、美味しいハンバーガーを提供したいと始めた『McLean -OLD BURGER STAND-』は、オープンからほどなくしてイースト・トーキョーを代表する人気店に成長した。
そんなこの店の姉妹店として、同じ蔵前エリア内に『McLean -OLD FASHIONED DINER-』(マクレーン -オールドファッションダイナー-)が2020年にオープン。こちらも、本場アメリカの古き良き時代のダイナーを忠実に再現した飲食店として人気を集めている。
『McLean -OLD BURGER STAND-』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英